珠美さんに連れて行かれたのは、岐阜県大垣市の山のふもとにあるアジトだった。
この山は、金生山と言うらしい。すぐ近くを清らかな川が流れ、ふもとには、山で採掘した石灰の製造工場や施設がいくつもある。ここの工場地帯の一角にある施設がアジトとなっていた。
珠美さんに連れられ、山の崖に隠されたドアを開ける。すると、地下へつながる階段があった。ここを降りていると、警報音とともに階段と通路全体が真っ赤に点滅する。
「私だ! こいつは今日から仲間だ。警戒を解除しろ!」
珠美さんが一喝すると、「リョウカイシマシタ」とAIが機械的な音声で返事する。
この地下への通路では、AIが監視カメラを通して身体の中に入れられたICチップを読み取って、組織のメンバーかどうかチェックされるらしい。
階段を降ると、目の前にある地下施設の玄関扉が自動で開いた。
目に入るものすべてが新鮮で、ボクはドキドキしてしまう。ボクはヨーシー民だから、これまで指定された要支援者居住エリアと作業場以外に出ることは、ずっと禁止されてきた。だから、指定エリア外の景色は何もかもが初めてだ。
珠美さんによると、地下施設は想像以上に大きく、施設の常駐メンバーは30人くらい。各地にある別のアジトで潜伏しているメンバーは100人ほどだ。珠美さんはこの組織のリーダーで、メンバーからは「ボス」と呼ばれている。
「こいつは、新入りの俊介だ。今日からメンバーになるから、よろしく頼むよ」
地下施設の心臓部である司令室で、珠美さんはメンバーにボクを紹介した。ここにいる人たちは、組織の中心的役割を担っていて、コアメンバーと呼ぶらしい。
「オッケー、ボス。オレは小川だ。よろしくな」
「私は、ミホ」
「吉馬だ」
「キッコよ」
コアメンバーは、珠美さんを入れて5人。全員、珠美さんと同じ真っ黒な戦闘服を着ていて、胸元にはこれも同じようにカラスのようなマークが付いていた。この組織のトレードマークなのだろうか。
小川さんは眼鏡が似合うやせ型のインテリ風男性。年齢は40歳前後だろうか。ミホさんは30歳くらいのロングヘア―の美人。背が高くて、モデルのようだ。吉馬さんは20歳くらいか。キッコさんも30歳くらいか。ミホさんとは対照的にショートヘアーで背は低く、この施設内で細かく動きっている。
「オレたちは、合理的配慮の名のもと搾取と差別を受けている要支援者人種を解放し、優等人種が支配するこの国家を転覆を企てる秘密結社、ヤタガラスだ」
小川さんがボクに語りかける。
ヤタガラス? あの胸元のマークは、伝説の鳥に由来していたのか。
「俊介も、ヤタガラスのコアメンバーに入ってもらうつもりだ。いいな?」
珠美さんは、他のメンバーに了解を取った。
「え? コアって、この中心的なメンバーに?」
「そうだ。作戦を練り、実行する。凶悪な優等人種を痛みつけ、資金を奪い、要支援者人種を解放する」
その後、珠美さんが施設内を案内してくれた。機器やモニターがびっしりと並んだこの司令室のほかに、ドローン、銃、爆弾などが詰まった武器、兵器の格納庫、作戦会議室、AIなどを制御する情報室、射撃場、諜報活動室などがある。
「さっそくだけど、ボス。官僚が政治家や芸能人、財界とつるんで、ヨーシー民の子どもを使って売春をさせている件ですが、黒幕だった首謀者が分かりました」
キッコが指令室の巨大なモニターにデータを表示しながら説明する。
ヨーシー民の子どもで売春? 何て酷いことを。
「売春を斡旋していたのは、この男。通称、ジェーン」
モニターにジェーンという男の顔が表示された。地味でおとなしそうな印象の外国人だ。一見、凶悪な犯罪者のようには見えない。
