その2日後、ヨーシー民に採掘させ、その利益を優等人種が独占支配するメタンガス採掘場を、ボクと珠美さんは爆弾で破壊した。
採掘場で仕事をするヨーシー民は無事、全員避難できた。ボクが爆弾を仕掛ければ、無駄なケガ人は生まれない。
その帰り、珠美さんと並んで空を飛ぶ。思いついた作戦を話せるタイミングは、今、ここしかない。裏切者がいるアジトの中で喋るのは危険だからだ。
「ボス、話があります」
「お、裏切者をあぶり出す作戦を思いついたのか?」
「はい」
「で、どうする?」
東京の公安省に総攻撃し、公安大臣と事務次官を暗殺する計画です」
「それは面白そうだな」
「でも、実際には暗殺はしません。
ボクが提案した作戦は、こうだ。東京にある公安省を攻撃するため、ヤタガラスのメンバーを総動員して、アジトを完全に無人にする。すると、公安はその隙にアジトを乗っ取りにくるはず。公安はボクや珠美さんの命よりも、ヤタガラスがアジトに集積しているハイレベルな軍事・通信技術や兵器を奪いたいからだ。しかし、コアメンバーの身体に埋められたICチップ認証がないとこのアジト入口のロックは解除されないから、裏切者は必ず公安を迎え入れるためにアジトに戻ってくる。そこを束縛する、という作戦だ。
「メンバー全員、一旦、東京の公安省へ行くんだろ? そこからアジトに戻るのが間に合うのか?」
「それは、分かりません。でも確実に裏切者は分かります」
「いいだろう」
ボクと珠美さんはアジトに戻ると、さっそくコアメンバーを集め、この極秘作戦を伝えた。
「いいんですか、ボス? この中に裏切者がいるのに、こんな作戦をやっちゃって」
小川さんは、心配そうに確認する。
「いいんだ。私たちの本当の敵は裏切者ではなく、公安大臣とその下にいる官僚、特に事務次官だ。裏切者が余計なことをして、こっちが全滅するくらいなら、先に仕掛けてやればいい」
「ここを無人にするなんて初めて。私だけでも残りましょうか?」
ミホさんは提案する。すでに裏切者でないことを証明できているから、残ってもいいと言えばいい。しかし、それでは公安と裏切者が自由に泳げなくなってしまう。
「ミホさん、一緒に東京に行きましょうよ」
「えー! 俊介くんが言うなら、私も東京に行くー」と言って、またボクの右手をギュウって握りしめた。
「裏切者だと疑われるのは癪だから、私はもちろん、行くわ」
キッコさんが言うと、すぐに吉馬さんと小川さんも賛成した。
これでいい。
「で、ボス。作戦を決行するのは、いつ? 来週ですか?」
小川さんは張り詰めた表情で珠美さんに確認する。
「今からだ」
「今?」
これにはみんな、驚いている。公安に準備をする時間を与えてはいけないし、裏切者も動揺してどこかでボロを出すことだろう。
「じゃあ、1時間後に出発する! 各自準備をしろ」
全員が声を合わせ「はい!」と返事した。
この作戦は、各地にいるヤタガラスの全メンバー130人ほどが結集して東京に向う。
「この作戦は、行くのに1時間、作戦決行に1時間、戻ってくるのに1時間の合計3時間を目標にして終わらせる。いいな!」
アジト前に集合した全メンバーに、珠美さんは語りかけた。
「それで、すべてが終わったら、ここで宴を催す。すでに酒も、食料もこのアジトに置いてある!」
メンバーから歓喜の声が上がる。
「残念だが、この場所は公安に知られてしまっているようだ。だから、この作戦が終わったらアジトの場所を変えなければならない。このアジトで最後の宴だ。みんな、生きてここに戻ってくるんだぞ!」
「おお!」というかけ声とともに、全員一斉に出発した。
人数が多すぎるので、いつものように個々の翼で移動するのではなく、大型の戦闘機を数台に分けて乗り合わせた。コアメンバー6人は全員、同じ戦闘機に乗っている。操縦するのは、裏切者ではないことが分かっているミホさんだ。
ミホさん以外の5人は、後部の向い合わせに設置されたシートに座っていた。ボクの隣に珠美さん。向いには、吉馬さん、キッコさん、小川さんが座る。
裏切者がいるから、きっと、ボクたちの動きは公安に漏れている。今頃、公安の上層部は焦っていることだろう。東京の公安省を守りつつ、ボクらのアジトを占領しなければいけないのだから。
裏切者は、吉馬さんか? キッコさんか? それとも、小川さんか?
