祟り姫と変態王子の怪異録

 放課後の教室は、妙な熱気に包まれていた。
「王子せんぱーい!」
「先輩が占ってくれるんですか!?嬉しいです!」
「ちょっと!割り込まないでよ!私が先!」
「後輩なら先輩に譲りなさいよ!」
「先輩も後輩も関係ないですよー!」
「え、蛇?!」
「シロ太くんっていうの?可愛い〜!」
 女子生徒たちが机の周りに群がり、教室はちょっとしたパニック状態になっていた。
 その中心にいるのは、もちろん王子と(シロ太)だ。
 織姫は呆然とその光景を眺めた。
「王子……これは何?」
「実力があるのに知名度と人望がない……そんな多々羅さんに必要なのは、マーケティング力だよ」
 王子はエア眼鏡を押す仕草をすると、自信満々にタブレットを取り出した。見せてきたのは、インストという主に若い子達が使っているSNSのツール画面だ。
『王子プロデュース始めました!』
『今、巷で話題の凄腕霊媒師・多々羅織姫氏による恋愛占い会開催!』
 王子のインストにはそんな麺の宣伝文みたいな文句と共に、いつ撮影したのか分からない織姫の写真まで掲載されている。しかも除霊の仕事中のものだ。
「何これ!?私は占い師じゃないんですけど!」
「でも女子って占い好きな人多そうじゃない? ここで成果を出せば、今後も依頼が来るかもしれないよ? もちろん仲介料も取らないし」
「いやいやいや!」
 織姫は群がる女子たちを指差した。
「この人たち、どう見てもあんたのお客さんでしょ。それにシロ太まで連れ出してきて」
「マスコットがいたら和むでしょ?」
「シロ太はマスコットじゃないんですけど?!」
 王子はぱんっと両手を合わせた。
「お願い! 同席させてくれるだけでいいから!」
 取材と、キラキラとした目で王子が見てくるので、織姫は好きにさせることにした。
 どうせ断ったところで、王子は強引に押し切ってくる。そして気づけば、いつものように王子のペースに巻き込まれているのだ。
 下手に反論するより、適当に迎合した方がダメージが少ない。それを織姫は、この数日で嫌というほど学んでいた。
「王子先輩ー!私の恋愛運見てください!」
「私も!」
「私からお願いします!」
 女子生徒たちが雪崩のように押し寄せた。
 
「つ、疲れた……」
 最後の相談者を見送るなり、織姫は机に突っ伏した。隣で王子がのんきに笑う。
「盛況だったねえ」
「あんたのお陰でね……」
 実態は、占いとは名ばかりの恋愛相談会だった。
織姫がしたことは、恋人や好きな相手がいる人には、まず写真を見せてもらうことだった。
 織姫の目には、良くない霊に取り憑かれている人間の背後には黒い靄のようなものが見える。そういう相手は大抵ろくでもない。
 実際に話を聞いてみれば、浮気癖があったり、遊び目的だったりと問題を抱えていることが多かった。だから、織姫は当たり障りのない範囲で助言をして終わらせる。
 一番対応に困ったのは、推しに本気で恋をしている子たちだった。
「どうしたら推しと付き合えますか?」
「王子先輩の好きなタイプは?!」
「王子先輩と付き合うにはどうしたらいいですか?」
 そんな相談を持ち込んでくる。そして相談と言いながら、ほとんどの場合は推しや王子の素晴らしさを延々と語るだけだ。
 織姫は何もしていないのに、持ち時間の15分をひとしきり喋ると満足したように帰っていく。
 順番を待っている人達は、王子とシロ太を眺めたり写真を撮ったりしていた。もはや、後半は占いそっちのけで、王子とシロ太の鑑賞会になっていた。
「もっと単価を上げればよかったのに」
 レジ代りのお菓子の箱のお金を見て王子は呟いた。そこに入っているのは、100円や10円などの小銭ばかりだ。
 織姫は占いの代金を500円以上は貰わなかった。普段は金にがめついように見える織姫とは正反対の行動だ。
 織姫は机に突っ伏したまま、億劫そうに答えた。
「占いは私の専門外だしね」
「どうしてそれがお金を貰わないことに繋がるの? 占いだって立派な労働でしょ?」
「霊媒師は、自分だけの願いのために神仏の力を使ってはならない……素人が霊力を使って金儲けしたり、他人を傷つけたりしたら罰があたるのよ」
「罰?」
「力が無くなって何も視えなくなったり、酷い時は死ぬ時もある」
「そんな……!」
 目に視えない世界には、視えない世界のルールがある。
 霊媒師は清く正しく生き、弱き者を助ける存在で在らねばならない。
 それが特殊な力を持つ霊媒師に課せられた掟のまず1つである。
 それを破った者の末路は悲惨だ。いつか必ず闇に堕ちて身を滅ぼす。例え肉体を失い、魂だけの身となっても。
 だから、織姫は霊媒の力を使う時、それを心掛けている。
 ただ、織姫の父親のように献身奉仕の精神が強すぎて、逆に身を滅ぼすタイプもいるが。
「だから対価を頂くには、相応の働きをせねばならない。私の場合、専門外の占いなら、せいぜいパン1個とかジュース1本分が妥当ね」
「なるほど。メモメモ」
 王子は嬉々として手帳に書き込んでいた。どうやらあんな雑多な会でも有意義な取材になったようだ。
「シロ太もお疲れ様。ありがとうね」
 織姫は帰りにあげようと思っていた爬虫類用のウィンナーをシロ太の前に出した。
 肉食の蛇の主食はマウスやウズラなどだが、さすがにそれは学校に持って行けないので、織姫が選んだのは代用の人口フードだ。しかし、幸いにもシロ太は食べてくれる蛇だった。
 ウィンナーを咀嚼するシロ太の頭を撫でると、気持ちよさそうに瞼を開閉させた。