翼を使って地面スレスレを移動して、何とか逃げ切ったが、爆弾の破片が頬に当たり、出血している。
──大丈夫か、俊介!
珠美さんが無線で叫ぶ。
──何とか。爆弾の特性は、ある程度分かるのでギリギリ逃げ切っていますが……
戦闘機は旋回をしては、ボクを殺すために次々と爆弾を正確に落としてくる。
──ダメか?
──はい。容赦ない量の爆弾を、かなり正確にボクを狙って落としてきます。
──くっ。逃げろ! 逃げて生き延びろ! 命令だ!
そうは言われても、逃げ続ける体力にも限界がある。
何でボクの居場所が公安にバレているんだ? そんなこと、あり得るのか?
──ボス。ひょっとして、ボクについている、ヤタガラス専用のGPSを公安が探知している、ってことですか?
──いや、まさか。もし私たちの専用GPSが公安に探知されているなら、このアジトを目掛けて、総動員で公安は攻めてくるはずだ。
何が起こっているのか理解ができない。もしボクらのGPSを探知しているなら、このままボクはどこに逃げても捕まってしまう。
──吉馬だ。割って入るよ、ボス。報告がある。
──ああ。
──今、逆探知してみたけど、うちの専用GPSは探知されていない。だから、俊介くんは違う何かの方法で、居場所を気付かれているようだ。公安専用のGPSが俊介くんに仕込まれているのかもしれない。
──公安専用の? ということは……。
そう言って、口をつぐんだ。声にしなかったが、やはり、メンバーに裏切者がいるということだ。
──俊介くん、アレだ。アレを体に吹きかけるんだ!
そうか。
出発前に吉馬さんから渡されたスプレーをポケットから取り出し、ボクの全身に吹きかける。
──よし、うちのGPSから俊介くんの位置情報が消えた。ということは、公安も探知できないんじゃないか。
ボクは地面スレスレの低空飛行で飛び、山のふもとの深い竹やぶの中に逃げ込んだ。
キューン。
逃げる途中、戦闘機がボクの頭上のすぐ近くを通る時に、機体から不思議な音が響いた。何だ、この音は?
何かをチューニングするような、電子的な音。この音、どこかで聞いたことがあるような……。
──吉馬さん。ボクは場所を移動しましたけど、公安は感付いていますか?
──待てよ、うーん。お! レーダーの公安の動きが止まった! 俊介くんの居場所が分からないみたいだ。
今なら、逃げられる。
ボクは猛スピードで山から離れた神社へ移動した。ここで隠れよう。
──よし、俊介、いいぞ。公安が諦めて帰っていく。
よかった。
──ボス。俊介くんが吹きかけたスプレーで公安の目を欺けるのは、1時間くらいです。このまま時間が経ってアジトに戻ったら、また公安に居場所を探知されるかもしれないです。どうしますか?
吉馬さんは、冷静だ。
──そうだな……。
頬から血が流れ、ボクは手で拭う。すると、手に違和感を感じた。
これ、何だ? 揺れる木漏れ日で、手がキラキラしている。手をワイヤレスイヤホンに近づけると、ザザっとノイズが走る。
それにさっき聞いた機体からのキューンという電子音。
そうか! そういうことか……。
──ボス。もういいです。ボクはアジトに帰ります。
──いや、しかし、そんなことしたら公安にここが見つかってしまう。
吉馬さんは、動揺して答える。
──さっき、公安の戦闘機に近づいた時、機体からキューンっていう音がしたんです。あの音、どこかで聞いたことがあるなって思っていたんですけど、ようやく分かりました。
──どういうことだ。
珠美さんが聞いてくる。
──ラジオです。幼い頃におじいさんがボクにアナログのラジオを聞かせてくれたことがあったんですけど、その時、ダイヤルを回すと、同じ音がしました。
──そういうことか。
珠美さんも理解したようだ。
──ボクに公安が仕掛けたのは、GPSのマイクロ波じゃなくて、ラジオと同じVHSの超短波です。ラジオの電波で読み取れるのは出力の違いもありますが、せいぜい10キロメートルくらいです。10キロメートル以上離れれば、ボクの位置は公安に探知されません。
──何で、ラジオの電波なんだ?
