演劇部の俺様ルーキーと期限付きで付き合うことになりまして

 「すごいな……」


 放課後。


 あの後なんとか午後の授業を乗り切った俺は、現在演劇部の見学に来ていた。


 部室のあちこちから台詞を読む声が聞こえ、廊下には大道具や小道具が並んでいる。

 
 普段ほとんど関わることのない場所だけに、それだけで少し緊張してしまう。


 「今は部員がいくつかの班に分かれて、短編劇の練習をしてるんだ」

 
 隣を歩く演劇部の部長が説明してくれた。
 本来なら部長なんて忙しくて、俺なんかに構っている暇はないだろうに。
 どうやら、如月が本当に話を通してくれていたようだ。


 「そうなんですね」


 目の前では、1年生らしき部員たちが真剣な表情で台詞を読み合っている。


 笑い声が聞こえたかと思えば、別の場所からは泣きそうな声も聞こえてくる。

 
 「みんな本当に演技が上手で……」


 思わず本音が零れた。


 「俺なんかの台本でいいのか、少し不安になっちゃいました」


 すると、部長は慌てたように首を振る。


 「いや、そんなことはないよ!」


 その声にははっきりとした力があった。


 「去年の君の台本は本当に素晴らしかった。お客さんからも好評だったし、僕たちもすごく楽しかった」


 「……そうですか。ありがとうございます」


 嬉しい。


 それは本当だ。


 自分の書いたものを褒めてもらえるのは、やっぱり嬉しい。


 だけど……

 絶賛スランプの今、その言葉すら少しだけ重かった。


 (あ~、駄目だな、暗くなっちゃ。レッツポジティブシンキング!)


 そう自分に言い聞かせた、その時だった。


 「どんなに長くても、夜は必ず明ける」


 部室に、よく通る声が響いた。


 思わず声のした方に顔を向ける。


 あの日、校舎裏で聞いた、あの台詞。


 「彼が噂の如月くんだよ」


 部長がふわりと笑った。

 
 「すごいよね、演技も上手で。彼の演技は本当に人の目を惹きつけて離さない」


 本当に、すごい。


 目の前にいるはずなのに、如月が如月じゃないみたいだ。
 演技をしている時のあいつは、本当にその役そのものになる。
 美しくもどこか儚く、恐ろしく。
 そして、目が逸らせないほど優艶だった。


 同じ部室の中で、みんなと同じように演じているはずなのに。


 なぜか、あいつにだけスポットライトが当たって見える。


 まるで、舞台の中央に立っているみたいに。


 気が付けば、俺は息をすることすら忘れていた。


 「……部長」


 隣に立つ部長に小さく声をかける。
 部長は不思議そうにこちらを見て、軽く首を傾げた。


 「俺、頑張りますね」


 自分でも驚くくらい、すんなりと言葉が出てきた。


 俺が、あいつの演じる台本を書きたい。
 そう思った。


 部長は優しく笑った。


 「少しでも、今日の見学が君の助けになったのなら良かったよ」


 俺はもう一度、如月の方を見る。


 相変わらず、あいつはみんなの視線をくぎ付けにしていた。




 その日。

 
 帰宅した俺は一直線に机へ向かった。

 
 迷いつつも、なんとか手探りで手を走らせていく。


 そして、窓の外がすっかり明るくなった頃。
 俺は、原稿の大まかなプロットを完成させた。