化学部の松村部長は、人嫌いなくせに俺には甘い

 やっぱり先輩達が優しくても、1年が俺だけなのはやっぱり責任を感じてしまうわけで。
 これといった特技もないから、足を引っ張らないように頑張らないと。
 オープンスクールの案出しのため、昼休みに抜けて図書室に来ている。時間も早いからか図書室にいる生徒もまばらだった。

 (ミーティングでなんて言っていたっけ)
 部活の時のホワイトボードを撮影していたので見返す。そこには、思い思いのオープンスクールの方向性が書かれていた。
 『脱マンネリ』
 『今までと違った内容で勝負』
 『絶対女子ウケを目指す』
 これに沿うような内容を探すため、とりあえず入り口の新刊コーナーで適当に本を手に取る。

 「女子ウケする本ってなんだ……?」
 「なに、モテたいの?心の声が口から出てんぞ」
 「うわっ、びっくりした!」

 後ろから声をかけられビックリして貸し出し用に持っていた生徒証を落としてしまった。振り返ると松村部長だった。この人本当に足音がしないな。
 自分から驚かしておいて、口元に人差し指を当て「しー」とか言って落とした生徒証を拾ってくれる。
 「オープンスクールのネタ探しで、モテとかじゃないです」
 「それで女子ウケ狙いね」
 うーんと、片手に本を持って一緒に考えてくれている。こんな体勢ですら後ろからさす光を受けて何だか神秘的に見えるのだからすごいものだと他人事のように思った。

 「例年親連れの小学生が意外と多いって聞いて、小学生が行きたがったら親御さんも中学生の子も来るだろうって話だったんですけど」
 いわゆる、外堀を埋めよう大作戦である。

 「それなら、本より現場に行った方が早いんじゃない?」
 「現場って……?」
 「そりゃ、ファンシーショップでしょ」
 「ふぁんしーしょっぷ」
 長身で男らしい見た目からおよそ出てこなさそうな言葉が出て唖然としていると、自分の貸し出しがあるのかさっさと貸し出しカウンターに行ってしまった。

 (ネコみたいにマイペースな人だなぁ)
 待っている間に参考用にと『恋する嗅覚』という新書をめくっていると、貸し出しが終わったのか部長が戻ってきた。

 「土曜予定ある?」
 「……ないですけど」
 「じゃあ、俺と一緒に行くか」
 そう言って松村部長は目元にかかった緩くウェーブした髪を気だるそうに手前から後ろに撫でつけた。