アジトから名古屋の駅裏にある目的地のビルまで、翼を使えばわずか数分で到着できる。アジトの近くに名古屋という大都会があるのは知っていたが、あまりにもきらびやかで驚いた。到着した頃は、もう日が暮れていて、街中でカラフルな照明が点いている。
翼を羽ばたかせて上空から見ると、まるで宝石箱のようだ。
でも、キレイだとは思えない。その華やかの裏に、大人の欲望が渦巻いていることを知ってしまったからだ。
これから売春のパーティが開かれるビルは、思っていたよりも小さく、古臭かった。ここはいわゆるオフィシャルビルというヤツで、各階にはたくさんの泡沫的な会社が入っているようだ。
会場は、その最上階の4階にあるホール。間取りや通路などは図面でチェックしておいた。ホールの周りには小部屋がいくつもある。ここへ、優等人種の言いなりになったヨーシー民の少年たちが、おばさんや一部のおじさんに手を引かれていくのだろう。
ボクと珠美さんはビルの屋上に隠れて、パーティが始まるのを待つ。蚊にそっくりな、超小型カメラ付きドローン「モスキートカメラ」を数機、ビルの中に忍ばせ、屋上に設置したモニターで中の様子を伺っていた。
このような侵入をしたことがないボクは、いきなりこんな現場に来て、珠美さんの役に立てるか心配だ。
珠美さんは、不思議な人だ。悪魔のようだが、正義感もあるにはある。優等人種が憎いのは分かるが、先日はトレジャーアースの採掘場でボクの仲間のヨーシー民を傷つけたから、信用はできない。建前上はヨーシー民を優等人種から解放するためとは言っているが、優等人種を制裁するためなら手段を選ばないだろう。
こんな人に付いていって、ボクは大丈夫だろうか。
ただ、母さんや佳亮には会いたいし、少しでもヨーシー民の未来が明るくなるなら、協力はしたいと思っている。
ヤタガラスの真っ黒な戦闘服を初めて着てみたが、伸縮が効いて、快適だ。……しかし、腰には小型の銃が戦闘服の一部として据え付けられている。銃は撃ったことがないし、撃ちたくもない。
練習をして、翼のドローンは何とか乗りこなせるようになった。ドローンの翼は背負っている小型のリュックに収納されていて、飛ぶ時だけ放出する仕組みだ。操縦は、無線とつながるワイヤレスイヤホンと一体化し、脳波をイヤホンのセンサーが読み取って、動き出す。つまり、念じれば、動く。雑念が邪魔すると、うまく動かないから、集中力が必要だ。
「お前を、いきなり実践の場に連れてきた理由は分かるな?」
「はい」
そう、ボクがヤタガラスのコアメンバーに勧誘されたのは、理由があった。
ボクは、トレジャーアースが出る山の採掘場でこれまで働いていたから、爆弾をつくったり、仕掛けたりするのが得意なのだ。火薬と機器をつなげて、望みの爆弾をつくり、爆発を自在に操れる。
ボクのEQは140あると珠美さんは指摘したが、言われてみるとほんの少しだけ実感が沸く。ボクは昔から理数系のことが異常なほど得意で、優等人種に負けていなかった。
「爆弾は、言うとおりに設置できたか?」
「はい。でも、珠美さんの言う火薬の量と爆弾の数にしたら隣のビルまで破壊するので減量しておきました」
「生意気だな。まあ、いい」
「リモートで先にドカンッてする場合は、これを使ってください」
ボクはハッチの安全装置の付いたスイッチを手渡す。
「このスイッチを入れなければ、ちゃんと午後11時に爆発するのか?」
「いいえ」
「俊介! 約束が違うだろ!」
「怒らないでください。ちゃんと爆発するんですが、その時刻は午後11時ジャストではなく、午後11時0分3秒です」
「は? その無駄な3秒は何だ?」
「爆発する直前に神様に謝罪をするために必要な時間だって、教わりました。だから、山の採掘でも時限爆弾は使いますが、定刻より3秒遅らせます。この3秒の時間差が、きっとボクらに幸運をもたらしますよ」
「くだらん」
やがて、モスキートカメラに人が映り出した。
午後7時。飲食を提供するシェフやウエイター、会場を取り仕切るイベンター、などが準備を進める。そして、明らかに幼い男子が10人くらい入ってきて、いた! ジェーンと二口田亜弥だ。二人は順番に男子たちをタキシード姿に着替えさせ、何かを説明している。
いや、説明じゃない! ジェーンと亜弥は、男子をそれぞれ一人ずつ個室に連れて行っていた。
個室のドア前でホバリングしているモスキートカメラのマイクをオンにしたら、亜弥やジェーン、男の子の動物的な声が聞こえてくる。
「パーティの始まる前に、それぞれこの日のお気に入りの男子に手を出してんだな」
珠美さんは、冷静に話す。
鬼畜のような奴らだ。許せない。
コトが終わって、客らしき人物が次々とホールに入ってきた。
客は、女性ばかり。年齢層は高そうだ。ジェーンのような男もチラホラいる。
──小林。聞こえるか。珠美だ。
大垣のアジトから、このビル周辺のカメラをハッキングして監視している小林さんを呼び出す。
──はい、ボス。聞こえますよ。
──ビルの周りに公安らしき人物はいないな?