「コイツは、優等人種か?」
「いいえ、ボス。コイツは普通人種よ。単なる実行役みたいね。操っているのが、この女」
「女の人ですか?」
思わず、ボクは声を出してしまった。
「俊介、先入観は捨てろ! 凶悪なことの背景にあるのは、想定外なことばかりだ」
「はい」
珠美さんは冷静にボクを諭す。
そして黒幕の女がモニターに映し出された。
「この女は、二口田亜弥。公安省の名古屋事務所に勤務する35歳。エリート大卒の優等人種。コイツは官僚なのに副業でジェーンを操って、売春で荒稼ぎしてる。斡旋される客は、政治家や大手企業の経営者、大物芸能人。噂によると副大臣クラスも客になっているみたい」
「かわいい女の子を犠牲にするなんて、許せないです」とボクが言うと、珠美さんは大声で笑った。
「だから、先入観は捨てろと言っただろ!」
ボクは珠美さんの言う意味が分からない。
「売春されているのは、全部、男の子よ」とキッコさんはため息交じりに言う。
「男の子?」
「そう、あなたよりも少し年下のね。そんな男の子をあさってるのは、おばさんがメインだけど、中には男もいるわ」
「キッコさん。男の売春なんて、成立するんですか?」
「お前……。ホント、世間知らずだな」とまた、珠美さんが割り込んでくる。
「じゃあ、逆に聞くが、どうして女の子の売春は成立するんだ?」
「それは、……そういう欲望を持った男がいっぱいいるから……」
「幼い男の身体がたまらなく好きな女はいないのか?」
「いるかもしれないけど、それは実感として少数じゃないですか?」
珠美さんだけでなく、キッコさんとミホさんまでボクを笑う。
「俊介くんは、ピュアなのね。気に入ったわ」とミホさんはボクの手を握る。ボクは顔が火照りだした。女の人と手をつなぐなんて……。
「おい、触るな」と珠美さんがミホさんを叱ると、ミホさんは「はーい」と言って、手を引っ込めた。
「いいか、俊介。私の実感はむしろ逆だ。幼い女が好きな男の数以上に、幼い男が好きな女の方が多い」
「ホントですか?」
「でも、女はそういう本性を包み隠すことがうまい。それだけだ。その欲望に目を付けた優等人種の、この亜弥って官僚が普通人種の外国人、ジェーンを操り、要支援者人種の少年を性奴隷にしているのさ」
「どうして、こんな目に遭って、ヨーシー民の男の子は我慢するのですか?」
「わずかな金を与えて黙らせているんだろう。違うか、キッコ?」
「そうみたい。要支援者人種は政府のせいで貧しい環境に追いやられているからね」
「この亜弥って女を痛みつけて、持っている金を根こそぎ奪ってやる」
「3日後、この二口田亜弥がジェーンと一緒に名古屋の駅裏のビルで高額な料金のパーティを開くみたい。金持ちの優等人種の女らは会場に連行された要支援者人種の男の子を物色して、個室に連れていくんだって」
「根こそぎ壊滅させるのにちょうどいいな。よし、この征討作戦は私が直接やる」
珠美さんは高らかに宣言した。そして、ボクを凝視する。
「俊介も、一緒に行くぞ」
「え? ボク?」
「そうだ。今から翼型のドローンと銃を渡すから、それまでに使い方をマスターしておけ」
「それより、ボクはいつ、家族に会えるんですか?」
「それはこの作戦が終わった後だ」
「終わったら、会わせてくれるんですね?」
「甘えんな! もう、お前はドローンっていう翼も手に入れて、自由にどこへでも行けるだろ。母親と弟に会いたきゃ、自分で行けばいい。この指令室のデータベースを使えば、お前の家族の住所など一瞬で分かる。とにかく、この作戦が終わったら勝手にしろ」
誘っておいて、ずい分一方的な言い方だ。でも、今は従うしかない。
母さん、佳亮、……。
