二人きりの庭

 それから桜は、よく中庭に現れるようになった。
 たった一人の園芸部に決まった活動日はないけれど、いつ来るかわからない桜に合わせて、俺もよく中庭に居座るようになっていた。
 後輩を待ち侘びながら土いじりをするなんて、我ながら殊勝だと思う。
 今日は来てくれるかと期待して、来なかった日には肩を落として。だけど、次の日の放課後に会えると待っていた分の嬉しさがこみ上げる。
「鮎沢さん」
 手入れしているときに、後ろからそう呼ばれるのがお決まりだった。
「おつかれ。今日蒸し暑いから、来ないかと思ったよ」
「蒸し暑いから、心配で」
 出会ったときのように、円形花壇の縁に二人で腰掛ける。
 そんなふうに自分を気にかけてもらえるなんて、思ってもみなかった。桜の優しさに触れるたびに、胸の奥がくすぐったいような、心地が良いような不思議な感覚に囚われる。
 低い花壇の作業では、自ら椅子を持って隣に来てくれることが嬉しかった。足に負担をかけないようにするためだ。
 ごくたまに、桜は「経過は順調らしいです」とか「軽いジョギングはできるようになりました」と、怪我の状況を伝えてくれた。
「部への復帰はまだ先ですけど」
 そう言って、切なげに沈む視線が痛い。
 普段はあまり揺らぐことのないその瞳が、サッカーから遠ざけられている現実を思わせるたび、俺はくしゃりと頭を撫でた。
 一年前、自分を救ってくれたように。この場所が桜の、もう一つの居場所になることができていたらいいと思った。

 ひまわりを植えようと思ったのは、その想いがきっかけだったのかもしれない。

 すでに種を植えていた千日紅とは別に、ひまわりの種を撒いた。
 かつては太陽の下で見失った、眩しすぎる夏。いまでも空を見上げることに、抵抗がないわけじゃない。それでも、怪我と向き合い続ける桜を見ていると、太陽に向かってまっすぐ背を伸ばすあの花を咲かせてみたいと思ったのだ。
「ひまわり、っすか」
「手入れは大変だけど、桜にも見てもらいたくて」
「俺に?」
「うん。綺麗に咲かせるからさ」
 支柱を整えながら笑ってみせると、桜はパチパチと目を瞬く。そして嬉しそうに、だけどどこか照れ臭そうに口元を緩ませた。
 それからは俺がじょうろを持つと「俺もやります」と率先して世話をしてくれるようになり、ひまわりはぐんぐんと力強く葉を広げていった。