祟り姫と変態王子の怪異録

「西原は今日も体調不良で休みだそうだ。これで五日目だな」
 朝のホームルーム。担任の松山は気だるそうに出席簿をめくり、西原の名前を読み上げた。教室中が少しざわつく。
 そういえば、最近平和だと思った……。
 織姫は西原の欠席数日めにして彼女の休みに気づいた。
 織姫の頭の中はシロ太の事でいっぱいだったからだ。
 あの夢以来、一度もシロ太の姿を見ていない。王子と共に何度か裏山へ行ったが、供え物も手を付けられていなかった。
 この数日は雨が降り続き、裏山全体が妙に静まり返っている。そのせいか気配を探ろうとしても、何も感じられなかった。
 どこかで雨宿りをしているのかもしれない。
別の縄張りで獲物を見つけて、お腹が空いていないのかもしれない。
 ただそれだけならよい。
 またいつものように、元気な姿を見せてくれたらそれだけで。
 しかし、そんな願いとは裏腹に、織姫は思いもよらない形でシロ太の行方を知ることになる。

 その日も、朝から雨が降っていた。新聞配達を終えた織姫が販売店の軒先へ戻ると、迎えに来ていた王子が傘を差して待っていた。
「帰ろっか」
 王子の言葉に頷き、帰り支度をしていると、店の奥からさよ夫人がどこか思いつめた表情で歩み寄ってきた。
「織姫ちゃん、これから少し時間ある? 相談があるんだけど……」
「はい。どうしました?」
「織姫ちゃんのお家って、お祓い屋さんでしょう? 織姫ちゃんも、お祓いできるの?」
「まぁ、ある程度なら」
「えっ! 怪奇現象ですか!? それとも心霊事……」
「あんたは黙ってなさい!」
「痛っ!」
 嬉々としてペンと取材帳を取り出す王子の太ももを織姫は抓って黙らす。
「あなた達お似合いねぇ」
「あはは……」
 織姫はその言葉に苦笑いだけ返して、さよ夫人に続きを促す。
「実はね……孫が原因不明の病気らしいの。何かに締めつけられたみたいに足がパンパンに腫れてて……病院で検査しても、原因不明で」
「なるほど、原因不明の病気」
「ええ、それだけじゃなくて、様子もおかしくて……」
「どんな様子ですか?」
「地面を這ってご飯を食べたり、誰もいない所に向かって話したり、突然叫び出したりするらしいの。注意すると噛みつくんだって……だから私は、あの子が狐か何かに取り憑かれたんじゃないかって思って……」
「噛みつく、ね……」
 織姫の表情がわずかに引き締まる。確かに動物霊に憑依された人間は、獣のような仕草を見せることがある。皿に顔を近づけて食事をしたり、四つん這いで歩いたり……など。
 人間離れした所作をし始めた場合は、大抵が動物霊に憑依されている。
「それでね?昨日、あの娘から気味の悪い写真まで送られてきて……」
 夫人は携帯から一枚の写真を見せた。画面を覗き込んだ瞬間、織姫と王子の動きが止まる。
「多々羅さん……こ、この写真って……」
 王子が織姫を窺い見る。これ以上は聞いてはならない。
 と、織姫の頭の中では警告音が盛大に鳴り響いている。鉛のように重たい口をどうにか開けて、言葉を絞り出す。
「……お孫さんのお名前は?」
 織姫の心臓がどくりと脈打つ。
「あれ?言ってなかったっけ?西原穂乃果よ。私の外孫なの」
 夫人が言い終える前に織姫は即座に店を飛び出した。