「はい、訂正」
「はぃいいッ」
「やり直し」
「す、すいませんんんッ」
「……あとここだけ──」
「直します!」
今日も数人の部下が書き上げる書類の訂正が山積みだ。向上心がある後輩はわからなければすぐに僕に質問しに来てくれるのだが、特にない奴は……「田嶋さんんっ」とまた手を抜いて眠っている彼を頼る。
「ここ教えてほしくて……」
「嶌田に聞きなよ……」
「嫌です、鬼ですもん」
ここまで聞こえてるよ。
内心ガックリ項垂れながら仕事していれば「アイツは極端に嶌田さんのこと怖がってますよね」と向上心ある後輩の1人……向井が再び書類を提出しに来ながら僕に言う。
「はは、まあ……事実だし」
「いいえ? 確かに嶌田さん、見た目はおっかないですけど」
「(思ってたんかい)」
「でも話しかけたら案外優しいって気づきましたよ、ボクは。答えは出さないけどヒントを出してくれる……みたいな」
「そう?」
僕の教えも無駄ではなかったようだ。部長になって数ヶ月、段々話しかけられることが増えた。
「アイツも、わかればいいんですけど」
「甘草ねぇ〜……」
正直1番ミスが多くて手を焼いてはいる。今も田嶋に変わりをやらせて甘草自身は見ているだけだ。
「あの野郎……」
「まあまあ。田嶋が見てくれるなら大きなミスには繋がらないから」
向井の米神に青筋が走り慌てて宥める。向上心の塊である向井にとったら甘草の行動は論外なのだろう。僕は向井という後輩を宥めることが増えて甘草に苛立つことが減って助かってはいる。
「ボクはいつか嶌田さんのようになりたいと思っています。甘草はあのままだと一生成長しない……田嶋さんのようになるだけですよ」
向井はそれだけを言って自分のデスクに戻っていく。僕は最後の言葉に上手く順応出来なかった。……田嶋と甘草のやり取りを眺める。
「これを……こうして……こう」
「流石っスね〜! 助かります〜!」
「いや、これ3回目なんだけど……」
田嶋も流石に顔を顰めながら甘草を見る。「提出してきま〜す!」と甘草はのらりくらりと躱し、僕の元まで来て「確認お願いしまっス!」と元気に言う。……確認するまでもない。結局田嶋がやったものだ。書類を受け取り「甘草」と声をかける。
「田嶋にだって自分の仕事がある。次はもう少し自分で解決してみようか」
「え、え〜……でもオレまじでわからなくて〜……」
「甘草がわからないところは、向井には解決出来るところだ。だから、次は一度向井に尋ねてみてほしい」
「……っス。わかりました〜」
向井のゲッ! という顔を見た気がしたが、気づかないフリをして作業に戻る。
『甘草はあのままだと成長しない……田嶋さんのようになるだけですよ』
向井のこの言葉が胸に突き刺さって抜けない。
*
「それで? ヘコんでるんだ」
「……何も言い返せなくて……」
「はは、そりゃ可愛い後輩たちは俺の過去知るわけないからね」
「でも」
「上手く隠し通せてるってことじゃん。俺は言われっぱなしでいいよ。実際手を抜いている平社員だし」
「……たぁちゃんは僕より全然出来る人だって、自慢したいんだけどな」
家に帰り、2人で夕食。
今日、たぁちゃんは肉じゃがを作って待ってくれていた。優しいじゃがいもの味がお腹と胸に染み渡る……と噛み締めながら飲み込んで、会社での出来事を話していく。
「俺もう頑張らないって決めてるから」
「……うん」
向かいに座って黙々と食べてるたぁちゃん。前は前髪をキッチリ固めて額を出していたのに、今はその前髪は重く額から目元まで隠している。
自然と手が伸び前髪に触れ掻き分ければ、たぁちゃんはビクッと身を強張らせた。
「あ、ごめん!」
「ううん。……いきなりで驚いただけ。でも……しーくんでも、ココに触れる時は声かけてからにしてほしい」
「……わかった」
ココ。前髪。普段は見えないけれど、その額には大きな傷痕が残っている。
「……そんな顔すんなって」
一瞬でも怖がらせた僕自身を悔いていれば、たぁちゃんは苦笑して僕を優しく見つめる。
「……こんな俺含めて愛してくれるんでしょ」
「うん」
「即答。いいね。……今日、どう?」
誘われて。一気に体温が熱くなり頷けば「準備して待ってる」と穏やかに言って白米を一口頬張った。
たぁちゃんが仕事一筋じゃなくなったのと、額に大きな傷痕があるのは関係があった。
でもそれは、まだ今は追及しなくていい。
僕もあまり思い出したくない出来事だったから。
手を焼く可愛い後輩たち【完】
