「一慶さん、そろそろ行かないと」
「あ、うん。行こっか」
俺の隣で緊張気味に歩く輪島を見て、こっちまで不安になってくる。
「緊張する?」
「そりゃあ、するよ。瑞季くんの友達に紹介されるんだから」
「でも、宵とは何回か会ってるし、話したこともあるでしょ?」
「それは、職場だからだよ。もう僕は辞めてるし、今日は瑞季くんの恋人として……会うわけだし」
そう。
今日は、いよいよ宵カップルと輪島を会わせる日だ。
輪島が兵庫に行ってから早くも四ヶ月が経ち、やっと俺の方に会いに来てくれた。
自然とタメ口で話せるようになってきて、俺たちの距離が以前より近づいているのは確かだ。
「宵、絶対びっくりするよ」
「え、それどういう意味?!」
外が蒸し暑いからなのか、冷や汗なのか分からないが、輪島が珍しく汗をかいてソワソワしている。
「ふふ。大丈夫だよ。一慶さん、かっこいいから」
俺の言葉で、輪島がさらに頬を赤くする。
「そんなこと言うの、瑞季くんだけだよ」
「えー、そうかな?」
宵たちと待ち合わせしているカフェに着く。
店員に声をかけようとした時、トイレから席に戻る耀と鉢合わせる。
「あ、瑞季くん!」
「あ!耀くん、久しぶり」
約一年ぶりに、宵の恋人である耀と会った。
久しぶりに見る耀の姿は、以前よりも髪が伸びていて、ハーフアップで髪をまとめていた。
「髪、伸びたね」
「あ、うん。宵が、髪長いのも似合うって言うから」
照れくさそうに話す耀を見て、微笑ましくなる。
「あの、そちらの方は?」
俺の隣に立つ輪島をチラッと見ながら、耀が少しワクワクした表情で尋ねてくる。
「あ、うん。俺の彼氏」
俺の言葉に合わせて、輪島が軽くお辞儀をする。
「そっか!はじめまして」
耀が嬉しそうに笑いながら、何かを思い出したように話し続けた。
「あ、宵!一人で待たせちゃった。俺が席まで、案内するね」
「うん、ありがとう」
先を歩く耀の後ろに、俺たちもついて行く。
耀が席に近づき、座ってる宵の耳元で何か話すと、勢いよく宵が振り返る。
「あ、……え?!」
宵が輪島の姿を見て、少し大きな声を出した。
想像通りの反応で、俺だけが肩を揺らしてしまう。
「え、二人知り合いなの?」
耀が戸惑っていたため、急いで説明する。
「ごめん、サプライズで宵にも黙ってたんだけど。今年の三月まで、同じ病院の先生だったんだよ」
「え!そうなの?職場恋愛ってこと?」
宵と輪島をよそに、ウキウキが隠せない耀。
「うん。俺が異動した先の先生で。色々あって、付き合えた感じ」
「へー、気になるなぁ。あ、どうぞ二人とも座って」
四人席のテーブルに、宵と耀、俺と輪島が腰掛ける。
俺の隣で緊張のせいか、普段はニコニコ笑っている輪島が少し硬い表情をしていた。
「えっと。改めて……、俺の彼氏です」
「わ、輪島一慶です。その、冴島くんも久しぶり……です」
俺たちの紹介に、ずっと黙っていた宵がやっと口を開いた。
「いやいやいや。え、輪島先生が、瑞季の彼氏?」
「はい。お付き合いさせてもらってます」
「想定外すぎて……。いや、でも、なんか、……良かったです」
「え?」
「いや、瑞季の仕事辞める理由が『恋人について行く』だったんで、正直すげーやつだったら、どうしようかなって思ってたんで」
宵の言葉を聞いて、俺と耀が思わず笑ってしまう。
「ふははは。宵、親かよー」
「ふふふ。ほんとだよ。瑞季くんが選んだ相手なんだから、俺は大丈夫だと思ってたよ」
「ちょ、二人して笑うなよ」
張り詰めていた空気が、和らいでいく。
そんな俺たちを、優しく笑いながら輪島が見つめる。
