意思で紡ぐ文脈


 あの女の後ろには、明日嫁ぐはずの春乃がいた。春乃の隣には、凛莉子が恋した男が寄り添っている。

「春乃さんは、風間家で働いてもらうことになったわ。結納金以上の金額を出すと言ったら、伯爵が喜んで応じてくださったのよ」

 ふっ、と微笑んで卑しい女は続ける。

「でも……あなたのお父様は結納金も欲しいそうよ。もう、身代わりはいないわね」

 それを聞いた瞬間に、凛莉子は言葉を失った。身体全体に強烈な悪寒が這ってゆく。

 嫌よ。
 あんな男と結婚するなんて。
 私は来栖家の令嬢よ!

 髪を振り乱して掴みかかる凛莉子を一瞥して、風間琴音は言った。

「あなたも意思を貫くことね。これが気に食わない、あれが気に食わないと癇癪を起こすだけなら赤子にだってできるもの」

 異能を持つ成金の娘は、凛莉子の手を雑に払って笑みを深める。

「私には、私が稼いだお金があるの。だから、この世の大抵は思いのままよ」

 凛莉子の眼差しの先で、原井が春乃の肩を抱く。

 琴音は目を細めて、愛し合う恋人たちの姿を見つめた。

「――私は、好きな人たちを幸せにすることだってできるの」

 罵詈雑言を叫ぶ凛莉子を置いて、琴音はその場を後にした。