君が笑ってくれるなら


 「あの……俺、あんまりこういうの……」
 
 ベッドの上に仰向けになり、俺を見つめる瞳は甘く蕩けるようで、逃げ場をなくしていく。
「僕も……すごく緊張してるよ」
 俺は輪島の胸に手をあて、自分と同じであることに少し安心した。
「橘くん……」
 蕩けるような瞳で輪島はそう言うと、お互いの鼻をくっつける。
「嫌だったら言ってね」
 俺の耳に輪島の声が優しく響き渡り、少しずつ俺の唇を喰んでいった。
 
「ん……ふっぁ……」
 
 息付きの仕方とか、口の中を沿うように動く舌とか、今まで知らなかったことだらけで、息をするのでやっとだ。
 唇が離れ、俺を優しく映す瞳から目を逸らせない。
「これ以上は、……今日は、やめよう」
 輪島が俺を包むように抱きしめながら、少し深いため息を吐く。
「あの、俺たちは、その……こ、恋人ですか?」
 俺の言葉に、輪島はハッとしたようにシーツに埋めていた顔を上げる。
「僕は、橘くんの彼氏になりたい」
 輪島が改めて、求めていたものを言葉にしてくれる。
「ふふ。……うん、俺も先生の彼氏になりたい」
 ベッドの上でお互い見つめ合い、愛おしい時間を噛み締めた。

「俺、……振られたと思ってました」
 輪島と手を繋いで、お互い天井を見つめながら話す。
「うん……。あの時は、ちゃんと話せなくてごめんね」
「その、……いつから、俺のこと想ってくれたんですか?」
「……正確には、分からないけど。あの日、橘くんの気持ちを聞いて、怖くなっちゃったんだ」
「え?」
「僕のこの気持ちが何か分からないのに、橘くんと向き合って、いつか傷つけてしまう気がして」
「そう……だったんですね」
「でも、自分にはないと思ってた感情が沢山あって。橘くんが他の人と付き合っちゃうのは、耐えられるはずなかった」
「……それで、さっき追いかけてきてくれたんですか?」
「うん。二次会の移動中、橘くんがいなかったから一緒に座ってた子に声かけて」
「え?!」
「それで、帰ったって言うから」
「ちょ……え、それで走ってきてくれたんですか?」
「うん。本当は二人で、もう少し話したかったから。でも、そしたら電話で、……誰かに会いたかったって話してるの聞こえちゃって」
 俺は先ほどの電話を思い出し、頬が熱くなる。
「あの、……違います。それは、前に先生も会った飲み友に、先生とのこと聞きたいから会いたいと言われて。……その、俺も失恋話聞いてもらいたくて、あぁやって言っただけで……」
 俺の話を聞いて、輪島が大きなため息をつく。
「はぁー……、そっか。そっか。よかったぁー……」
「もしかして、それで、少し怒ってたんですか?」
「え……僕、怒ってた?」
「はい。……正直、ちょっと怖かったです」
「えー……、それはごめんね。引き止めるのに必死すぎて、気を遣えてなかったなぁ」
 笑いながら輪島は反省した後、俺の方に身体を向ける。
「僕、足りないところ沢山あると思うし。……橘くんより、一回り以上もおじさんだけど。大切にするから、僕と一緒にいて欲しいな」
 俺は輪島の胸に顔を埋める。
「……ずっと、大切にしてくれますか?」
 輪島は俺の背中に腕を回した。
「うん。ずっと。橘くんが、僕を必要としてくれるなら」
「……なら、ずっとです」
 頬が勝手に緩んでいく。

 こんな顔見られたら、恥ずかしくて死ねる。
 恐る恐る視線を上げると、輪島は最初から俺を見つめていた。
 輪島は愛おしそうに目を細め、柔らかく微笑む。

 ――もう、この笑顔を失いたくないな。