演劇部の俺様ルーキーと期限付きで付き合うことになりまして

 思考が止まった。


 いや、待て。


 こいつ、今なんて言った?


 付き合う?


 誰が?
 

 俺と?


 こいつが?

 
 ……は?


 「つ、付き合う……?」


 「ああ、そう言ってるだろ」



 ……付き合うって、何だっけ……?


 付き合うって、あの付き合うか?

 
 協力するとか、どこかに一緒に行くとか、そういう意味じゃなくて?



 「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 校舎裏に俺の絶叫が響く。


 俺の突然の大声に驚いたのか、如月は少し眉をひそめた。
 くそ、そんな顔まで様になってやがる。


 「いや、は?付き合う?俺とお前が?こんなthe.平凡な俺と?学校のアイドルなお前が?」


 「だから、そう言ってるだろ」


 あまりにも落ち着いた声で、当然のように言い放つ。


 いや、待て待て待て待て、『そう言ってるだろ』じゃないだろ!
 お前、自分が何言ってるかちゃんとわかってるのか?
 それとも、俺の知らない間に『付き合う』っていう言葉に新しい意味でもできたのか?


 そんな俺にしびれを切らしたのか、如月は俺の目を真正面から見据えて再度言い放った。


 「だから、今日から文化祭まで、俺の恋人になれって言ってんだよ」


 ……あまりにも俺様発言すぎる。


 いや、もはや漫画か?
 こいつ、漫画のなかから飛び出してきたのか?

  
 令和の高校生が、こんなこと言う?


 だが、それが妙に様になってしまうのだから恐ろしい。

 
 やはり、これが神に愛された男ということなのだろうか。


 ただ、やはり気になることが1つあった。


 「その、付き合うってのは分かったんだけど、なんで俺と……?」


 今俺の目の前にいるのは、学校のアイドル・天下の如月時雨様だ。
 その気になれば彼女なんていくらでもできるだろう。
 
 
 それに、もしこいつが男を好きになるタイプだったのだとしても、わざわざ俺を選ぶ理由が全くわからない。
 ていうかお前、ついさっきまで俺にガチギレしてたよな?
 どんな心境の変化だよ。


 しかし、そんな俺の純粋な疑問に返ってきたのは、


 「理由なんてどうだっていいだろ」


 という一言だけだった。


 「だいたい、お前に拒否権なんてないんだよ」


 如月はひらひらとスマホを揺らした。


 「もし断るってんなら、そのネタ帳の中身、校内放送で読み上げるぞ」


 にやり、と口元がつり上がる。


 「お前の名前付きでな」


 ……こいつは悪魔か?
 いや、むしろ悪魔であってくれ。
 俺はまだ人間の優しさを信じていたいんだ。


 (こいつ……怖いっていうか、もはや完全に悪魔とかそっち系の何かだろ……)


 数秒の沈黙。


 俺の脳内に、こいつが嬉々として校内放送でネタ帳を読み上げる姿が鮮明に浮かぶ。


 ――終わりだ。


 和泉綾世、人生終了のお知らせである。


 (……いや、こんなん完全に脅しじゃねぇか!!!)


 とはいえ、ここでこいつの機嫌を損ねるのはまずい。
 あのネタ帳だけは、何としてでも守り抜かなければ。


 (これが、人を勝手に観察した天罰なのか……?)


 観念したように息を吐く。


 覚悟を決めろ!俺!!


 「……わかった」

 
 如月が目を細めた。


 「付き合うよ。約5ヶ月間、よろしくな、如月」


 しばしの沈黙。
 

 そして如月は、満足そうに笑った。

 
 「ああ。よろしくな。センパイ♪」



 こうして俺、和泉綾世は、超イケメンの悪魔に期間限定で魂を売ったのであった。