「織姫、食べながら本を読むのは行儀が悪いぞ。作ってくれた人が悲しむ」
「私が作ったんだからいいんですー」
父親に注意されても、織姫は気にも留めない。片手で雑誌をめくりながら、もう片方の手でスプーンを動かし汁を啜った。
今日の夕食は、冷蔵庫にある野菜と一口大にちぎった小麦粉を煮込んだだけの簡単すいとん汁だ。安くて腹持ちもよく、家計に優しい節約レシピだ。
湯気の立つ器を覗き込みながら、王子が得意げに言った。
「僕知ってるよ!この料理、ねこまんまって言うんでしょ!」
「すいとんね。悪かったね、貧乏飯で」
王子は初めて見るすいとんを興味津々に箸でつつき、おそるおそる口へ運ぶ。数回咀嚼すると、その表情がぱっと明るくなった。
「このお餅、美味しい!」
「だからすいとんね」
夢中ですいとんを頬張る王子を横目に見ながら、織姫は修造へ視線を向ける。
「そういえば父さん。今日は珍しく依頼があったんでしょ?」
「ああ、それがさ!」
修造は待ってましたとばかりに顔を輝かせた。
「西田のお婆ちゃんとこの猫が脱走したみたいでさ。この2日間、あちこち探したんだよ。そしたら神社の軒下に居てさ。いやぁ、見つかってよかった」
霊媒師を名乗ってはいるが、身体が弱く霊能力もそれほど強くない修造の仕事は、もはや便利屋に近い。
それでも、収入になるなら、なんでもよかった。織姫は無言で修造の前に手を差し出した。
「あの、織姫サン?この手は何でしょう?」
「お金は?当然、依頼料貰ってきたんでしょうね」
にっこりと笑顔を浮かべる織姫。修造は罰が悪そうに目をそらした。
「あの婆ちゃん、年金暮らしだからさ……可哀想だろ……」
直訳するとお金を貰わなかった。である。
「あ、でも代わりにじゃがいも貰ってきたから!」
修造は慌てて自室へ向かうと、ビニール袋を掲げて戻ってきた。ごろごろと立派なじゃがいもが顔を覗かせる。
「家庭菜園で作った無農薬のじゃがいもでね、絶対美味しいはずだよ!」
「……じゃがいもだけじゃ、生活出来ないでしょうが!」
織姫の絶叫が家中に響き渡った。
「まったく、信じられない!」
織姫は文句を言いながら、再び手元の雑誌を開いた。
「多々羅さん、何を読んでるの?」
「求人情報。バイト先探してる」
「え、バイト?!今も新聞配達してるのに?」
「借金増えたからね……それに、シロ太のご飯代も稼がないと」
家業の依頼がいつ入るか分からないので、固定の仕事は朝刊配達だけだ。時給1300円で週5日働いて約4万円。それが織姫の主な収入源だ。
シロ太の餌代は月にすると数千円程。しかし、借金まみれの多々羅家にとっては決して小さな出費ではない。
「うちの娘は金の話ばかりだなぁ。少しは年頃の娘らしい話はないのか」
「父さんがちゃんと稼いできてくれたら、私も金の話をしなくて済むんだけど」
「……ぐっ……ゲホッゴホッ……茶、茶」
「もう、父さん何やってんのよ」
噎せて咳き込む修造の前にお茶を置く。
果物は買うと高い。だから、修造が依頼料代わりに貰ってくる野菜や果物には、正直助けられている部分もある。
しかし、それを本人に言うと調子に乗るので黙っておくことにする。
しかし、それを本人に言うと調子に乗るので黙っておくことにする。
「何か効率よく稼げる仕事はないかな……」
織姫は求人欄を睨みながら、静かにため息をついた。
「株は?初期費用なら貸すよ」
「株とかはちょっと……」
「何かよく分かんないし、失敗したら怖いし」
「多々羅さんって意外とアナログだよね」
「馬鹿にしてる?」
「まさか」
王子は首を横に振った。
