8/23。すぐに夏の大会はきてしまった。昨晩は寝られなかったけれど、過去一で一番調子がよかった。シングルスでは三回戦敗退だったけれど、過去一の成績だった。自分の全力を出せたので悔いはない。あとは団体戦、頑張らないと。
「ナイスファイト! 遠宮!」
国田は四回戦まで勝ち進んでいる。
「国田もお疲れ! 次、四回戦だな。サイドで応援するから」
「お~! 次も頑張るわ!」
「おー!」
パチン、と手を叩いて、肘を合わせる。
大会が始まってしまうと、各コートで試合が並行してしまうので、単独行動になりがちだ。お互いの状況は、トーナメント表で知ることになる。
大きく貼りだされているトーナメント表を見ると、塩野も順調に四回戦に勝ち進んでいた。
大会が始まってからは、本当にあっという間だった。
団体戦で次々と勝ち進み、残るは決勝だけになった。俺と塩野のペアは全戦全勝、他の部員のおかげもあった。俺がこんなところまでこられるなんてまさに奇跡で、塩野がいなかったら絶対に無理だったと思う。
最後の試合。絶対に勝ちたい。
「皆、頑張ろうな。ここまで連れてきてくれてありがとう。俺は頼りないけど、次は絶対に勝つから」
最後の円陣。塩野だけでなく、国田や藍沢、他の部員にも感謝を届けられるように言う。
「大丈夫だよー。お前、だいぶ頑張ってたから」
国田がからからと笑うと、隣の一年生も笑った。
「そうですよ。遠宮さん、この夏、練習、めっちゃ頑張ってたじゃないですかー」
「えっ」
見られていたのか、と気づき、思わず赤面する。
「休憩の間もずっと練習してたし」
俺達を囲む部員が全員頷いている中、横の塩野を見ると、無言だが「うんうん」と言いたげに視線が頷いている。
「みんなで、頑張りましょ!」
チームメイトの皆に肩を叩かれ、そのまま最後の円陣を組みなおし、「絶対勝つぞー!」と気合を入れた。
団体戦の決勝前。コート前のベンチでストレッチをしている塩野のもとに歩いていく。
「取れてるよ」
ベンチに座っている塩野の靴紐を結んでやった。塩野の細くもたくましい足首を見ていると、男を意識してなんだか変な気分だ。
「俺、もともとバド部に入るつもりなんてなかったんです。怪我してからしばらくラケット握ってなかったし、高校は運動部なんて面倒だから入らないようにしようと思ってたんです」
でも、と続けた顔を上げると、真剣な塩野が俺の視線をとらえる。
「でも、入ってよかった。皆とバドミントンできて良かったです」
そう言って微笑んだ顔が、誰よりもかっこよくて、俺は胸がいっぱいになった。ずっとこの笑顔を隣で、できるのなら、どんな女子よりも一番近くで見ていたい。そんな願望が湧いてくる。でも。
「今日で俺、最後なんだな~」
そう口にしても、実感がわかない。夏休みがあけても、六限が終わったら部室に通う生活も終わりなんだ。そう思うと無性に淋しくなった。
「塩野」
「なんですか」
「今までありがとうな」
「まだ早いですよ。気が早いのも遠宮さんらしいですね」
相変わらずの嫌味も、ちょっと元気がないけれど。
「今日の大会、優勝したら、あとで一つお願い聞いてもらえますか?」
「なに?」
「ちゃんと伝えたいことがあるんで。ちゃんと聞かないとだめですよ。俺命令です」
心がぐっと緊張で押される。
「な、なんだよ。伝えたいことって」
「それは秘密です」
「へ~。秘密か。じゃあ、楽しみにしてるわ」
溢れてくる緊張が、俺の耳を熱くさせる。試合前の緊張もあいまって、ラケットを握る手は汗でぐしょぐしょに濡れている。
「シングルスと団体、両方優勝したらな」
「そんなん、余裕です」
揶揄ったつもりが、塩野が笑う。本気でそうなりそうで逆に怖い。
「俺も、終わったあと言いたいことあったわ」
「きっと、ろくでもないことでしょうね」
「おい!」
あんなに昨晩緊張して伝える言葉を考えたのに。こっちを見て笑った塩野の目尻に、そんなのどうでもよくなる。どうせ、塩野には俺の気持ちなんて全部お見通しだ。
「じゃあ、行きましょうか」