東京を目指す戦闘機は、静岡県に入り、やがて富士山が見えた。
そろそろ、公安は空っぽになったボクらのアジトを占拠するために動き出すはずだ。そして、アジトの中に侵入するために、裏切者も急いでアジトに戻らなければならないはず。
さあ、どうする?
吉馬さん、キッコさん、小川さんの3人とも、今のところは表情に変化はない。むしろ、気持ちに余裕すらあるように感じる。
なぜだ?
「ボス、公安が動いたわよ!」
操縦席にいるミホさんが、レーダーで公安の動きを探知して報告してきた。
ついに、裏切者が動くか?
緊迫した機内で、キッコさんが急に笑って言う。
「さて、じゃあ、公安が待つアジトに引き戻りましょうか? ねえ、ボス。いや、珠美!」
キッコさんは勝ち誇ったような顔で、珠美さんに命令する。
「裏切者は、お前か? ……キッコ!」
珠美さんとボクが銃をキッコさんに向けて構えようとするよりも早く、左右から身体を取り押さえられた。
え? どういうことだ?
「おっと、動かないでよ」と吉馬さんが銃口をボクのこめかみに当てて顔を近づける。その隣では小川さんが珠美さんの額に銃口を当てた。
「あれれ、ビックリしちゃうよね? 裏切者は一人だけって思い込んでいたんじゃないの、珠美さんよ?」
小川さんは、冷酷な表情で脅す。
「ふん、お前ら3人、グルか!」
珠美さんが怒鳴ると、キッコさんは、なおも嬉しそうに笑う。
「残念ねー、珠美。3人じゃないよ、4人なのよ」
え? ということは……?
「よーし、ミホ。アジトに戻って! 公安に合流するよ」
「ラジャー」
ミホさんは戦闘機を旋回し、アジトのある岐阜県へ戻り始めた。
「騙したな!」
珠美さんはキッコさんを睨みつけて怒鳴る。
「騙したのはお互い様じゃないの。私たちは、公安隊スパイ活動チームの隊員よ。今から珠美と俊介を国家反逆罪で逮捕する!」
ボクと珠美さんは、手錠をかけられた。もう、逃げられない。
この4人が公安の隊員だったなんて……。
「キッコめ。スパイ活動を取り締まる公安が、スパイをするとは聞いてあきれるな!」
すると、キッコさんは珠美さんを殴りつける。
「そう言うあんただって、昔は公安の隊員だったそうじゃない?」
珠美さんが、公安?
「ふん」
「ミホさんは、発信装置のクリームが塗られていたボクの左手を握らなかった! あれは、わざとそうさせたのか?」
「ふふっ。俊介くんは頭がいいから、手に塗ったクリーム状の電波発信装置に気づくだろうと、分かっていたわ。だから、ミホは裏切者じゃないって思い込ませるために一芝居打ったって言うわけ。それを信じ込んで、この戦闘機を操縦させたあんたたちがバカなのよ」」
キッコさんは得意げに話す。
「じゃあ、一体誰がボクの左手に発信装置のクリームを?」
「僕だよ」と吉馬さんが答える。
そして、ボク自身、ようやく分かった。
スプレーを受け取る時、ボクは左手でボトルを掴んだ。
「あのスプレーボトルの外側に塗りつけてあったのか……」
「そう。俊介くん、君は左利きだったね? だから、左手で摑むのは事前に予想できたのさ」
4人がグルになっていることは、想定できなかった。本当に悔しい。ボクと珠美さんは、どうなってしまうのだろう。死刑かな? この先を思うと怖くなる。
ボクらを乗せた戦闘機はスピードを緩め、時間をかけてアジトへと戻っていった。公安とアジトで合流するための時間調整をしているようだ。
こんな窮地に陥っているというのに、珠美さんは時折「たまらないねえ」と言っては、笑っていた。
採掘場で仕事をするヨーシー民は無事、全員避難できた。ボクが爆弾を仕掛ければ、無駄なケガ人は生まれない。
その帰り、珠美さんと並んで空を飛ぶ。思いついた作戦を話せるタイミングは、今、ここしかない。裏切者がいるアジトの中で喋るのは危険だからだ。
「ボス、話があります」
