翌日の火曜日。クラスでは席前後で仲良くしている佐々木と昼食を買いに購買に向かう。
「なぁ〜、井上最近付き合い悪くね〜?すぐいなくなるからぼかぁ寂しいわよ」
「あれ、そうだっけ」
そういえば、化学部に入ったことを佐々木に伝えそびれていたかも。別に隠していた訳じゃないけど忙しかったんだよね。
購買に向かう途中の渡り廊下でふと見知った後ろ姿を見つける。
(あっ、松村部長だ……)
部長は先生と外部の大人たちと話し込んでおり、挨拶をしようかと思ったけれど到底そんな雰囲気でもなかった。
横を通り過ぎるとき、チラッとこちらを見た先輩と視線が重なる。
何だか見てはいけない場面をのぞき見したような感じがして、慌てて視線を外しその場を離れた。
部長は普段では見たことのないよそ行きの笑顔を貼り付けており、その表情が脳裏に焼き付いた。
***
今日1日、松村部長の事が気掛かりで授業も部活もあまり手につかなかった。よそ行きの笑顔をした部長の目は何だかつめたい眼差しをしていた。
(昨日進路で呼ばれているって言っていたし、その事かもしれない)
多分、中村先輩なら長い付き合いで聞く事が出来るのだろうけれど最近知り合ったばかりの俺ではそこまで立ち入った事は聞けない。
何だか、距離は近いのに実際の心の距離感は遠いのかもしれないと気付いてしまった。
(俺は寂しいのかな……)
部活にまで考え事を持ち込んだせいで、オープンスクールの練習としてパスツールで油を吸い上げた時にうっかり落として割ってしまったのだった。後片付けで遅くなったため、すっかり日が暮れてしまった。
(結局、周りに迷惑かけちゃったな……)
部活終わり、正門を出て駅に向かう途中で信号につかまったので普段使わない歩道橋を通ることにした。
薄暗い階段を上がると松村部長が歩道橋の手すりにもたれかかってぼんやり橋の下を通る車を眺めていた。
――何だか元気がなさそう
「松村部長、帰らないんですか?」
「んー」
橋の下は車がヘッドライトで道路を照らしながら滑るように流れていく。なんだかそばを離れてはいけない気がして、とりあえず横にいることにした。
歩道橋の上は結構風が吹いていて、乱れる髪を押さえる。
お互い何も話さないので、結局のところ松村部長がなんでこんなところにいるのか分からないけど、尋ねるのもおかしい気がするので黙っておく。
トラックが通ると、ダンと大きな音がし、車両の通行に合わせて足元が少し揺れる。
「あっ、あのトラック、中華まんのデザインだ。そういえば弟が中華まんにタバスコかけるんですよ。邪道じゃない?ってよく対立するんですけど……」。
「井上は家族仲が良いんだな」
「そうですかね、そうかも?」
近くの歩行者用信号が青に変わる。人がまばらに行き交い、帰宅のため急ぐのをぼんやりと眺める。
「俺は性格がひねくれているから。親との折り合いが行ってないんだよ」
部長はぽつりとつぶやいた。
「父親が大学教授で、その伝手で大学の方で実験を手伝わないかって言われてるんだわ」
ザワザワと街路樹が風で揺れる。
「俺は親の理想とする道を進んでないからね。今更関わろうとしている感じがするのがどうも、ダメみたい」と、松村部長はこぼす。
普通は喜んで受け入れるのだろうけどね、と言って手すりに肘をついてぼんやり景色を眺めている部長の横顔を見る。
部長が外部の人と話して作り笑いを浮かべていたのはこの事だったのかと腑に落ちた。
(こんな大事な話、俺が聞いてよかったのかな……)
「ごめんな、こんな話聞かせて」
「いや、俺は全然……」
部長が悩んでいるときに、俺は悩みをこぼしてくれた事で不謹慎にも朝から自分が抱えていた寂しさが埋め合わされていくことに気づき自分に少し嫌悪感を抱く。純粋に心配してあげられる後輩になれたら良かったのに。
(なんだかなぁ)
朝から気を張っていた緊張の糸が切れたようで、すさまじく空腹の音がするのを止めようとお腹を押さえていたが、こういう時に限って、風もきつくないし車は通らないので結局ばれてしまった。
松村部長はげらげら笑って、「すごい気が抜けた」と笑い涙を指で拭い「帰りになんか奢るわ」といってくれた。