差し出された手を、ぎゅっと握る。温かい手に、俺の想いを全て注ぐ。高鳴る鼓動とともに、俺達はコートに入った。 ~end~
「ナイスファイト! 遠宮!」
国田は四回戦まで勝ち進んでいる。
「国田もお疲れ! 次、四回戦だな。サイドで応援するから」
「お~! 次も頑張るわ!」
「おー!」
パチン、と手を叩いて、肘を合わせる。
大会が始まってしまうと、各コートで試合が並行してしまうので、単独行動になりがちだ。お互いの状況は、トーナメント表で知ることになる。
大きく貼りだされているトーナメント表を見ると、塩野も順調に四回戦に勝ち進んでいた。
大会が始まってからは、本当にあっという間だった。
団体戦で次々と勝ち進み、残るは決勝だけになった。俺と塩野のペアは全戦全勝、他の部員のおかげもあった。俺がこんなところまでこられるなんてまさに奇跡で、塩野がいなかったら絶対に無理だったと思う。
最後の試合。絶対に勝ちたい。
「皆、頑張ろうな。ここまで連れてきてくれてありがとう。俺は頼りないけど、次は絶対に勝つから」
最後の円陣。塩野だけでなく、国田や藍沢、他の部員にも感謝を届けられるように言う。
「大丈夫だよー。お前、だいぶ頑張ってたから」
国田がからからと笑うと、隣の一年生も笑った。
「そうですよ。遠宮さん、この夏、練習、めっちゃ頑張ってたじゃないですかー」
「えっ」
見られていたのか、と気づき、思わず赤面する。
「休憩の間もずっと練習してたし」
俺達を囲む部員が全員頷いている中、横の塩野を見ると、無言だが「うんうん」と言いたげに視線が頷いている。
「みんなで、頑張りましょ!」
チームメイトの皆に肩を叩かれ、そのまま最後の円陣を組みなおし、「絶対勝つぞー!」と気合を入れた。
団体戦の決勝前。コート前のベンチでストレッチをしている塩野のもとに歩いていく。
「取れてるよ」
ベンチに座っている塩野の靴紐を結んでやった。塩野の細くもたくましい足首を見ていると、男を意識してなんだか変な気分だ。
「俺、もともとバド部に入るつもりなんてなかったんです。怪我してからしばらくラケット握ってなかったし、高校は運動部なんて面倒だから入らないようにしようと思ってたんです」
でも、と続けた顔を上げると、真剣な塩野が俺の視線をとらえる。
「でも、入ってよかった。皆とバドミントンできて良かったです」
そう言って微笑んだ顔が、誰よりもかっこよくて、俺は胸がいっぱいになった。ずっとこの笑顔を隣で、できるのなら、どんな女子よりも一番近くで見ていたい。そんな願望が湧いてくる。でも。
「今日で俺、最後なんだな~」
そう口にしても、実感がわかない。夏休みがあけても、六限が終わったら部室に通う生活も終わりなんだ。そう思うと無性に淋しくなった。
「塩野」
「なんですか」
「今までありがとうな」
「まだ早いですよ。気が早いのも遠宮さんらしいですね」
相変わらずの嫌味も、ちょっと元気がないけれど。
「今日の大会、優勝したら、あとで一つお願い聞いてもらえますか?」
「なに?」
「ちゃんと伝えたいことがあるんで。ちゃんと聞かないとだめですよ。俺命令です」
心がぐっと緊張で押される。
「な、なんだよ。伝えたいことって」
「それは秘密です」
「へ~。秘密か。じゃあ、楽しみにしてるわ」
溢れてくる緊張が、俺の耳を熱くさせる。試合前の緊張もあいまって、ラケットを握る手は汗でぐしょぐしょに濡れている。
「シングルスと団体、両方優勝したらな」
「そんなん、余裕です」
揶揄ったつもりが、塩野が笑う。本気でそうなりそうで逆に怖い。
「俺も、終わったあと言いたいことあったわ」
「きっと、ろくでもないことでしょうね」
「おい!」
あんなに昨晩緊張して伝える言葉を考えたのに。こっちを見て笑った塩野の目尻に、そんなのどうでもよくなる。どうせ、塩野には俺の気持ちなんて全部お見通しだ。
「じゃあ、行きましょうか」
差し出された手を、ぎゅっと握る。温かい手に、俺の想いを全て注ぐ。高鳴る鼓動とともに、俺達はコートに入った。 ~end~