「冴島くん!」
「え、はい!」
「僕が、瑞季くんのこと大切にするよ。だから、これからも見守っててね」
「ふっ、はい!よろしくお願いします」
輪島の言葉を聞いて、俺は頬が赤くなってしまう。
そんな俺を見て、耀がにやける。
「俺たちも兵庫に遊びに行くから、その時は四人で遊ぼうね」
「もちろん。ね?」
俺が輪島の顔を見ると、嬉しそうに頷く。
その後はお互いの出会いや、俺たちが家探しをした時の話をした。
「そっかー、やっぱり不動産屋は選ばないとダメなのか」
「うーん、そうだね。周りに僕たちのことを、理解してもらわないといけないのが現状だから。不動産屋の下調べも、大切だよ」
宵と輪島が普通に会話しているのを見て、嬉しくなってしまう。
そんな俺に、耀が口元に手を当てて小さな声で話しかけてくる。
「瑞季くんって凄く愛されてるね」
「え?!そ、そうかな?」
「うん!だって、瑞季くんが話す時に見つめる輪島さんの視線たるや……」
耀の言葉に、また頬が熱くなる。
――あぁ、俺も同じこと思ったな。
一年前。
初めて宵から耀を紹介された時、宵が見つめる視線に、胸の奥が苦しくなったのを思い出す。
「うん。そうかも」
「うー。いいね、いいね。どんどん惚気てよ」
コソコソと話している俺たちに気づき、宵から声をかけられる。
「何の話してたん?」
俺と耀が目を合わせて、クスッと笑う。
「「ないしょー」」
「なんでだよ」
楽しい時間はあっという間に終わり、外が明るいうちに宵たちと別れた。
昼間より少しだけ涼しくなり、駅に歩きながら輪島が話し出す。
「ねぇ、これから出かけない?」
「え、いいけど。どこか行きたいところあるの?」
「うん。ちょっとね」
輪島に言われるがまま、俺は黙ってついて行く。
「……ここって」
着いた駅の改札を出て、ビルの出口まで行くと、見覚えのある観覧車が目の前に現れた。
「うん。もう一度、瑞季くんと乗りたいなって思って」
――はぁ、もう。
俺はいつまでも、輪島一慶という沼から抜け出せないだろうな。
輪島の手に触れ、俺は小さな声で話す。
「嬉しい、ありがとう」
「うん。じゃあ、行こっか」
以前は時間も遅く、観覧車以外は乗れなかったが、今日は少しだけ時間に余裕がある。
「一慶さん、あれ乗りたい!」
「いいね。あとで、あっちの方も行こうか」
輪島と付き合ってからも、男二人でとか、周りにどう思われるかとか、全く気にならないわけではない。
でも、今はどんなふうに思われても、輪島が本当の俺を見ててくれているから安心する。
二人でいろんなアトラクションに乗り、はしゃぎながら観覧車の待機列に並ぶ。
「そういえば、今日どうだった?」
「え?あ、冴島くんたち?」
「うん。なんか途中から、一慶さんと宵で話盛り上がってたけど」
「あはは。盛り上がったっていうか、僕たちにとって情報共有はやっぱり大切だなって思ったよ」
「あー、確かにそうだね」
「うん。あと……冴島くん、本当に瑞季くんのこと、大事に思ってるんだなって」
「そ、うかな?」
輪島が少しだけ複雑そうな表情になる。
「ふふ。まぁ、俺たちは親友だから。俺の恋人は、今までもこれからも、一慶さんだけ」
俺の言葉で、輪島の頬が赤くなる。
「はぁ……。本当に、瑞季くんは凄いよ。いつも僕が欲しい言葉くれちゃうな」
――それはお互い様だよ。
観覧車に乗車する頃には、辺りが暗くなってきて地上には綺麗な夜景が広がっていた。
窓の方に身体を向け、外を見つめながら、初めてのデートを思い出す。
「前はさ、途中からあんまり見れてなかったんだよねー」