──ボス、それは仕掛けやすいからです。やっと、ボクに仕掛けられたVHSの発信機がどこにあるのか分かりました。
──それは、どこだ?
吉馬さんは、無線が得意ジャンルなので、興味があるようだ。
──手、です。ボクの左手。
──手?
──ハンドクリームのような、乳液状で肌に塗りつける最新式の発信機のようです。ワイヤレスイヤホンに近づけると、ザザってノイズが聞こえるから、間違いないと思います。そうか、だから、手を水で洗えばいいんだ。
──ミホ! お前、出発前に俊介の手を握っていたな。
珠美さんの怒鳴り声が聞こえた。
──違う! 違うって! 私じゃないもん。やめて! 撃たないで!
まずい。アジトでは珠美さんがミホさんを撃ち殺そうとしている。
──ボス、やめてください! ミホさんじゃないです!
──何だと?
──この発信装置の付いたクリームは、ボクの左手に塗られていました。ミホさんが、ギュウッっていつも握りしめるのはいつもボクの右手です。
──そうよ。私は、俊介くんの右手しか握らないもん!
──ミホ、本当か? 何で握るのは俊介の右手って決めてるんだ?
──だって、右手って利き手でしょ? 男の子を独占したいなら、利き腕を奪わなきゃ。
──ミホさん、ボクは左利きですよ。
思わずボクは、突っ込んだ。
──ええ! そうだったの? くやしー。
──くだらん。しかし、じゃあ、誰が……。
珠美さんは、吐き捨てるように言う。でも、ミホさんの疑いが晴れてよかった。
近くに小川があったので、ボクは左手を丁寧に洗い流す。これで、もう、公安に追われることはない。
でも、誰がどのタイミングで、ラジオ電波の発信機能が備わったクリームをボクの左手に塗ったのか? 今日の記憶を呼び戻してみるが、まったく分からない。そもそもミホさん以外、ボクの身体に触れる人はいなかったのだから。
──ねえ、ボス。もう、これで私を信じてくれるわよね?
ミホさんは発言が急に強気になる。
──ああ。
──このアジトにいる私たちコアメンバーだけじゃなくて、すべてのヤタガラスのメンバーにこの無線で聞いてほしいの。私は、裏切者じゃない! 私以外のコアメンバーの誰かよ!
ミホさんの言うとおりだ。
コアメンバー以外のヤタガラスの構成員は、そもそもの情報を持っていないから、まず裏切ることはない。
すると裏切者は、小川さん? 吉馬さん? キッコさん?
──オレは違うぞ! 裏切るんだったら、今日、わざわざ銃を俊介くんに渡したりしない。
小川さんは、怒って言う。
──僕も違う。だって今日、俊介くんを助けるためにスプレーを渡したのは、僕なんだから。
吉馬さんの言うことももっともだ。
──ちょっと待って! 私も違う! だって今日ずっとレーダーで公安の動きを探知して、ボスに報告してたんだよ。裏切るんなら、公安の情報を正確に伝えないよ。
キッコさんも疑われないように、必死だ。
誰かが、嘘をついている。でも、今の時点ではさっぱり分からない。
──ボス、とりあえず、アジトに戻ります。
──ああ。
裏切者がメンバーにいるなら、アジトの場所を公安が把握していることになる。タイミングを見計らって、公安がアジトに総攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
時間がない。
これは、ボクのミッションだ。
早く裏切者を見つけ出さないと……。
──たまらないねえ、このヒリヒリした緊張感が、さ。楽しいゲームだ。
珠美さんは、こんな危うい状況を楽しんでいる。
ボクはため息とともに、翼を広げ、アジトに向かって空へと飛び立った。
──大丈夫か、俊介!
