君が笑ってくれるなら

昨夜、自分の気持ちに気づいてしまったせいか、眠りが浅く、目が覚めた時にはまだ六時を少し過ぎたばかりだった。
 ベッドの横で、鼻先まで布団を引き上げて、すやすや寝ている輪島を起こさないようにキッチンへ向かった。

 お湯を沸かしている間に、顔を洗って歯磨きをする。
 キッチンからお湯が沸いた音が聞こえ、化粧水を肌に馴染ませながらキッチンへ向かい、珈琲を淹れた。
 フーフーと冷ましながら一口飲む。
「……やっぱ、牛乳入れよ」
 冷蔵庫から牛乳を取り出し、マグカップの中で焦茶色を薄めていく。
 牛乳を戻す際、賞味期限が近い卵が目に止まる。
 トースターの上には食パンもあった。
「……重いかな」
 朝食なんて作ったら、俺の下心が透けて見える気がして躊躇ったが、棚からフライパンを出し火にかける。
 考え出したら、全ての行動が後ろめたい気がして、一旦考えることをやめた。

 朝食を作り終えテーブルに並べていると、寝室から輪島がほとんど目が開いてない状態で出てくる。
「お、はよ……」
「あ、おはようございます。顔洗いますよね、タオルこっちです」
 眠そうな輪島を脱衣所に案内し、リビングに戻った。
 しばらくして、くりっとした垂れ目に見慣れた眼鏡をかけて輪島が戻ってくる。
 先程は眠くて気づかなかったのか、テーブルの上を見て驚く。
「え?!……用意してくれたの?」
「いや、ただのトーストと目玉焼きですよ」
「いや、そういうことじゃなくて。今日、橘くんお休みだよね?」
「あ、はい」
「なのに、朝から用意してくれたの?……気を使わせてごめんね」
 喜んでもらいたくて作ったわけでもない。
 ――いや、違う。
 謝らせたかったわけじゃない。
 なんだかモヤモヤして、輪島の言葉がいつもより素直に受け入れられなかった。
「冷めちゃいますよ。先生、遅刻しちゃいます」
「あ、うん。ありがとう」

 朝食を食べたあと、輪島は再度丁寧にお礼を言って病院へ向かっていった。
 テーブルに並んだ食器を眺めて、ため息を吐く。
「……どうすればいいんだよ」
 輪島に対するこの感情は、きっと報われない。
 俺がゲイであることを伝えた対価として、自分の不妊や人に執着しないことを教えてくれただけ。
 特別だけど。
 ――そういう特別じゃない。

 輪島との恋愛が難しいなら、俺はそんな分かりきった選択はしたくなかった。
 
 食器をそのままにして、ソファへ寝転ぶ。
 スマホを手に取り、検索エンジンに「ゲイ 安全 アプリ」と入力し、俺は一番安全そうなアプリをインストールした。