作戦が終わったら、会いに行くからな。
この山は、金生山と言うらしい。すぐ近くを清らかな川が流れ、ふもとには、山で採掘した石灰の製造工場や施設がいくつもある。ここの工場地帯の一角にある施設がアジトとなっていた。
珠美さんに連れられ、山の崖に隠されたドアを開ける。すると、地下へつながる階段があった。ここを降りていると、警報音とともに階段と通路全体が真っ赤に点滅する。
「私だ! こいつは今日から仲間だ。警戒を解除しろ!」
珠美さんが一喝すると、「リョウカイシマシタ」とAIが機械的な音声で返事する。
この地下への通路では、AIが監視カメラを通して身体の中に入れられたICチップを読み取って、組織のメンバーかどうかチェックされるらしい。
階段を降ると、目の前にある地下施設の玄関扉が自動で開いた。
目に入るものすべてが新鮮で、ボクはドキドキしてしまう。ボクはヨーシー民だから、これまで指定された要支援者居住エリアと作業場以外に出ることは、ずっと禁止されてきた。だから、指定エリア外の景色は何もかもが初めてだ。
珠美さんによると、地下施設は想像以上に大きく、施設の常駐メンバーは30人くらい。各地にある別のアジトで潜伏しているメンバーは100人ほどだ。珠美さんはこの組織のリーダーで、メンバーからは「ボス」と呼ばれている。
「こいつは、新入りの俊介だ。今日からメンバーになるから、よろしく頼むよ」
地下施設の心臓部である司令室で、珠美さんはメンバーにボクを紹介した。ここにいる人たちは、組織の中心的役割を担っていて、コアメンバーと呼ぶらしい。
「オッケー、ボス。オレは小川だ。よろしくな」
「私は、ミホ」
「吉馬だ」
「キッコよ」
コアメンバーは、珠美さんを入れて5人。全員、珠美さんと同じ真っ黒な戦闘服を着ていて、胸元にはこれも同じようにカラスのようなマークが付いていた。この組織のトレードマークなのだろうか。
小川さんは眼鏡が似合うやせ型のインテリ風男性。年齢は40歳前後だろうか。ミホさんは30歳くらいのロングヘア―の美人。背が高くて、モデルのようだ。吉馬さんは20歳くらいか。キッコさんも30歳くらいか。ミホさんとは対照的にショートヘアーで背は低く、この施設内で細かく動きっている。
「オレたちは、合理的配慮の名のもと搾取と差別を受けている要支援者人種を解放し、優等人種が支配するこの国家を転覆を企てる秘密結社、ヤタガラスだ」
小川さんがボクに語りかける。
ヤタガラス? あの胸元のマークは、伝説の鳥に由来していたのか。
「俊介も、ヤタガラスのコアメンバーに入ってもらうつもりだ。いいな?」
珠美さんは、他のメンバーに了解を取った。
「え? コアって、この中心的なメンバーに?」
「そうだ。作戦を練り、実行する。凶悪な優等人種を痛みつけ、資金を奪い、要支援者人種を解放する」
その後、珠美さんが施設内を案内してくれた。機器やモニターがびっしりと並んだこの司令室のほかに、ドローン、銃、爆弾などが詰まった武器、兵器の格納庫、作戦会議室、AIなどを制御する情報室、射撃場、諜報活動室などがある。
「さっそくだけど、ボス。官僚が政治家や芸能人、財界とつるんで、ヨーシー民の子どもを使って売春をさせている件ですが、黒幕だった首謀者が分かりました」
キッコが指令室の巨大なモニターにデータを表示しながら説明する。
ヨーシー民の子どもで売春? 何て酷いことを。
「売春を斡旋していたのは、この男。通称、ジェーン」
モニターにジェーンという男の顔が表示された。地味でおとなしそうな印象の外国人だ。一見、凶悪な犯罪者のようには見えない。
「コイツは、優等人種か?」