「そうなの?」
「うん。あー、もう終わっちゃうって思ったら、泣きそうになってさ」
「そっか」
――ガタッ
ゴンドラの揺れと共に、向かい合っていたはずの輪島が、俺の隣に座った。
背中を包み込むように、優しく抱きしめられる。
「……もう、瑞季くんを泣かせたくないな」
輪島の優しい声が、耳元で響き渡る。
「ふふ。ありがとう」
輪島から溢れ出る真っ直ぐな愛を、俺は全身で受け取った。
俺が夜景を見ている時、隣に座る輪島がポケットから何かを取り出して、そっと俺の首元に手を回した。
「え?!」
輪島の手が離れた時、自分の首元に見慣れないアクセサリーが見えた。
照れくさそうにしながら、輪島が俺を見つめる。
「やっぱり、形にするのも良いかなって思って。瑞季くんのは、僕の誕生石。僕のは、瑞季くんの誕生石だよ」
出かける前に輪島が珍しく、鏡で身なりを確認していたのを思い出す。
「もしかして、今つけてるのって……」
「うん。お揃いだよ」
——やばい。……泣く。
「瑞季くんが、たくさんお揃いにしたいって言ってたから。こういうの、嫌じゃない?」
「……、嫌なわけないよ」
俺は目頭が熱くなり俯く。
「ほんとさ、俺には勿体無いくらい、一慶さんは素敵な人だよ」
歪んでいく視界の中、輪島を見つめる。
そんな俺を見て、輪島が嬉しそうに微笑む。
「違うよ。僕が何かしたいって思うのは、瑞季くんだからだよ」
俺たちは見つめ合いながら、自然と唇を重ねた。
「引っ越しても、ここにはまた来たいなぁ」
「うん。そうだね。僕らの思い出の場所だもんね」
恋人から初めてもらったネックレス。
俺は自然と、首元を触ってしまう。
離れていても、お互いが近くにいる気がする。
——あぁ、もう離れられないや。
俺はもうとっくに、輪島一慶に溺れてるんだ。
「あ、うん。行こっか」
俺の隣で緊張気味に歩く輪島を見て、こっちまで不安になってくる。
「緊張する?」
「そりゃあ、するよ。瑞季くんの友達に紹介されるんだから」
「でも、宵とは何回か会ってるし、話したこともあるでしょ?」
「それは、職場だからだよ。もう僕は辞めてるし、今日は瑞季くんの恋人として……会うわけだし」
そう。
今日は、いよいよ宵カップルと輪島を会わせる日だ。
輪島が兵庫に行ってから早くも四ヶ月が経ち、やっと俺の方に会いに来てくれた。
自然とタメ口で話せるようになってきて、俺たちの距離が以前より近づいているのは確かだ。
「宵、絶対びっくりするよ」
「え、それどういう意味?!」
外が蒸し暑いからなのか、冷や汗なのか分からないが、輪島が珍しく汗をかいてソワソワしている。
「ふふ。大丈夫だよ。一慶さん、かっこいいから」
俺の言葉で、輪島がさらに頬を赤くする。
「そんなこと言うの、瑞季くんだけだよ」
「えー、そうかな?」
宵たちと待ち合わせしているカフェに着く。
店員に声をかけようとした時、トイレから席に戻る耀と鉢合わせる。
「あ、瑞季くん!」
「あ!耀くん、久しぶり」
約一年ぶりに、宵の恋人である耀と会った。
久しぶりに見る耀の姿は、以前よりも髪が伸びていて、ハーフアップで髪をまとめていた。
「髪、伸びたね」
「あ、うん。宵が、髪長いのも似合うって言うから」
照れくさそうに話す耀を見て、微笑ましくなる。
「あの、そちらの方は?」
俺の隣に立つ輪島をチラッと見ながら、耀が少しワクワクした表情で尋ねてくる。
「あ、うん。俺の彼氏」
俺の言葉に合わせて、輪島が軽くお辞儀をする。
「そっか!はじめまして」
耀が嬉しそうに笑いながら、何かを思い出したように話し続けた。
