演劇部の俺様ルーキーと期限付きで付き合うことになりまして

 舞台が、拍手喝采に包まれる。


 その音を少し遠く感じながら、俺は観客席に座っていた。


 文化祭当日。


 結局あの後、残りの6日でなんとか新しい台本を完成させた俺は、どうにか無事にその役目を終えることができた。
 内容は、自分に自信が持てず殻にこもっていた天才芸術家が、とある出会いをきっかけに世界へと羽ばたいていく話。
 自分で言うのもなんだが、かなりの出来だと思う。
 実際、部長からも「今までで一番いい」と絶賛された。


 ……ただ、あの日から結局、如月とは一度も連絡を取っていない。


 別に、避けていたわけじゃない。
 ただ、気づけばタイミングを失っていただけ。 

 
 そもそもよく考えてみれば、俺たちは学年も部活も性格も全て違う。
 あえて会おうとしなければ、一生交わらない存在なのだ。


(それに、まぁ最悪な別れ方をしちまったからな……)


自業自得だ。
如月に対して思うことは全くない。
むしろ、あの台本を最高の形で演じきってくれたことには感謝しかない。


1年生で主役。
並大抵のことではないのだろう。


あいつの演技は、本当にすごかった。


(……ただ)


舞台の上では、演者たちが最後の礼をしている。


観客の拍手はまだまだ止まない。


(今日で、本当に終わりかぁ……)



そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ静かに沈んだ。





劇場から出て、俺は1人校舎裏へ向かった。


もう二度と行かないから、最後にもう一度だけ、行かせてほしい。


あの日のフェンスの前に立つ。


(あの時は、本気であいつのことが怖かったな……あんなおとなしかった子が、どうしてあんなヤンキーになってしまったんだ)


今となっては、その全てが懐かしい。

そんなことを考えていると、自然と笑みがこぼれた。


――その時。


「おい!」


突然大声で呼びかけられ、全身がびくりとはねた。


声のした方を見ると、なんと如月がとんでもない速さでこちらに向かって来ていた。


(な、殴られる……!?)


咄嗟にそう思い身をこわばらせるも、一向に衝動は来なくて。
不思議に思って恐る恐る目を開けた瞬間、ふわりと、温かいものに包まれた。


如月に、抱きしめられている。


(は!?いやお前、遂に本気で狂ったのか!?)


あまりの混乱でおいていかれる俺をよそに、如月は俺と目を合わせて言った。


「あんたの台本、最高だった」


その声は、今まで聞いたこいつの声の中で一番落ち着いていた。


「……俺の演技は、どうだった?」


いつもは余裕たっぷりで、何でも言いきってしまうくせに。


完全無欠の俺様王子と呼ばれている彼のそんなしおらしい姿が可愛くて、俺は思わず笑いながら答えた。


「最高だったよ」


「あの台本を演じてくれたのがお前で、良かった」


2人の間に沈黙が落ちる。


風の音がやけに大きく聞こえた。


「じゃ、じゃあな。今までありがとう」


気まずさに耐えきれず、俺は踵を返そうとする。


――その瞬間。


とんでもない力で腕を掴まれた。


「っ……!?」


「ちょ、痛い痛い痛い!わかったから。行かないから一旦離せ!な?」


情けない声が出る。


再び振り返ると、そこにはいつも通りの表情をした如月が立っていて。
なんだかほっとした。


如月がぐいっと距離を詰めてくる。
「……なぁ、この前のでもうわかっただろうけど、俺はあんたのことが本気で好きなんだよ」


「……出会いは最悪だったけど」


「もう一度、今度はちゃんと、俺と付き合ってくれ」


如月の真っ直ぐな瞳が俺の目を射抜いた。
お前、俺がそれに弱いってわかっててやってるだろ……


とはいえ、これは、素直になれない俺への、如月なりの優しさなのかもしれない。



「俺、死ぬほど面倒くさいけど」


「うん」


「この前みたいに、また急に逆ギレとか、しちゃうかもしれないけど」


「うん」


「……それでもさ」


一瞬だけ、風の音が大きくなった。


「俺、お前のことが好きだよ……こんな俺でも、いいのか?」



静かな校舎裏。

2人の影が、ゆっくりと重なっていく。


























「ちなみにお前さ、あんだけ好きだって言っておきながら、なんで高校で再会したときはすぐに俺に気づかなかったんだよ」


「……仕方ないだろ。前髪で、顔とかあんまりちゃんと見えてなかったんだよ」