「自分で働いてお金を稼いでるんだから、すごいと思うよ」
「はいはい。どうせ私はガラパゴスババアですよ」
「そこまで言ってないけどなぁ……」
奏人は少し考え込んだ。そして、ぽんと手を打つ。
「じゃあ、祟り姫は?」
「へ?」
「多々羅さん、お祓いが出来るんだから、祟られている人を見つければいいんだよ」
名案を思いついたと言わんばかりの爽やかな笑顔だった。織姫は数秒ほど固まった。そして。
「祟りがほいほいあってたまるか!」
本日二度目の絶叫が、家中に響いた。
「織姫、何もそこまで怒鳴らなくても……」
修造が耳を押さえながら言った。王子も圧に負けじと質問する。
「でもさ、多々羅家って有名な霊媒師一族なんでしょ? 祟りじゃなくても、霊視とか相談とか、依頼はたくさん来そうだけど」
「……私に依頼してくる人間なんて、よっぽどの変わり者だよ」
「つまり、人望がないから依頼が来ないってこと?」
「失礼な!」
王子のあまりの無遠慮な発言に、織姫が思わず机を叩く。
「依頼なら毎日されてる!」
「おお!」
「……怪異達にはね」
「なるほど」
王子は納得したように頷いた。
「確かに現金を運んでくるのは人間だもんね」
「ぐっ……」
痛い話だ。織姫がどれだけ霊たちの願いを聞いたところで、一円にもならないのだ。むしろ、体力と気力ばかり削られていく。
「怪異にも依頼料請求できたらいいのに……」
「それなら、良い方法があるよ!」
「本当?教えて!」
「簡単だよ。僕と結婚……」
「却下!」
「酷い……」
よよよ、と王子がわざと泣き真似をする。真面目に相談した自分が馬鹿だった。ここはやはり、さらなる節約を心掛けるしかないか。
「つまり、依頼が増えれば良いんだよね?」
「そうだけど」
「任せて! 人集めなら得意だよ」
とびきりの笑顔で王子が言った。
「私が作ったんだからいいんですー」
父親に注意されても、織姫は気にも留めない。片手で雑誌をめくりながら、もう片方の手でスプーンを動かし汁を啜った。
今日の夕食は、冷蔵庫にある野菜と一口大にちぎった小麦粉を煮込んだだけの簡単すいとん汁だ。安くて腹持ちもよく、家計に優しい節約レシピだ。
湯気の立つ器を覗き込みながら、王子が得意げに言った。
「僕知ってるよ!この料理、ねこまんまって言うんでしょ!」
「すいとんね。悪かったね、貧乏飯で」
王子は初めて見るすいとんを興味津々に箸でつつき、おそるおそる口へ運ぶ。数回咀嚼すると、その表情がぱっと明るくなった。
「このお餅、美味しい!」
「だからすいとんね」
夢中ですいとんを頬張る王子を横目に見ながら、織姫は修造へ視線を向ける。
「そういえば父さん。今日は珍しく依頼があったんでしょ?」
「ああ、それがさ!」
修造は待ってましたとばかりに顔を輝かせた。
「西田のお婆ちゃんとこの猫が脱走したみたいでさ。この2日間、あちこち探したんだよ。そしたら神社の軒下に居てさ。いやぁ、見つかってよかった」
霊媒師を名乗ってはいるが、身体が弱く霊能力もそれほど強くない修造の仕事は、もはや便利屋に近い。
それでも、収入になるなら、なんでもよかった。織姫は無言で修造の前に手を差し出した。
「あの、織姫サン?この手は何でしょう?」
「お金は?当然、依頼料貰ってきたんでしょうね」
にっこりと笑顔を浮かべる織姫。修造は罰が悪そうに目をそらした。
「あの婆ちゃん、年金暮らしだからさ……可哀想だろ……」
直訳するとお金を貰わなかった。である。
「あ、でも代わりにじゃがいも貰ってきたから!」