「あ、宵!一人で待たせちゃった。俺が席まで、案内するね」
「うん、ありがとう」
先を歩く耀の後ろに、俺たちもついて行く。
耀が席に近づき、座ってる宵の耳元で何か話すと、勢いよく宵が振り返る。
「あ、……え?!」
宵が輪島の姿を見て、少し大きな声を出した。
想像通りの反応で、俺だけが肩を揺らしてしまう。
「え、二人知り合いなの?」
耀が戸惑っていたため、急いで説明する。
「ごめん、サプライズで宵にも黙ってたんだけど。今年の三月まで、同じ病院の先生だったんだよ」
「え!そうなの?職場恋愛ってこと?」
宵と輪島をよそに、ウキウキが隠せない耀。
「うん。俺が異動した先の先生で。色々あって、付き合えた感じ」
「へー、気になるなぁ。あ、どうぞ二人とも座って」
四人席のテーブルに、宵と耀、俺と輪島が腰掛ける。
俺の隣で緊張のせいか、普段はニコニコ笑っている輪島が少し硬い表情をしていた。
「えっと。改めて……、俺の彼氏です」
「わ、輪島一慶です。その、冴島くんも久しぶり……です」
俺たちの紹介に、ずっと黙っていた宵がやっと口を開いた。
「いやいやいや。え、輪島先生が、瑞季の彼氏?」
「はい。お付き合いさせてもらってます」
「想定外すぎて……。いや、でも、なんか、……良かったです」
「え?」
「いや、瑞季の仕事辞める理由が『恋人について行く』だったんで、正直すげーやつだったら、どうしようかなって思ってたんで」
宵の言葉を聞いて、俺と耀が思わず笑ってしまう。
「ふははは。宵、親かよー」
「ふふふ。ほんとだよ。瑞季くんが選んだ相手なんだから、俺は大丈夫だと思ってたよ」
「ちょ、二人して笑うなよ」
張り詰めていた空気が、和らいでいく。
そんな俺たちを、優しく笑いながら輪島が見つめる。
「冴島くん!」
「え、はい!」
「僕が、瑞季くんのこと大切にするよ。だから、これからも見守っててね」
「ふっ、はい!よろしくお願いします」
輪島の言葉を聞いて、俺は頬が赤くなってしまう。
そんな俺を見て、耀がにやける。
「俺たちも兵庫に遊びに行くから、その時は四人で遊ぼうね」
「もちろん。ね?」
俺が輪島の顔を見ると、嬉しそうに頷く。
その後はお互いの出会いや、俺たちが家探しをした時の話をした。
「そっかー、やっぱり不動産屋は選ばないとダメなのか」
「うーん、そうだね。周りに僕たちのことを、理解してもらわないといけないのが現状だから。不動産屋の下調べも、大切だよ」
宵と輪島が普通に会話しているのを見て、嬉しくなってしまう。
そんな俺に、耀が口元に手を当てて小さな声で話しかけてくる。
「瑞季くんって凄く愛されてるね」
「え?!そ、そうかな?」
「うん!だって、瑞季くんが話す時に見つめる輪島さんの視線たるや……」
耀の言葉に、また頬が熱くなる。
――あぁ、俺も同じこと思ったな。
一年前。
初めて宵から耀を紹介された時、宵が見つめる視線に、胸の奥が苦しくなったのを思い出す。
「うん。そうかも」
「うー。いいね、いいね。どんどん惚気てよ」
コソコソと話している俺たちに気づき、宵から声をかけられる。
「何の話してたん?」
俺と耀が目を合わせて、クスッと笑う。
「「ないしょー」」
「なんでだよ」
楽しい時間はあっという間に終わり、外が明るいうちに宵たちと別れた。
昼間より少しだけ涼しくなり、駅に歩きながら輪島が話し出す。
「ねぇ、これから出かけない?」
「え、いいけど。どこか行きたいところあるの?」
「うん。ちょっとね」
輪島に言われるがまま、俺は黙ってついて行く。
「……ここって」