──大丈夫。例え変装していても、顔スキャンで見つけてやる。今のところ、公安は感付いていないみたいです。
──了解。キッコ、ミホ、聞こえるか。間もなくパーティが始まる。配置についたな?
──OKよ。
キッコさんが答えた。キッコさんとミホさんは、近隣のビルの屋上にいて、いざという時に突入したり、ボクたちを救出する役目だ。
──吉馬は、いいか?
──はい、ボス。
吉馬さんは、名古屋市内にある山の頂上にいて、いつでもロケット弾をこのビルに目掛けて発射できるようスタンバイしている。
ついに、パーティは始まった。
乾杯の後、参加者は男の子を触りながら酔いどれ、ジェーンと二口田亜弥が個室へと案内する。
欲望が渦巻く、醜い世界。この光景をモニター越しに見るのが耐えられない。
今回のミッションは、ジェーンと二口田亜弥を捕獲し、男子を解放して、パーティで稼いだ金を奪いとることだと珠美さんから聞いていた。
いつ、突入するつもりだろう? 珠美さんはモニターを睨みながら、そのタイミングをはかっている。
午後10時30分を過ぎる。あと30分で、ボクの仕掛けた爆弾が爆発してしまう。そんなことになったら、間違いなく人が死ぬだろう。早くしないと。
その時、珠美さんがニヤッと笑ってボクを見た。わざと爆発ギリギリの時間になるように待っていたのか? 性格が悪い!
ようやく珠美さんは、親指を突き立てて前に出す。
作戦開始の合図だ。
──突入する。
珠美さんの無線の呼びかけに、配置についていたメンバーは「──ラジャー」と声を合わせた。
珠美さんとボクは翼をはためかせ、ホールの窓ガラスをハンマーで叩き割ってから中へ侵入し、天井に目掛けて威嚇射撃を繰り返す。会場は一瞬で悲鳴に包まれた。
ボクはすばやく二口田亜弥の背後に回り、頭に銃を突き付けた。珠美さんもジェーンを押さえつけて、すでに手錠をかけ終わっていた。
「ヤタガラスだ! 今からあと20分ほどでここは爆発する。死にたくなかったら、今すぐ金目のものをここに差し出せ!」
珠美さんはホールの出入口に立ち、客がすぐに逃げ出せないようにして、受付ののテーブルを銃で指し示す。
「ここへ、金目のものを出したら逃がしてやる。しかし、金目のものを隠して、無断でここから逃げようとするヤツがいたら、即刻撃つ!」
女の客は泣き喚きながら、次々と現金やアクセサリーなどを珠美さんの目の前にあるテーブルの上に置いていく。
「よし、ここから出ていいぞ」
あっという間に珠美さんの前には、逃げ出したい客の行列ができた。
「放して! お願い。私もあなたにお金を出すわ」
ボクが銃を突き付けている二口田亜弥は、ボクに懇願する。
「あんたは、一番最後だ! これだけヨーシー民の男児を弄んたんだからな」
ボクは、二口田亜弥を怒鳴りつける。
次々と客や関係者は金品を置いて消えうせ、ホールには、ボクと珠美さんのほかに、売春で利用された男子のうち二人とジェーン、二口田亜弥だけになった。
時間は午後10時55分を過ぎている。まずい、このままでは間に合わない。
翼を羽ばたかせて上空から見ると、まるで宝石箱のようだ。
でも、キレイだとは思えない。その華やかの裏に、大人の欲望が渦巻いていることを知ってしまったからだ。
これから売春のパーティが開かれるビルは、思っていたよりも小さく、古臭かった。ここはいわゆるオフィシャルビルというヤツで、各階にはたくさんの泡沫的な会社が入っているようだ。
会場は、その最上階の4階にあるホール。間取りや通路などは図面でチェックしておいた。ホールの周りには小部屋がいくつもある。ここへ、優等人種の言いなりになったヨーシー民の少年たちが、おばさんや一部のおじさんに手を引かれていくのだろう。
ボクと珠美さんはビルの屋上に隠れて、パーティが始まるのを待つ。蚊にそっくりな、超小型カメラ付きドローン「モスキートカメラ」を数機、ビルの中に忍ばせ、屋上に設置したモニターで中の様子を伺っていた。