「いいえ、ボス。コイツは普通人種よ。単なる実行役みたいね。操っているのが、この女」
「女の人ですか?」
思わず、ボクは声を出してしまった。
「俊介、先入観は捨てろ! 凶悪なことの背景にあるのは、想定外なことばかりだ」
「はい」
珠美さんは冷静にボクを諭す。
そして黒幕の女がモニターに映し出された。
「この女は、二口田亜弥。公安省の名古屋事務所に勤務する35歳。エリート大卒の優等人種。コイツは官僚なのに副業でジェーンを操って、売春で荒稼ぎしてる。斡旋される客は、政治家や大手企業の経営者、大物芸能人。噂によると副大臣クラスも客になっているみたい」
「かわいい女の子を犠牲にするなんて、許せないです」とボクが言うと、珠美さんは大声で笑った。
「だから、先入観は捨てろと言っただろ!」
ボクは珠美さんの言う意味が分からない。
「売春されているのは、全部、男の子よ」とキッコさんはため息交じりに言う。
「男の子?」
「そう、あなたよりも少し年下のね。そんな男の子をあさってるのは、おばさんがメインだけど、中には男もいるわ」
「キッコさん。男の売春なんて、成立するんですか?」
「お前……。ホント、世間知らずだな」とまた、珠美さんが割り込んでくる。
「じゃあ、逆に聞くが、どうして女の子の売春は成立するんだ?」
「それは、……そういう欲望を持った男がいっぱいいるから……」
「幼い男の身体がたまらなく好きな女はいないのか?」
「いるかもしれないけど、それは実感として少数じゃないですか?」
珠美さんだけでなく、キッコさんとミホさんまでボクを笑う。
「俊介くんは、ピュアなのね。気に入ったわ」とミホさんはボクの手を握る。ボクは顔が火照りだした。女の人と手をつなぐなんて……。
「おい、触るな」と珠美さんがミホさんを叱ると、ミホさんは「はーい」と言って、手を引っ込めた。
「いいか、俊介。私の実感はむしろ逆だ。幼い女が好きな男の数以上に、幼い男が好きな女の方が多い」
「ホントですか?」
「でも、女はそういう本性を包み隠すことがうまい。それだけだ。その欲望に目を付けた優等人種の、この亜弥って官僚が普通人種の外国人、ジェーンを操り、要支援者人種の少年を性奴隷にしているのさ」
「どうして、こんな目に遭って、ヨーシー民の男の子は我慢するのですか?」
「わずかな金を与えて黙らせているんだろう。違うか、キッコ?」
「そうみたい。要支援者人種は政府のせいで貧しい環境に追いやられているからね」
「この亜弥って女を痛みつけて、持っている金を根こそぎ奪ってやる」
「3日後、この二口田亜弥がジェーンと一緒に名古屋の駅裏のビルで高額な料金のパーティを開くみたい。金持ちの優等人種の女らは会場に連行された要支援者人種の男の子を物色して、個室に連れていくんだって」
「根こそぎ壊滅させるのにちょうどいいな。よし、この征討作戦は私が直接やる」
珠美さんは高らかに宣言した。そして、ボクを凝視する。
「俊介も、一緒に行くぞ」
「え? ボク?」
「そうだ。今から翼型のドローンと銃を渡すから、それまでに使い方をマスターしておけ」
「それより、ボクはいつ、家族に会えるんですか?」
「それはこの作戦が終わった後だ」
「終わったら、会わせてくれるんですね?」
「甘えんな! もう、お前はドローンっていう翼も手に入れて、自由にどこへでも行けるだろ。母親と弟に会いたきゃ、自分で行けばいい。この指令室のデータベースを使えば、お前の家族の住所など一瞬で分かる。とにかく、この作戦が終わったら勝手にしろ」
誘っておいて、ずい分一方的な言い方だ。でも、今は従うしかない。
母さん、佳亮、……。
作戦が終わったら、会いに行くからな。



