二〇✕✕年、日本は知能指数を進化させた優生指数(EQ)の数値で要支援人種、普通人種、優等人種という「人種」に区分され、合理的配慮という名の下、居住地域も学校も、仕事もすべて分けられていた。
EQは、知能の高さだけでなく、遺伝子学上で優位になるものをすべて指標化し、その数値が高い人ほどあらゆる職業や活動で優れた成果を出す可能性が高いとされる。また、EQが高い者同士が結ばれ、子どもを産むことで、さらにEQの高い子どもが生まれ、国家の繁栄に貢献する、と政府は広報していた。
要支援人種は、全員、国家指定の要支援者エリアの施設に隔離されて住むことが義務付けられ、週四日、簡単な作業の仕事をしたら貧しいなりに何とか生活ができるよう国家が保障してくれる。要支援者は、普通人種や優等人種と基本的に交流や恋愛、結婚をしてはいけない。同じ特別要支援人種同士であっても、結婚したり、子どもを産んだりすることは認められていないが、恋愛までは認められる。
ある時から、すべての人は人種情報を詰め込んだICチップを体内に埋め込み、公安隊員はカメラとICチップの読み取り機を連動した装置を街中において、人々を監視するようになった。
この合理的配慮に基づいた人種区分は、誰もが安心して死ぬまで生活できるように考えて生まれたが、同時に人々の大きな分断を招いた。
「残念ですが、検査の結果、お子さんのEQは60でした」
「そんな!」
医師の説明を聞きながら、恵美は息子の俊介を震える手で抱きしめる。
「日本人のEQな平均が100で70以下の人は、要支援人種となります」
精神科医の島田は、淡々と事実だけを伝える。
「この子はどうなるんですか?」
「今日から俊介くんは家族から隔離されます。指定のエリアに一人で引っ越していただくことになります。すぐに市役所から案内が届きますので手続きをしてください」
「いやよ! この子は、まだ6歳なんですよ! こんな幼いのに親と引き離すなんて、酷すぎます」
「しかし、これは決まりなんです。俊介くんは言葉の理解も遅く、知能の低いので、このまま普通の暮らしをしても周りの人たちについていけません。知能が低いまま一般社会に出ると犯罪だって起こしかねません」
「そんなことないです。俊介はうまくしゃべれないだけで、ちゃんと文字や私が言っていることは理解しています。検査の結果が間違っているんじゃないですか?」
「それはないです。お気持ちはお察ししますが、ルールはルールです」
「もう一度、検査してください。もう一回やればいい数字が出ますから」
「不服申立は五年に一回できますので、その際に再度EQ試験を実施して数値が70以上になれば、普通人種になれます。しかし、再試験でEQの数値が上がった人の割合はわずか0.0001パーセントです。お母さん、EQとは人が持って生まれたもので、何歳になろうが、また、何度検査をしようが結果はほぼ変わりません。もう諦めてください」
「いやー! この子は渡さない!」
泣きわめく姿が、俊介にとっての母親の最後の記憶だ。
EQは、知能の高さだけでなく、遺伝子学上で優位になるものをすべて指標化し、その数値が高い人ほどあらゆる職業や活動で優れた成果を出す可能性が高いとされる。また、EQが高い者同士が結ばれ、子どもを産むことで、さらにEQの高い子どもが生まれ、国家の繁栄に貢献する、と政府は広報していた。
要支援人種は、全員、国家指定の要支援者エリアの施設に隔離されて住むことが義務付けられ、週四日、簡単な作業の仕事をしたら貧しいなりに何とか生活ができるよう国家が保障してくれる。要支援者は、普通人種や優等人種と基本的に交流や恋愛、結婚をしてはいけない。同じ特別要支援人種同士であっても、結婚したり、子どもを産んだりすることは認められていないが、恋愛までは認められる。
ある時から、すべての人は人種情報を詰め込んだICチップを体内に埋め込み、公安隊員はカメラとICチップの読み取り機を連動した装置を街中において、人々を監視するようになった。
この合理的配慮に基づいた人種区分は、誰もが安心して死ぬまで生活できるように考えて生まれたが、同時に人々の大きな分断を招いた。
「残念ですが、検査の結果、お子さんのEQは60でした」
「そんな!」
医師の説明を聞きながら、恵美は息子の俊介を震える手で抱きしめる。
「日本人のEQな平均が100で70以下の人は、要支援人種となります」
精神科医の島田は、淡々と事実だけを伝える。
「この子はどうなるんですか?」
「今日から俊介くんは家族から隔離されます。指定のエリアに一人で引っ越していただくことになります。すぐに市役所から案内が届きますので手続きをしてください」
「いやよ! この子は、まだ6歳なんですよ! こんな幼いのに親と引き離すなんて、酷すぎます」
「しかし、これは決まりなんです。俊介くんは言葉の理解も遅く、知能の低いので、このまま普通の暮らしをしても周りの人たちについていけません。知能が低いまま一般社会に出ると犯罪だって起こしかねません」
「そんなことないです。俊介はうまくしゃべれないだけで、ちゃんと文字や私が言っていることは理解しています。検査の結果が間違っているんじゃないですか?」
「それはないです。お気持ちはお察ししますが、ルールはルールです」
「もう一度、検査してください。もう一回やればいい数字が出ますから」
「不服申立は五年に一回できますので、その際に再度EQ試験を実施して数値が70以上になれば、普通人種になれます。しかし、再試験でEQの数値が上がった人の割合はわずか0.0001パーセントです。お母さん、EQとは人が持って生まれたもので、何歳になろうが、また、何度検査をしようが結果はほぼ変わりません。もう諦めてください」
「いやー! この子は渡さない!」
泣きわめく姿が、俊介にとっての母親の最後の記憶だ。



