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翌日の中庭は、あの雷雨が嘘のように晴れ渡っていた。
夏の盛りは過ぎたはずなのに、猛暑の名残と大輪の花がうっかり夏を思わせる。もう少し、この夏が続けばいいのにと思わずには居られない。
「先輩に優しくされんの、初めてでした」
早朝の、暑くも爽やかな空気が揺れる。
出会ったあの日のように、俺と桜は円形花壇に腰を下ろして、ひまわりを見上げていた。
「小中では、あんまよく思われてなかったんで」
ぽつりと落とされる言葉を、俺は黙って聞く。
水川のように、恨みをぶつけられたことはこれまでにもあったそうだ。サッカーを続けるためには仕方のないことだと割り切っていた。ずっと、それが当たり前だったのだ、と。
差し込む真夏の光のなかで、桜の横顔がどこかあどけなく揺れている。
「だから、鮎沢さんは特別です」
「へっ……?」
いきなりそこに飛ぶのか。
油断していたところを突かれて、顔に熱が集まる。そんな状態にもお構いなしに、桜は俺の頬に触れた。
「ちょっ、桜……」
「優しくしてくれて、嬉しかったっす。好きです」
「なっ……」
バカ、バカバカバカ。
昨日から、まるで覚えたての子どものように、愛の告白を募らせる。そういう実直なところが大好きだけど、厄介だなとも思った。
だって、こんなのが続いたら心臓がもたない。
「赤いですね。顔」
「う、うるさい……! 仕方ないだろ、慣れてないんだし!」
「かわいい」
「……っ」
ふっと笑みを落とす桜に、心臓が鷲掴まれる。学校だということを忘れてしまうくらいに、甘い空気が立ち込める。
火照った顔を冷ますようにして立ち上がれば、桜はまた隣を埋める。ひまわりが、さっきよりも近くで息をしている。
「……桜のこと、応援してるから」
グラウンドの方から運動部員たちの話し声が、風に乗って聞こえてくる。桜があの場所へと戻っていくのは、きっとそう遠い未来じゃない。
でも、もしまた足元をすくわれるような冷たい雨に打たれたら。そのときは──、
「いつでも、俺はここで待ってる」
そう告げると、桜は真剣な眼差しで頷いた。
ふと、隣に並ぶ大きな手が俺の指先に触れる。誰に見られることもなく、そっと自分の指を絡めれば、桜の影が降ってくる。
“あなただけを見つめてる”
黙ってキスを落とした桜の代わりに、ひまわりがそう告げてくれた気がした。
End.