「お、裏切者をあぶり出す作戦を思いついたのか?」
「はい」
「で、どうする?」
東京の公安省に総攻撃し、公安大臣と事務次官を暗殺する計画です」
「それは面白そうだな」
「でも、実際には暗殺はしません。
ボクが提案した作戦は、こうだ。東京にある公安省を攻撃するため、ヤタガラスのメンバーを総動員して、アジトを完全に無人にする。すると、公安はその隙にアジトを乗っ取りにくるはず。公安はボクや珠美さんの命よりも、ヤタガラスがアジトに集積しているハイレベルな軍事・通信技術や兵器を奪いたいからだ。しかし、コアメンバーの身体に埋められたICチップ認証がないとこのアジト入口のロックは解除されないから、裏切者は必ず公安を迎え入れるためにアジトに戻ってくる。そこを束縛する、という作戦だ。
「メンバー全員、一旦、東京の公安省へ行くんだろ? そこからアジトに戻るのが間に合うのか?」
「それは、分かりません。でも確実に裏切者は分かります」
「いいだろう」
ボクと珠美さんはアジトに戻ると、さっそくコアメンバーを集め、この極秘作戦を伝えた。
「いいんですか、ボス? この中に裏切者がいるのに、こんな作戦をやっちゃって」
小川さんは、心配そうに確認する。
「いいんだ。私たちの本当の敵は裏切者ではなく、公安大臣とその下にいる官僚、特に事務次官だ。裏切者が余計なことをして、こっちが全滅するくらいなら、先に仕掛けてやればいい」
「ここを無人にするなんて初めて。私だけでも残りましょうか?」
ミホさんは提案する。すでに裏切者でないことを証明できているから、残ってもいいと言えばいい。しかし、それでは公安と裏切者が自由に泳げなくなってしまう。
「ミホさん、一緒に東京に行きましょうよ」
「えー! 俊介くんが言うなら、私も東京に行くー」と言って、またボクの右手をギュウって握りしめた。
「裏切者だと疑われるのは癪だから、私はもちろん、行くわ」
キッコさんが言うと、すぐに吉馬さんと小川さんも賛成した。
これでいい。
「で、ボス。作戦を決行するのは、いつ? 来週ですか?」
小川さんは張り詰めた表情で珠美さんに確認する。
「今からだ」
「今?」
これにはみんな、驚いている。公安に準備をする時間を与えてはいけないし、裏切者も動揺してどこかでボロを出すことだろう。
「じゃあ、1時間後に出発する! 各自準備をしろ」
全員が声を合わせ「はい!」と返事した。
この作戦は、各地にいるヤタガラスの全メンバー130人ほどが結集して東京に向う。
「この作戦は、行くのに1時間、作戦決行に1時間、戻ってくるのに1時間の合計3時間を目標にして終わらせる。いいな!」
アジト前に集合した全メンバーに、珠美さんは語りかけた。
「それで、すべてが終わったら、ここで宴を催す。すでに酒も、食料もこのアジトに置いてある!」
メンバーから歓喜の声が上がる。
「残念だが、この場所は公安に知られてしまっているようだ。だから、この作戦が終わったらアジトの場所を変えなければならない。このアジトで最後の宴だ。みんな、生きてここに戻ってくるんだぞ!」
「おお!」というかけ声とともに、全員一斉に出発した。
人数が多すぎるので、いつものように個々の翼で移動するのではなく、大型の戦闘機を数台に分けて乗り合わせた。コアメンバー6人は全員、同じ戦闘機に乗っている。操縦するのは、裏切者ではないことが分かっているミホさんだ。
ミホさん以外の5人は、後部の向い合わせに設置されたシートに座っていた。ボクの隣に珠美さん。向いには、吉馬さん、キッコさん、小川さんが座る。
裏切者がいるから、きっと、ボクたちの動きは公安に漏れている。今頃、公安の上層部は焦っていることだろう。東京の公安省を守りつつ、ボクらのアジトを占領しなければいけないのだから。
裏切者は、吉馬さんか? キッコさんか? それとも、小川さんか?