珠美さんが無線で叫ぶ。
──何とか。爆弾の特性は、ある程度分かるのでギリギリ逃げ切っていますが……
戦闘機は旋回をしては、ボクを殺すために次々と爆弾を正確に落としてくる。
──ダメか?
──はい。容赦ない量の爆弾を、かなり正確にボクを狙って落としてきます。
──くっ。逃げろ! 逃げて生き延びろ! 命令だ!
そうは言われても、逃げ続ける体力にも限界がある。
何でボクの居場所が公安にバレているんだ? そんなこと、あり得るのか?
──ボス。ひょっとして、ボクについている、ヤタガラス専用のGPSを公安が探知している、ってことですか?
──いや、まさか。もし私たちの専用GPSが公安に探知されているなら、このアジトを目掛けて、総動員で公安は攻めてくるはずだ。
何が起こっているのか理解ができない。もしボクらのGPSを探知しているなら、このままボクはどこに逃げても捕まってしまう。
──吉馬だ。割って入るよ、ボス。報告がある。
──ああ。
──今、逆探知してみたけど、うちの専用GPSは探知されていない。だから、俊介くんは違う何かの方法で、居場所を気付かれているようだ。公安専用のGPSが俊介くんに仕込まれているのかもしれない。
──公安専用の? ということは……。
そう言って、口をつぐんだ。声にしなかったが、やはり、メンバーに裏切者がいるということだ。
──俊介くん、アレだ。アレを体に吹きかけるんだ!
そうか。
出発前に吉馬さんから渡されたスプレーをポケットから取り出し、ボクの全身に吹きかける。
──よし、うちのGPSから俊介くんの位置情報が消えた。ということは、公安も探知できないんじゃないか。
ボクは地面スレスレの低空飛行で飛び、山のふもとの深い竹やぶの中に逃げ込んだ。
キューン。
逃げる途中、戦闘機がボクの頭上のすぐ近くを通る時に、機体から不思議な音が響いた。何だ、この音は?
何かをチューニングするような、電子的な音。この音、どこかで聞いたことがあるような……。
──吉馬さん。ボクは場所を移動しましたけど、公安は感付いていますか?
──待てよ、うーん。お! レーダーの公安の動きが止まった! 俊介くんの居場所が分からないみたいだ。
今なら、逃げられる。
ボクは猛スピードで山から離れた神社へ移動した。ここで隠れよう。
──よし、俊介、いいぞ。公安が諦めて帰っていく。
よかった。
──ボス。俊介くんが吹きかけたスプレーで公安の目を欺けるのは、1時間くらいです。このまま時間が経ってアジトに戻ったら、また公安に居場所を探知されるかもしれないです。どうしますか?
吉馬さんは、冷静だ。
──そうだな……。
頬から血が流れ、ボクは手で拭う。すると、手に違和感を感じた。
これ、何だ? 揺れる木漏れ日で、手がキラキラしている。手をワイヤレスイヤホンに近づけると、ザザっとノイズが走る。
それにさっき聞いた機体からのキューンという電子音。
そうか! そういうことか……。
──ボス。もういいです。ボクはアジトに帰ります。
──いや、しかし、そんなことしたら公安にここが見つかってしまう。
吉馬さんは、動揺して答える。
──さっき、公安の戦闘機に近づいた時、機体からキューンっていう音がしたんです。あの音、どこかで聞いたことがあるなって思っていたんですけど、ようやく分かりました。
──どういうことだ。
珠美さんが聞いてくる。
──ラジオです。幼い頃におじいさんがボクにアナログのラジオを聞かせてくれたことがあったんですけど、その時、ダイヤルを回すと、同じ音がしました。
──そういうことか。
珠美さんも理解したようだ。
──ボクに公安が仕掛けたのは、GPSのマイクロ波じゃなくて、ラジオと同じVHSの超短波です。ラジオの電波で読み取れるのは出力の違いもありますが、せいぜい10キロメートルくらいです。10キロメートル以上離れれば、ボクの位置は公安に探知されません。
──何で、ラジオの電波なんだ?