「はぃいいッ」
「やり直し」
「す、すいませんんんッ」
「……あとここだけ──」
「直します!」
今日も数人の部下が書き上げる書類の訂正が山積みだ。向上心がある後輩はわからなければすぐに僕に質問しに来てくれるのだが、特にない奴は……「田嶋さんんっ」とまた手を抜いて眠っている彼を頼る。
「ここ教えてほしくて……」
「嶌田に聞きなよ……」
「嫌です、鬼ですもん」
ここまで聞こえてるよ。
内心ガックリ項垂れながら仕事していれば「アイツは極端に嶌田さんのこと怖がってますよね」と向上心ある後輩の1人……向井が再び書類を提出しに来ながら僕に言う。
「はは、まあ……事実だし」
「いいえ? 確かに嶌田さん、見た目はおっかないですけど」
「(思ってたんかい)」
「でも話しかけたら案外優しいって気づきましたよ、ボクは。答えは出さないけどヒントを出してくれる……みたいな」
「そう?」
僕の教えも無駄ではなかったようだ。部長になって数ヶ月、段々話しかけられることが増えた。
「アイツも、わかればいいんですけど」
「甘草ねぇ〜……」
正直1番ミスが多くて手を焼いてはいる。今も田嶋に変わりをやらせて甘草自身は見ているだけだ。
「あの野郎……」
「まあまあ。田嶋が見てくれるなら大きなミスには繋がらないから」
向井の米神に青筋が走り慌てて宥める。向上心の塊である向井にとったら甘草の行動は論外なのだろう。僕は向井という後輩を宥めることが増えて甘草に苛立つことが減って助かってはいる。
「ボクはいつか嶌田さんのようになりたいと思っています。甘草はあのままだと一生成長しない……田嶋さんのようになるだけですよ」
向井はそれだけを言って自分のデスクに戻っていく。僕は最後の言葉に上手く順応出来なかった。……田嶋と甘草のやり取りを眺める。
「これを……こうして……こう」
「流石っスね〜! 助かります〜!」
「いや、これ3回目なんだけど……」
田嶋も流石に顔を顰めながら甘草を見る。「提出してきま〜す!」と甘草はのらりくらりと躱し、僕の元まで来て「確認お願いしまっス!」と元気に言う。……確認するまでもない。結局田嶋がやったものだ。書類を受け取り「甘草」と声をかける。
「田嶋にだって自分の仕事がある。次はもう少し自分で解決してみようか」
「え、え〜……でもオレまじでわからなくて〜……」
「甘草がわからないところは、向井には解決出来るところだ。だから、次は一度向井に尋ねてみてほしい」
「……っス。わかりました〜」
向井のゲッ! という顔を見た気がしたが、気づかないフリをして作業に戻る。
『甘草はあのままだと成長しない……田嶋さんのようになるだけですよ』
向井のこの言葉が胸に突き刺さって抜けない。
*
「それで? ヘコんでるんだ」
「……何も言い返せなくて……」
「はは、そりゃ可愛い後輩たちは俺の過去知るわけないからね」
「でも」
「上手く隠し通せてるってことじゃん。俺は言われっぱなしでいいよ。実際手を抜いている平社員だし」
「……たぁちゃんは僕より全然出来る人だって、自慢したいんだけどな」
家に帰り、2人で夕食。
今日、たぁちゃんは肉じゃがを作って待ってくれていた。優しいじゃがいもの味がお腹と胸に染み渡る……と噛み締めながら飲み込んで、会社での出来事を話していく。
「俺もう頑張らないって決めてるから」
「……うん」
向かいに座って黙々と食べてるたぁちゃん。前は前髪をキッチリ固めて額を出していたのに、今はその前髪は重く額から目元まで隠している。
自然と手が伸び前髪に触れ掻き分ければ、たぁちゃんはビクッと身を強張らせた。
「あ、ごめん!」
「ううん。……いきなりで驚いただけ。でも……しーくんでも、ココに触れる時は声かけてからにしてほしい」
「……わかった」
ココ。前髪。普段は見えないけれど、その額には大きな傷痕が残っている。
「……そんな顔すんなって」
一瞬でも怖がらせた僕自身を悔いていれば、たぁちゃんは苦笑して僕を優しく見つめる。
「……こんな俺含めて愛してくれるんでしょ」
「うん」
「即答。いいね。……今日、どう?」
誘われて。一気に体温が熱くなり頷けば「準備して待ってる」と穏やかに言って白米を一口頬張った。
たぁちゃんが仕事一筋じゃなくなったのと、額に大きな傷痕があるのは関係があった。
でもそれは、まだ今は追及しなくていい。
僕もあまり思い出したくない出来事だったから。
手を焼く可愛い後輩たち【完】