東京を目指す戦闘機は、静岡県に入り、やがて富士山が見えた。
そろそろ、公安は空っぽになったボクらのアジトを占拠するために動き出すはずだ。そして、アジトの中に侵入するために、裏切者も急いでアジトに戻らなければならないはず。
さあ、どうする?
吉馬さん、キッコさん、小川さんの3人とも、今のところは表情に変化はない。むしろ、気持ちに余裕すらあるように感じる。
なぜだ?
「ボス、公安が動いたわよ!」
操縦席にいるミホさんが、レーダーで公安の動きを探知して報告してきた。
ついに、裏切者が動くか?
緊迫した機内で、キッコさんが急に笑って言う。
「さて、じゃあ、公安が待つアジトに引き戻りましょうか? ねえ、ボス。いや、珠美!」
キッコさんは勝ち誇ったような顔で、珠美さんに命令する。
「裏切者は、お前か? ……キッコ!」
珠美さんとボクが銃をキッコさんに向けて構えようとするよりも早く、左右から身体を取り押さえられた。
え? どういうことだ?
「おっと、動かないでよ」と吉馬さんが銃口をボクのこめかみに当てて顔を近づける。その隣では小川さんが珠美さんの額に銃口を当てた。
「あれれ、ビックリしちゃうよね? 裏切者は一人だけって思い込んでいたんじゃないの、珠美さんよ?」
小川さんは、冷酷な表情で脅す。
「ふん、お前ら3人、グルか!」
珠美さんが怒鳴ると、キッコさんは、なおも嬉しそうに笑う。
「残念ねー、珠美。3人じゃないよ、4人なのよ」
え? ということは……?
「よーし、ミホ。アジトに戻って! 公安に合流するよ」
「ラジャー」
ミホさんは戦闘機を旋回し、アジトのある岐阜県へ戻り始めた。
「騙したな!」
珠美さんはキッコさんを睨みつけて怒鳴る。
「騙したのはお互い様じゃないの。私たちは、公安隊スパイ活動チームの隊員よ。今から珠美と俊介を国家反逆罪で逮捕する!」
ボクと珠美さんは、手錠をかけられた。もう、逃げられない。
この4人が公安の隊員だったなんて……。
「キッコめ。スパイ活動を取り締まる公安が、スパイをするとは聞いてあきれるな!」
すると、キッコさんは珠美さんを殴りつける。
「そう言うあんただって、昔は公安の隊員だったそうじゃない?」
珠美さんが、公安?
「ふん」
「ミホさんは、発信装置のクリームが塗られていたボクの左手を握らなかった! あれは、わざとそうさせたのか?」
「ふふっ。俊介くんは頭がいいから、手に塗ったクリーム状の電波発信装置に気づくだろうと、分かっていたわ。だから、ミホは裏切者じゃないって思い込ませるために一芝居打ったって言うわけ。それを信じ込んで、この戦闘機を操縦させたあんたたちがバカなのよ」」
キッコさんは得意げに話す。
「じゃあ、一体誰がボクの左手に発信装置のクリームを?」
「僕だよ」と吉馬さんが答える。
そして、ボク自身、ようやく分かった。
スプレーを受け取る時、ボクは左手でボトルを掴んだ。
「あのスプレーボトルの外側に塗りつけてあったのか……」
「そう。俊介くん、君は左利きだったね? だから、左手で摑むのは事前に予想できたのさ」
4人がグルになっていることは、想定できなかった。本当に悔しい。ボクと珠美さんは、どうなってしまうのだろう。死刑かな? この先を思うと怖くなる。
ボクらを乗せた戦闘機はスピードを緩め、時間をかけてアジトへと戻っていった。公安とアジトで合流するための時間調整をしているようだ。
こんな窮地に陥っているというのに、珠美さんは時折「たまらないねえ」と言っては、笑っていた。



