化学部の松村部長は、人嫌いなくせに俺には甘い

2限目は化学だったので実験室に来ていた。隣に座る佐々木が「予習やってねぇわ」と慌てだしたときに予鈴がなった。

「今日は実験の補助員にも巡回してもらうから」ちゃんと授業を受けるようにねと山本先生が言った。

(補助員ってもしかして)

ドアが開いた途端、実験室中にすさまじい女子の黄色い声が響く。
「まって、まって、やばい国宝じゃん」
「いや、世界文化遺産かもしれん」「有形遺産の方じゃない?」
「ビジュ最強すぎ、教室の空気がおいしいもん」「もう空気ですら売り出せるわ」
「同じ時代に生まれてよかった……」
松村部長が白衣をたなびかせて、入ってきたのだった。
(やっぱり……。目立ちたくないから、俺の存在がバレませんように……)
必死で身を小さくしながら、佐々木を囮にして認知されないよう祈りながら俯く。

残念ながら、下を向いていると机をトントンとされ、見知った匂いがした。
「詰んだ……」
「口から本音でてんぞ」
松村部長は「よろしく」と先日の姿とは打って変わって機嫌よさそうに隣に腰を下ろした。