冷たい月と星天のクロノグラフ

「本当に……天津さん? けど……そんなことはありえない……でも……」

梶葉くんは頭を抱えると、「待てよ」「いや」「でも」と独り言を繰り返している。


わたしだって自分が今いるところは8年後の未来だなんて信じられない。それに、わたしにはここへ来る前の記憶がない。

よく未来の人間が過去へやってくるドラマやマンガがあるけれど、わたしは過去から未来へやって来たらしい。これは現実世界で、ゲームの中でもないし、異世界転生とも違う。

ここまで考えて、笑いがこみ上げてきた。
通っていた高校の名前も、どこに住んでいたのかも、記憶がないのに、見ていたドラマや漫画なんかはちゃんと覚えている。


これは夢じゃない。


「どうして……わたしはここにいるんだと思う? 何にも覚えてないの」

困らせるようなことを言ってるのはわかってる。
でも答えが欲しかった。

いつの間にか隣に座っていた梶葉くんが心配そうな顔でわたしを見つめていた。

「泣かないで」

泣いてなんか……あまりにもバカばかしくて、わたしは笑って――

頬をさわった指先が濡れている。

「ハンカチを持ってないから……このシャツ、洗ったばっかだからきれい……だと思って我慢して」

梶葉くんがTシャツの上に羽織っていたシャツの裾でわたしの涙を拭いた。


――ハンカチを持ってないから――


頭の中に全く同じ言葉の記憶が蘇った。