演劇部の俺様ルーキーと期限付きで付き合うことになりまして

「いや~、どうすっかなぁ……」


 この日何度目かのため息をつき、俺、和泉綾世(いずみあやせ)は愛用のスケジュール帳を開いた。
 本日6月1日の欄には、赤ペンで書かれた【台本の進捗説明1ヶ月前!急げ!】という文字がでかでかと鎮座している。


「急げっつったて……簡単に言ってんじゃねえよ、半月前の俺~……」


 私立白波(しらなみ)高校、2年3組和泉綾世。勉強・運動・ビジュアル、どれをとっても全て普通の、しがない文芸部員。
 そんな俺は今、絶賛『スランプ』というものに悩まされていた――。




 うちの学校の演劇部と文芸部には、学校創立当初からの伝統がある。
 それが、【毎年10月後半に行われる文化祭の演劇部の台本は、文芸部が書く】というものだ。
 正直なにがどうなってそんな伝統が生まれてしまったのかはさっぱりだが、案外伝統なんてそんなものだろう。
 文化祭までの大まかな流れはこうだ。


 まず、新入部員が入る4月~5月上旬を経て、5月の中旬頃には演劇部の部長から大まかな台本の内容指示がくる。それを受けて文芸部の台本担当が執筆を始め、6月末に一度進捗の報告。そこから再び執筆期間に移り、最終的な台本の完成は7月末。8月の頭~中旬にかけて細かな修正とオーディションが並行して行われ、俺たち文芸部の仕事はそこで終了。あとは演劇部が8月後半の合宿~10月末の文化祭までに劇を完成させ、無事本番を迎える、と。


 俺たち文芸部も、台本を書くのだって結構大変なんだぞ、と言いたくなったことがないわけではない。
 しかし、年中週2で活動し、合宿後からは週3、10月に入れば半ば強制参加の追加練習まである演劇部様を前にすると、活動は週1、しかも全員集まれば奇跡みたいなうちが文句など言える訳もなく。


「いや、これほんとにヤバいな……半月も何やってたんだよ俺……」


 今年の台本の内容指示は『部活系の青春モノ』。
 かなりアバウトな指示ではあるが、去年の『なんかいい感じの学園モノ』と比べればまだマシだろう。


 (というか、去年のはもはや指示ですらないだろ……なんだよ『なんかいい感じ』って)



 そんなこんなで困り果てた俺は、遂にネタ探しへの旅へ出たのだ。
 ネタ探しの旅と言っても、簡単に言ってしまえばただの勝手な部活見学。
 正直、今回の指示を最初に聞いたときは高度な皮肉でも言われているのかと疑った程だ。
 それもそうだろう、部活での青春なんて、俺たち文芸部からしたら雲のまた上。もはや別世界の話だ。
 まあ、俺としては文芸部のそんなところも好きで入っているから問題はないのだが。


 (ただ、そのネタで台本を書くとなれば問題しかないよな~)


 現在は放課後。
 今日丸1日の努力の結果、幸いネタ帳は割と埋まってきている。