終電の殺し屋

 さて、今度こそ仕事だ。電車が目的地に着くや否や、現場へと向かった。現場には既にじーちゃんが車で待機していた。
 防犯システムの類はついていない。鍵を昔ながらのピッキングでこじあけ、侵入する。田原は二階で寝ていた。いやらしい夢を見ているのか、とてもだらしない顔をしていた。田原を担ぎ上げて、車に運び込む。そして、どこぞの料理番組のように既にDNA偽装処理を施した焼死体をもともと田原がいた場所に設置した。
 そして、田原の唾液が付いたタバコを使って部屋に火をつけた。じーちゃんは先に帰って、田原を労働施設に送る。命まではとらないが、存在を表の世界から抹消する。
 近隣の住宅に燃え移らないように、火を見張った。余計な殺しはしない、無関係な人間への損害は最小限に。それが“終電の殺し屋”のポリシーだ。

 翌朝、田原の死が報道された。殺人ではなく、火事として。死者一名、その他に怪我人なし、近隣住宅への延焼なし。原因は寝たばこによる失火。
 任務完了だ。あとは未希に平穏な日々が戻ることを願うだけだ。



 数日後の木曜日、別の依頼人と東京駅で待ち合わせることになった。待ち合わせ時刻は午後22時だが、18時半についたので適当に時間をつぶすことにした。適当に構内で夕食を食べられる場所を探していると電話をしている女性とすれ違った。
「あ、もしもしお母さん、仕事終わって今駅。うん。今から新幹線乗るね。あ、お迎え来てくれるの? えっとね、23時51分着だって」
 声は確かに未希のものだったが、随分と明るい声だった。会話に夢中で私に気づく様子はない。
「そうそう。冷蔵庫開けといてね。おばあちゃんが好きだったモンブラン買ったんだ。明日も車出してもらっていい?」
 どうやら、明日祖母の墓参りに行くのだろう。姿を確認すると、ずいぶんと清々しい顔でスーツケースを引いていた。
 東京発博多行のぞみ最終電車は18時51分発だ。残り数分。だいぶぎりぎりだが、おそらく間に合うだろう。未希はこちらには気づいていないが、見守る意味を込めて入場券を買った。
 幸いにもエレベーターの順番待ちをすることなく乗れたようで、ホームに無事ついた。乗車するための列に並んでスマートフォンをチェックしている。かと思えば、電話をかけ始めた。
「あ、もしもしまゆっち、電話くれてた? うん。これから電車乗るとこ。明日? 午前中お墓参り行くけど午後は何もないよ? え、前夜祭飲み? うっそ、同窓会って毎回そんなのやってんの? いくいく!」
 電話の相手は話に出てきた幼馴染のようだ。ちょうどそのタイミングで新幹線の乗車が始まる。
「じゃ、もう乗るね。はいはーい、また明日!」
 未希が通話を終えて新幹線に乗り込むのを無事見届けた。きっと彼女はもう大丈夫だ。

 なぜ、わざわざ依頼人と直接会うのか。それは依頼人がなぜターゲットを消したいと思ったのか。何が彼らをそうさせたのか。依頼人にとって譲れないもの、一番大切なものは何なのか対話の中で向き合わせるためだ。
 なぜ、終電間際の時間を選ぶのか。それは、決断には期限が必要だからだ。人は弱い生き物だ。だから、永遠に迷い続けて決断を先延ばしにしてしまう。
 タイムリミットを前に、助言をすることもある。ちょっとだけ背中を押すこともある。本当にそれでいいのかと問い直すこともある。
 その介入が正しいのかは神様にしかわからない。でも、未希は最終的に自分の足で走って下り列車の終電に乗った。計画続行の意思表示をした。結果として、未希は平穏な日々を勝ち取ったのだ。
「さーて、今日もがんばっていきますか」
 二代目“終電の殺し屋”、世直しのために今日も出陣します。