着いた駅の改札を出て、ビルの出口まで行くと、見覚えのある観覧車が目の前に現れた。
「うん。もう一度、瑞季くんと乗りたいなって思って」
――はぁ、もう。
俺はいつまでも、輪島一慶という沼から抜け出せないだろうな。
輪島の手に触れ、俺は小さな声で話す。
「嬉しい、ありがとう」
「うん。じゃあ、行こっか」
以前は時間も遅く、観覧車以外は乗れなかったが、今日は少しだけ時間に余裕がある。
「一慶さん、あれ乗りたい!」
「いいね。あとで、あっちの方も行こうか」
輪島と付き合ってからも、男二人でとか、周りにどう思われるかとか、全く気にならないわけではない。
でも、今はどんなふうに思われても、輪島が本当の俺を見ててくれているから安心する。
二人でいろんなアトラクションに乗り、はしゃぎながら観覧車の待機列に並ぶ。
「そういえば、今日どうだった?」
「え?あ、冴島くんたち?」
「うん。なんか途中から、一慶さんと宵で話盛り上がってたけど」
「あはは。盛り上がったっていうか、僕たちにとって情報共有はやっぱり大切だなって思ったよ」
「あー、確かにそうだね」
「うん。あと……冴島くん、本当に瑞季くんのこと、大事に思ってるんだなって」
「そ、うかな?」
輪島が少しだけ複雑そうな表情になる。
「ふふ。まぁ、俺たちは親友だから。俺の恋人は、今までもこれからも、一慶さんだけ」
俺の言葉で、輪島の頬が赤くなる。
「はぁ……。本当に、瑞季くんは凄いよ。いつも僕が欲しい言葉くれちゃうな」
――それはお互い様だよ。
観覧車に乗車する頃には、辺りが暗くなってきて地上には綺麗な夜景が広がっていた。
窓の方に身体を向け、外を見つめながら、初めてのデートを思い出す。
「前はさ、途中からあんまり見れてなかったんだよねー」
「そうなの?」
「うん。あー、もう終わっちゃうって思ったら、泣きそうになってさ」
「そっか」
――ガタッ
ゴンドラの揺れと共に、向かい合っていたはずの輪島が、俺の隣に座った。
背中を包み込むように、優しく抱きしめられる。
「……もう、瑞季くんを泣かせたくないな」
輪島の優しい声が、耳元で響き渡る。
「ふふ。ありがとう」
輪島から溢れ出る真っ直ぐな愛を、俺は全身で受け取った。
俺が夜景を見ている時、隣に座る輪島がポケットから何かを取り出して、そっと俺の首元に手を回した。
「え?!」
輪島の手が離れた時、自分の首元に見慣れないアクセサリーが見えた。
照れくさそうにしながら、輪島が俺を見つめる。
「やっぱり、形にするのも良いかなって思って。瑞季くんのは、僕の誕生石。僕のは、瑞季くんの誕生石だよ」
出かける前に輪島が珍しく、鏡で身なりを確認していたのを思い出す。
「もしかして、今つけてるのって……」
「うん。お揃いだよ」
——やばい。……泣く。
「瑞季くんが、たくさんお揃いにしたいって言ってたから。こういうの、嫌じゃない?」
「……、嫌なわけないよ」
俺は目頭が熱くなり俯く。
「ほんとさ、俺には勿体無いくらい、一慶さんは素敵な人だよ」
歪んでいく視界の中、輪島を見つめる。
そんな俺を見て、輪島が嬉しそうに微笑む。
「違うよ。僕が何かしたいって思うのは、瑞季くんだからだよ」
俺たちは見つめ合いながら、自然と唇を重ねた。
「引っ越しても、ここにはまた来たいなぁ」
「うん。そうだね。僕らの思い出の場所だもんね」
恋人から初めてもらったネックレス。
俺は自然と、首元を触ってしまう。
離れていても、お互いが近くにいる気がする。
——あぁ、もう離れられないや。
俺はもうとっくに、輪島一慶に溺れてるんだ。

