「これを食べたらもう、俺が作ったお菓子以外は食べないこと。約束できる?」
放課後、手招きされておそるおそる足を踏み入れた調理室。
校内でも人気の王子様、二年生のスイレン先輩が甘い笑みを浮かべて俺を見つめている。
その手に持っているのは、白いドレープ皿に乗ったりんごのケーキ。
他のお菓子を食べられないなんて嫌だ! と思うのに、俺の腹は「ぐうううぅ」と勢いよく返事をした。
「いい返事」
先輩がクスクスと笑い、ひと口大にしたケーキを銀のフォークで刺す。
「はい、あーん」
甘いマスクの先輩による、甘い声での甘い誘惑。
俺は条件反射のようにまんまるく口を開け、差し出されたフォークからそのままケーキを口に入れる。
まるで、サッカー部用具室の軒下に作られた巣の中で、親ツバメから餌をもらう雛のように。
「あれ? これ……」
焦がしキャラメルのような少しのほろ苦さと、一瞬遅れてきたりんごの甘さ、そして爽やかさ。生地はホロッとサクッとしていて、飲み込むと、身体じゅうが優しい甘さで満たされていく。
幸せ……。なぜだろう。初めて食べたケーキのはずなのに、俺はこの幸せを知っている気がした。