このような侵入をしたことがないボクは、いきなりこんな現場に来て、珠美さんの役に立てるか心配だ。
珠美さんは、不思議な人だ。悪魔のようだが、正義感もあるにはある。優等人種が憎いのは分かるが、先日はトレジャーアースの採掘場でボクの仲間のヨーシー民を傷つけたから、信用はできない。建前上はヨーシー民を優等人種から解放するためとは言っているが、優等人種を制裁するためなら手段を選ばないだろう。
こんな人に付いていって、ボクは大丈夫だろうか。
ただ、母さんや佳亮には会いたいし、少しでもヨーシー民の未来が明るくなるなら、協力はしたいと思っている。
ヤタガラスの真っ黒な戦闘服を初めて着てみたが、伸縮が効いて、快適だ。……しかし、腰には小型の銃が戦闘服の一部として据え付けられている。銃は撃ったことがないし、撃ちたくもない。
練習をして、翼のドローンは何とか乗りこなせるようになった。ドローンの翼は背負っている小型のリュックに収納されていて、飛ぶ時だけ放出する仕組みだ。操縦は、無線とつながるワイヤレスイヤホンと一体化し、脳波をイヤホンのセンサーが読み取って、動き出す。つまり、念じれば、動く。雑念が邪魔すると、うまく動かないから、集中力が必要だ。
「お前を、いきなり実践の場に連れてきた理由は分かるな?」
「はい」
そう、ボクがヤタガラスのコアメンバーに勧誘されたのは、理由があった。
ボクは、トレジャーアースが出る山の採掘場でこれまで働いていたから、爆弾をつくったり、仕掛けたりするのが得意なのだ。火薬と機器をつなげて、望みの爆弾をつくり、爆発を自在に操れる。
ボクのEQは140あると珠美さんは指摘したが、言われてみるとほんの少しだけ実感が沸く。ボクは昔から理数系のことが異常なほど得意で、優等人種に負けていなかった。
「爆弾は、言うとおりに設置できたか?」
「はい。でも、珠美さんの言う火薬の量と爆弾の数にしたら隣のビルまで破壊するので減量しておきました」
「生意気だな。まあ、いい」
「リモートで先にドカンッてする場合は、これを使ってください」
ボクはハッチの安全装置の付いたスイッチを手渡す。
「このスイッチを入れなければ、ちゃんと午後11時に爆発するのか?」
「いいえ」
「俊介! 約束が違うだろ!」
「怒らないでください。ちゃんと爆発するんですが、その時刻は午後11時ジャストではなく、午後11時0分3秒です」
「は? その無駄な3秒は何だ?」
「爆発する直前に神様に謝罪をするために必要な時間だって、教わりました。だから、山の採掘でも時限爆弾は使いますが、定刻より3秒遅らせます。この3秒の時間差が、きっとボクらに幸運をもたらしますよ」
「くだらん」
やがて、モスキートカメラに人が映り出した。
午後7時。飲食を提供するシェフやウエイター、会場を取り仕切るイベンター、などが準備を進める。そして、明らかに幼い男子が10人くらい入ってきて、いた! ジェーンと二口田亜弥だ。二人は順番に男子たちをタキシード姿に着替えさせ、何かを説明している。
いや、説明じゃない! ジェーンと亜弥は、男子をそれぞれ一人ずつ個室に連れて行っていた。
個室のドア前でホバリングしているモスキートカメラのマイクをオンにしたら、亜弥やジェーン、男の子の動物的な声が聞こえてくる。
「パーティの始まる前に、それぞれこの日のお気に入りの男子に手を出してんだな」
珠美さんは、冷静に話す。
鬼畜のような奴らだ。許せない。
コトが終わって、客らしき人物が次々とホールに入ってきた。
客は、女性ばかり。年齢層は高そうだ。ジェーンのような男もチラホラいる。
──小林。聞こえるか。珠美だ。
大垣のアジトから、このビル周辺のカメラをハッキングして監視している小林さんを呼び出す。
──はい、ボス。聞こえますよ。
──ビルの周りに公安らしき人物はいないな?