──ボス、それは仕掛けやすいからです。やっと、ボクに仕掛けられたVHSの発信機がどこにあるのか分かりました。
──それは、どこだ?
吉馬さんは、無線が得意ジャンルなので、興味があるようだ。
──手、です。ボクの左手。
──手?
──ハンドクリームのような、乳液状で肌に塗りつける最新式の発信機のようです。ワイヤレスイヤホンに近づけると、ザザってノイズが聞こえるから、間違いないと思います。そうか、だから、手を水で洗えばいいんだ。
──ミホ! お前、出発前に俊介の手を握っていたな。
珠美さんの怒鳴り声が聞こえた。
──違う! 違うって! 私じゃないもん。やめて! 撃たないで!
まずい。アジトでは珠美さんがミホさんを撃ち殺そうとしている。
──ボス、やめてください! ミホさんじゃないです!
──何だと?
──この発信装置の付いたクリームは、ボクの左手に塗られていました。ミホさんが、ギュウッっていつも握りしめるのはいつもボクの右手です。
──そうよ。私は、俊介くんの右手しか握らないもん!
──ミホ、本当か? 何で握るのは俊介の右手って決めてるんだ?
──だって、右手って利き手でしょ? 男の子を独占したいなら、利き腕を奪わなきゃ。
──ミホさん、ボクは左利きですよ。
思わずボクは、突っ込んだ。
──ええ! そうだったの? くやしー。
──くだらん。しかし、じゃあ、誰が……。
珠美さんは、吐き捨てるように言う。でも、ミホさんの疑いが晴れてよかった。
近くに小川があったので、ボクは左手を丁寧に洗い流す。これで、もう、公安に追われることはない。
でも、誰がどのタイミングで、ラジオ電波の発信機能が備わったクリームをボクの左手に塗ったのか? 今日の記憶を呼び戻してみるが、まったく分からない。そもそもミホさん以外、ボクの身体に触れる人はいなかったのだから。
──ねえ、ボス。もう、これで私を信じてくれるわよね?
ミホさんは発言が急に強気になる。
──ああ。
──このアジトにいる私たちコアメンバーだけじゃなくて、すべてのヤタガラスのメンバーにこの無線で聞いてほしいの。私は、裏切者じゃない! 私以外のコアメンバーの誰かよ!
ミホさんの言うとおりだ。
コアメンバー以外のヤタガラスの構成員は、そもそもの情報を持っていないから、まず裏切ることはない。
すると裏切者は、小川さん? 吉馬さん? キッコさん?
──オレは違うぞ! 裏切るんだったら、今日、わざわざ銃を俊介くんに渡したりしない。
小川さんは、怒って言う。
──僕も違う。だって今日、俊介くんを助けるためにスプレーを渡したのは、僕なんだから。
吉馬さんの言うことももっともだ。
──ちょっと待って! 私も違う! だって今日ずっとレーダーで公安の動きを探知して、ボスに報告してたんだよ。裏切るんなら、公安の情報を正確に伝えないよ。
キッコさんも疑われないように、必死だ。
誰かが、嘘をついている。でも、今の時点ではさっぱり分からない。
──ボス、とりあえず、アジトに戻ります。
──ああ。
裏切者がメンバーにいるなら、アジトの場所を公安が把握していることになる。タイミングを見計らって、公安がアジトに総攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
時間がない。
これは、ボクのミッションだ。
早く裏切者を見つけ出さないと……。
──たまらないねえ、このヒリヒリした緊張感が、さ。楽しいゲームだ。
珠美さんは、こんな危うい状況を楽しんでいる。
ボクはため息とともに、翼を広げ、アジトに向かって空へと飛び立った。