口はとても肉まんの味になっていたけど、案の定6月のコンビニには売っていなかった。
「なぁ〜、井上最近付き合い悪くね〜?すぐいなくなるからぼかぁ寂しいわよ」
「あれ、そうだっけ」
そういえば、化学部に入ったことを佐々木に伝えそびれていたかも。別に隠していた訳じゃないけど忙しかったんだよね。
購買に向かう途中の渡り廊下でふと見知った後ろ姿を見つける。
(あっ、松村部長だ……)
部長は先生と外部の大人たちと話し込んでおり、挨拶をしようかと思ったけれど到底そんな雰囲気でもなかった。
横を通り過ぎるとき、チラッとこちらを見た先輩と視線が重なる。
何だか見てはいけない場面をのぞき見したような感じがして、慌てて視線を外しその場を離れた。
部長は普段では見たことのないよそ行きの笑顔を貼り付けており、その表情が脳裏に焼き付いた。
***
今日1日、松村部長の事が気掛かりで授業も部活もあまり手につかなかった。よそ行きの笑顔をした部長の目は何だかつめたい眼差しをしていた。
(昨日進路で呼ばれているって言っていたし、その事かもしれない)
多分、中村先輩なら長い付き合いで聞く事が出来るのだろうけれど最近知り合ったばかりの俺ではそこまで立ち入った事は聞けない。
何だか、距離は近いのに実際の心の距離感は遠いのかもしれないと気付いてしまった。
(俺は寂しいのかな……)
部活にまで考え事を持ち込んだせいで、オープンスクールの練習としてパスツールで油を吸い上げた時にうっかり落として割ってしまったのだった。後片付けで遅くなったため、すっかり日が暮れてしまった。
(結局、周りに迷惑かけちゃったな……)
部活終わり、正門を出て駅に向かう途中で信号につかまったので普段使わない歩道橋を通ることにした。
薄暗い階段を上がると松村部長が歩道橋の手すりにもたれかかってぼんやり橋の下を通る車を眺めていた。
――何だか元気がなさそう
「松村部長、帰らないんですか?」
「んー」
橋の下は車がヘッドライトで道路を照らしながら滑るように流れていく。なんだかそばを離れてはいけない気がして、とりあえず横にいることにした。
歩道橋の上は結構風が吹いていて、乱れる髪を押さえる。
お互い何も話さないので、結局のところ松村部長がなんでこんなところにいるのか分からないけど、尋ねるのもおかしい気がするので黙っておく。
トラックが通ると、ダンと大きな音がし、車両の通行に合わせて足元が少し揺れる。
「あっ、あのトラック、中華まんのデザインだ。そういえば弟が中華まんにタバスコかけるんですよ。邪道じゃない?ってよく対立するんですけど……」。
「井上は家族仲が良いんだな」
「そうですかね、そうかも?」
近くの歩行者用信号が青に変わる。人がまばらに行き交い、帰宅のため急ぐのをぼんやりと眺める。
「俺は性格がひねくれているから。親との折り合いが行ってないんだよ」
部長はぽつりとつぶやいた。
「父親が大学教授で、その伝手で大学の方で実験を手伝わないかって言われてるんだわ」
ザワザワと街路樹が風で揺れる。
「俺は親の理想とする道を進んでないからね。今更関わろうとしている感じがするのがどうも、ダメみたい」と、松村部長はこぼす。
普通は喜んで受け入れるのだろうけどね、と言って手すりに肘をついてぼんやり景色を眺めている部長の横顔を見る。
部長が外部の人と話して作り笑いを浮かべていたのはこの事だったのかと腑に落ちた。
(こんな大事な話、俺が聞いてよかったのかな……)
「ごめんな、こんな話聞かせて」
「いや、俺は全然……」
部長が悩んでいるときに、俺は悩みをこぼしてくれた事で不謹慎にも朝から自分が抱えていた寂しさが埋め合わされていくことに気づき自分に少し嫌悪感を抱く。純粋に心配してあげられる後輩になれたら良かったのに。
(なんだかなぁ)
朝から気を張っていた緊張の糸が切れたようで、すさまじく空腹の音がするのを止めようとお腹を押さえていたが、こういう時に限って、風もきつくないし車は通らないので結局ばれてしまった。
松村部長はげらげら笑って、「すごい気が抜けた」と笑い涙を指で拭い「帰りになんか奢るわ」といってくれた。
口はとても肉まんの味になっていたけど、案の定6月のコンビニには売っていなかった。