──大丈夫。例え変装していても、顔スキャンで見つけてやる。今のところ、公安は感付いていないみたいです。
──了解。キッコ、ミホ、聞こえるか。間もなくパーティが始まる。配置についたな?
──OKよ。
キッコさんが答えた。キッコさんとミホさんは、近隣のビルの屋上にいて、いざという時に突入したり、ボクたちを救出する役目だ。
──吉馬は、いいか?
──はい、ボス。
吉馬さんは、名古屋市内にある山の頂上にいて、いつでもロケット弾をこのビルに目掛けて発射できるようスタンバイしている。
ついに、パーティは始まった。
乾杯の後、参加者は男の子を触りながら酔いどれ、ジェーンと二口田亜弥が個室へと案内する。
欲望が渦巻く、醜い世界。この光景をモニター越しに見るのが耐えられない。
今回のミッションは、ジェーンと二口田亜弥を捕獲し、男子を解放して、パーティで稼いだ金を奪いとることだと珠美さんから聞いていた。
いつ、突入するつもりだろう? 珠美さんはモニターを睨みながら、そのタイミングをはかっている。
午後10時30分を過ぎる。あと30分で、ボクの仕掛けた爆弾が爆発してしまう。そんなことになったら、間違いなく人が死ぬだろう。早くしないと。
その時、珠美さんがニヤッと笑ってボクを見た。わざと爆発ギリギリの時間になるように待っていたのか? 性格が悪い!
ようやく珠美さんは、親指を突き立てて前に出す。
作戦開始の合図だ。
──突入する。
珠美さんの無線の呼びかけに、配置についていたメンバーは「──ラジャー」と声を合わせた。
珠美さんとボクは翼をはためかせ、ホールの窓ガラスをハンマーで叩き割ってから中へ侵入し、天井に目掛けて威嚇射撃を繰り返す。会場は一瞬で悲鳴に包まれた。
ボクはすばやく二口田亜弥の背後に回り、頭に銃を突き付けた。珠美さんもジェーンを押さえつけて、すでに手錠をかけ終わっていた。
「ヤタガラスだ! 今からあと20分ほどでここは爆発する。死にたくなかったら、今すぐ金目のものをここに差し出せ!」
珠美さんはホールの出入口に立ち、客がすぐに逃げ出せないようにして、受付ののテーブルを銃で指し示す。
「ここへ、金目のものを出したら逃がしてやる。しかし、金目のものを隠して、無断でここから逃げようとするヤツがいたら、即刻撃つ!」
女の客は泣き喚きながら、次々と現金やアクセサリーなどを珠美さんの目の前にあるテーブルの上に置いていく。
「よし、ここから出ていいぞ」
あっという間に珠美さんの前には、逃げ出したい客の行列ができた。
「放して! お願い。私もあなたにお金を出すわ」
ボクが銃を突き付けている二口田亜弥は、ボクに懇願する。
「あんたは、一番最後だ! これだけヨーシー民の男児を弄んたんだからな」
ボクは、二口田亜弥を怒鳴りつける。
次々と客や関係者は金品を置いて消えうせ、ホールには、ボクと珠美さんのほかに、売春で利用された男子のうち二人とジェーン、二口田亜弥だけになった。
時間は午後10時55分を過ぎている。まずい、このままでは間に合わない。



