意思で紡ぐ文脈

 琴音は振り返らないまま告げる。

「私を庇う必要はないわ」

「でも……」

 春乃は善良な声で言い淀む。

「自分の立場をわかっているの?」

 琴音は大きく溜息を吐いた。凛莉子に従う立場の春乃が琴音を庇えば、短気な凛莉子は激昂する。

「でも……この前、親切にしてくださったのに」

 春乃の声はどこまでも真摯で善良で、だから琴音の調子が狂う。

「たった一回、チョコレイトをご馳走したくらい。あれくらい、親切のうちに入らないわ」

 もう私に関わらないでねと言い切るつもりだったのに、春乃の声に先んじられた。

「私は、琴音さまとお話ができてとっても嬉しかったです」

 春乃の声が琴音の心へと染みてゆく。

「……あんなの、ただの気まぐれよ」

 琴音は春乃を振り返らないままそう言って、歩調を速めて春乃を振り切った。