君が笑ってくれるなら

ラーメンミュージアムを出る頃、外はもう暗くなっていて、近くにある遊園地の装飾が綺麗だった。

 遠くから見ても分かりきっていたが、近くで見ると首が痛くなりそうなほど大きい観覧車が目の前に見える。
「乗る?」
 そんな俺を覗き込みながら、輪島が聞いてくる。
「え、いいんですか?」
「うん、もちろん。さっきは俺のわがまま付き合ってもらったし」
「じゃあ、乗りたいです」
 王道のデート感が強まる中、男二人で観覧車へ乗り込む。ゆっくり上昇する観覧車から地上を見ると、さっきとはまた違った景色でとても綺麗だった。
「綺麗だね」
「はい、めっちゃ綺麗です」
 観覧車がてっぺんを超えた頃、輪島が話しだす。
「今日、楽しかったね」
 その一言で、一気に現実に引き戻され、終わりが近いことを実感する。
 いや、でも今日はしんみりしない。
 楽しい時間にしたい。
 そう思って、俺はいつも通りに明るく返事をした。
「いや、ほんとに。早かったですね!楽しかったです!」
 輪島とこうやって出かけることは、多分今日が最後だ。あと二週間もしたら、輪島は兵庫に行ってしまう。
 そんなことを考えると、少し前に決心した気持ちが簡単に揺らいで、目頭が熱くなっていく。
 ――だめだ、泣きそう。
 俺はまた窓の外を見つめて、視界を歪ませながら夜景を眺めた。

 観覧車を降りて、近くのレストランで食事をした。
 気持ちが沈まないように、俺はいつもよりも口数が多くなる。
 内容は好きな番組や映画、部活は何をしていたかとか、当たり障りもないけれど、お互いがまだ知らないことをたくさん話した。
 時計を見ると二十一時になっていたため、ゆっくり駅まで歩く。
 
 ――本当に終わってしまう。
 
 隣を歩く輪島の手を見つめ、あと数センチ近づけばぶつかりそうだと思った。

 本当にこれでいいのか……?
 
 また宵の時と同じように、気持ちを伝えないのか……?

 自問自答しながら歩く。
 
 ――……大丈夫。もう、俺は自分から逃げない。
 
 歩く足を止めて、輪島の腕をひく。
 
「あの、あと少しだけ。……話しませんか」
 俺の提案に、輪島はコクリと頷いた。
 近くのベンチに座り、深く息を吸って静かに吐く。
「……あの」
 俺は、輪島の目をまっすぐ見つめる。
 もう耳や指先は寒さのせいか、緊張のせいか感覚がなくなっていた。
「俺は、……先生が好きです」
 やっとの思いで伝えられた言葉たちに、胸の奥が締め付けられる。静かに、俺の話を聞く輪島にそっと笑いかけた。
「……先生のこと、ちゃんと知ってるのに。それでも、どうしても伝えたくて」
 黙り込む輪島に、今日一緒に過ごして、楽しそうな輪島の顔を思い出し、今の気持ちを素直に伝えた。
「俺は、先生が楽しく笑ってくれてたら嬉しい。特別な人とか、そういうんじゃなくても。先生がこの先、自然に笑えてたらいいなって思ってるよ」
「ありがとう」
 たった一言、輪島から返ってきた言葉。
 分かりきっていたのに、やっぱり苦しい。
 俺は込み上げてくるものを、必死に押さえ込んだ。
「先生、……今日は楽しかった?」
 俺の言葉に、輪島がゆっくり深く頷いた。
 もう、それだけで十分じゃないか。
 好きな人の笑顔をたくさん見れたんだから。
 楽しかったって、言ってくれたんだから。
「なら、よかったです。……じゃあ、寒いので帰りましょうか」

 今日、俺は人生で初めて、好きな人に気持ちを伝えられた。それだけでも凄いことだ。
 
 ちゃんと少しずつでも、俺は自分と向き合えたんだから。……だから、輪島と別れるまでは絶対泣かない。
 何回も何回も、心の中でそう唱えながら帰宅した。