終電の殺し屋

「がんばったな」
 ポンポンと頭を撫でられる。既にパトカーの音も聞こえないくらいに遠くに逃げた。

「これで、終わりだよな、じーちゃん」
「ああ、終わりだ。よくがんばった」
 終わった。全部終わった。
「うわあああん!」
 子供みたいに泣いた。涙があふれて止まらなかった。
 愛されたかった。たった一度でもいいから。分かり合いたかった。ちゃんと話がしたかった。憎みたくなかった。嫌いになんてなりたくなかった。お母さんを好きになりたかった。「愛してる」をあんな形で聞きたくなかった。
「やっぱり寂しいよなあ、親がいないのは。その辺、配慮してやれなかったな。ごめんな」
 じーちゃんに抱き寄せられた。じーちゃんの服をぎゅっと掴んで泣いた。じーちゃんの大きな手に頭を撫でられる。ほんの少しだけ落ち着いた。
「俺のこと、今日からじーちゃんじゃなくてパパって呼んでもいいからな」
「いい年してパパはさすがに図々しいよ、じーちゃん」
 嗚咽交じりの声で返事をするとじーちゃんが苦笑した。
「ったく、生意気な孫だ。まあ、あれだ。じーちゃんはパパってガラじゃないからな、いちいち『愛してる』とか思ってても言わないもんなんだ。わかるな?」
 冷たい水をもらった。温かいお風呂に入れてくれた。欲していた水をくれた人。
 血は水よりも濃いかもしれないが、水は血よりも優しい。ほしい時に水をくれる人をきっと本当の家族と呼ぶのだろう。
「じーちゃん、喉渇いた」
 今日だけはわがままになりたい。
「ほれ、そう言うと思って持ってきたぞ」
 ペットボトルを向けられた。
「じーちゃんにも一口あげる」
 先にじーちゃんが飲むように促した。世界で一番おいしい水を、世界で一番大好きなじーちゃんと半分こ。世界で一番のごちそうだ。
「ようやく一人前になったな、セイ」
 殺し屋の鉄則。もらった飲食物には警戒をすること。もしかしてそれは分け合う喜びを知るためのルールだったのかな、なんて平和ボケしたことが頭をよぎった。