修造は慌てて自室へ向かうと、ビニール袋を掲げて戻ってきた。ごろごろと立派なじゃがいもが顔を覗かせる。
「家庭菜園で作った無農薬のじゃがいもでね、絶対美味しいはずだよ!」
「……じゃがいもだけじゃ、生活出来ないでしょうが!」
織姫の絶叫が家中に響き渡った。
「まったく、信じられない!」
織姫は文句を言いながら、再び手元の雑誌を開いた。
「多々羅さん、何を読んでるの?」
「求人情報。バイト先探してる」
「え、バイト?!今も新聞配達してるのに?」
「借金増えたからね……それに、シロ太のご飯代も稼がないと」
家業の依頼がいつ入るか分からないので、固定の仕事は朝刊配達だけだ。時給1300円で週5日働いて約4万円。それが織姫の主な収入源だ。
シロ太の餌代は月にすると数千円程。しかし、借金まみれの多々羅家にとっては決して小さな出費ではない。
「うちの娘は金の話ばかりだなぁ。少しは年頃の娘らしい話はないのか」
「父さんがちゃんと稼いできてくれたら、私も金の話をしなくて済むんだけど」
「……ぐっ……ゲホッゴホッ……茶、茶」
「もう、父さん何やってんのよ」
噎せて咳き込む修造の前にお茶を置く。
果物は買うと高い。だから、修造が依頼料代わりに貰ってくる野菜や果物には、正直助けられている部分もある。
しかし、それを本人に言うと調子に乗るので黙っておくことにする。
しかし、それを本人に言うと調子に乗るので黙っておくことにする。
「何か効率よく稼げる仕事はないかな……」
織姫は求人欄を睨みながら、静かにため息をついた。
「株は?初期費用なら貸すよ」
「株とかはちょっと……」
「何かよく分かんないし、失敗したら怖いし」
「多々羅さんって意外とアナログだよね」
「馬鹿にしてる?」
「まさか」
王子は首を横に振った。
「自分で働いてお金を稼いでるんだから、すごいと思うよ」
「はいはい。どうせ私はガラパゴスババアですよ」
「そこまで言ってないけどなぁ……」
奏人は少し考え込んだ。そして、ぽんと手を打つ。
「じゃあ、祟り姫は?」
「へ?」
「多々羅さん、お祓いが出来るんだから、祟られている人を見つければいいんだよ」
名案を思いついたと言わんばかりの爽やかな笑顔だった。織姫は数秒ほど固まった。そして。
「祟りがほいほいあってたまるか!」
本日二度目の絶叫が、家中に響いた。
「織姫、何もそこまで怒鳴らなくても……」
修造が耳を押さえながら言った。王子も圧に負けじと質問する。
「でもさ、多々羅家って有名な霊媒師一族なんでしょ? 祟りじゃなくても、霊視とか相談とか、依頼はたくさん来そうだけど」
「……私に依頼してくる人間なんて、よっぽどの変わり者だよ」
「つまり、人望がないから依頼が来ないってこと?」
「失礼な!」
王子のあまりの無遠慮な発言に、織姫が思わず机を叩く。
「依頼なら毎日されてる!」
「おお!」
「……怪異達にはね」
「なるほど」
王子は納得したように頷いた。
「確かに現金を運んでくるのは人間だもんね」
「ぐっ……」
痛い話だ。織姫がどれだけ霊たちの願いを聞いたところで、一円にもならないのだ。むしろ、体力と気力ばかり削られていく。
「怪異にも依頼料請求できたらいいのに……」
「それなら、良い方法があるよ!」
「本当?教えて!」
「簡単だよ。僕と結婚……」
「却下!」
「酷い……」
よよよ、と王子がわざと泣き真似をする。真面目に相談した自分が馬鹿だった。ここはやはり、さらなる節約を心掛けるしかないか。
「つまり、依頼が増えれば良いんだよね?」
「そうだけど」
「任せて! 人集めなら得意だよ」
とびきりの笑顔で王子が言った。

