歓迎会。先輩との練習が活かされる時が来た。
クロスを広げてセッティングをしたテーブルに桃山くん達を案内し、先輩と一緒にお茶とお菓子を準備する。
レースペーパーを敷いた皿に小さなトングで一口サイズのフィナンシェを載せていく。
いつも使っているテーブルはゲストのお茶とお菓子を並べるだけでいっぱいになりそうだ。花瓶を置くスペースすら無い。
震える手でフィナンシェが載ったお皿を並べると、それだけでテーブルが沸いた。
「わ! おしゃれ~!」
「カフェみたい!」
「うまそう!」
「こらこら飾り付け見なさいよ。花より団子ぉ」
「この紙どうやって穴あけてんだろ?」
今までもレディ達が賑やかに飛び交っていたけど、それとは違う種類の賑やかさ。いつもは積極的にお茶会に参加してくるレディ達も、今日は皆の勢いに呑まれたのか若干遠巻きに飛んでいる気がする。
レンゲ先輩が透明なティーカップに黄金色の液体を注ぎ、その後で俺がミニトングで塩漬けの桜の花を入れていく。蜂蜜を溶かしたお湯の中で、桜の花がゆらり揺蕩う。
おしゃれな演出に、再び皆が瞳を輝かせた。
「今年採れた桜の蜂蜜を使ってみました。ごゆっくりどうぞ」
レンゲ先輩が一礼するのに合わせ、俺も頭を下げた。
「さ。ハニーもこっちで一緒に楽しもう」
「はい」
予備の椅子まで使ってしまったので、屋上の隅にレジャーシート代わりに防護服を広げてお菓子の皿を並べる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、す」
先輩から受け取った透明のティーカップの中で揺らめく桜の花をうっとりと見つめる。
インフルエンザで見れなかったお花見が、こんな形で叶うとは。
カップを近づけると、ふわりと桜の香りが立ち昇る。甘い湯気を吹いて一口。口の中に優しい花の香りと甘さ、桜餅のような塩気が広がった。
「……レンゲ先輩」
俺が桜茶を飲むのを隣でにこにこと見守ってくれていた先輩が、先を促すように頷く。
「俺、ここの高校に入って、先輩に養蜂部に誘ってもらえて、本当に幸せです」
先輩は、ふふ、とくすぐったそうに笑った。
「僕もだよ。ハニーが幸せそうにしてくれてるところ見るの、僕まで幸せになる。ほんと、大好き」
言われてやっと気付く。小難しい言葉にする必要なんてない。先輩みたいに素直に伝えればいいだけなんだ。
「レンゲ先輩。あの、俺、俺……も。レンゲ先輩のこと、す、すすっ、好kっ……「すいませーん! ちょっと質問良いですかー?」
絶妙なタイミングでテーブルから声がかかる。
「また、いいタイミングで。もう……」
レンゲ先輩が苦笑いを浮かべて「はーい! ちょっと待っててねー!」とテーブルの方に手を振った。
「あ……! 俺も……!」
先輩は、慌てて立ち上がろうとした俺の両頬にするりと手を滑らせた。
「ハニー」
俯くことも許されない。息がかかりそうなほどの距離で、アーモンド型の色素の薄い瞳が俺を捉える。
「すぐ戻るから、さっきの続き、聞かせて? 今度は絶対、誰にも邪魔させないから」
二人だけにしか聞こえない低い囁き。
いつものにこにこふわふわした先輩からは想像もつかない真剣な表情に、完全思考停止に陥る。
先輩はにこ、と口角を上げ、俺の頬を一撫でしてからテーブルへと歩いて行く。
あとに残されたのは、いつもの先輩の鼻歌の余韻。
ティーカップの周囲を旋回するレディの羽音を聞いて、やっと自分が息をしていなかったことに気付く。気付いた途端に時間差で一気に上昇する体温。
「……先輩、あんな恰好良いの、反則、すよぉ……」
赤面して蚊の鳴く声で呟く俺の周囲を、レディ達が楽し気に舞った。
《了》
クロスを広げてセッティングをしたテーブルに桃山くん達を案内し、先輩と一緒にお茶とお菓子を準備する。
レースペーパーを敷いた皿に小さなトングで一口サイズのフィナンシェを載せていく。
いつも使っているテーブルはゲストのお茶とお菓子を並べるだけでいっぱいになりそうだ。花瓶を置くスペースすら無い。
震える手でフィナンシェが載ったお皿を並べると、それだけでテーブルが沸いた。
「わ! おしゃれ~!」
「カフェみたい!」
「うまそう!」
「こらこら飾り付け見なさいよ。花より団子ぉ」
「この紙どうやって穴あけてんだろ?」
今までもレディ達が賑やかに飛び交っていたけど、それとは違う種類の賑やかさ。いつもは積極的にお茶会に参加してくるレディ達も、今日は皆の勢いに呑まれたのか若干遠巻きに飛んでいる気がする。
レンゲ先輩が透明なティーカップに黄金色の液体を注ぎ、その後で俺がミニトングで塩漬けの桜の花を入れていく。蜂蜜を溶かしたお湯の中で、桜の花がゆらり揺蕩う。
おしゃれな演出に、再び皆が瞳を輝かせた。
「今年採れた桜の蜂蜜を使ってみました。ごゆっくりどうぞ」
レンゲ先輩が一礼するのに合わせ、俺も頭を下げた。
「さ。ハニーもこっちで一緒に楽しもう」
「はい」
予備の椅子まで使ってしまったので、屋上の隅にレジャーシート代わりに防護服を広げてお菓子の皿を並べる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、す」
先輩から受け取った透明のティーカップの中で揺らめく桜の花をうっとりと見つめる。
インフルエンザで見れなかったお花見が、こんな形で叶うとは。
カップを近づけると、ふわりと桜の香りが立ち昇る。甘い湯気を吹いて一口。口の中に優しい花の香りと甘さ、桜餅のような塩気が広がった。
「……レンゲ先輩」
俺が桜茶を飲むのを隣でにこにこと見守ってくれていた先輩が、先を促すように頷く。
「俺、ここの高校に入って、先輩に養蜂部に誘ってもらえて、本当に幸せです」
先輩は、ふふ、とくすぐったそうに笑った。
「僕もだよ。ハニーが幸せそうにしてくれてるところ見るの、僕まで幸せになる。ほんと、大好き」
言われてやっと気付く。小難しい言葉にする必要なんてない。先輩みたいに素直に伝えればいいだけなんだ。
「レンゲ先輩。あの、俺、俺……も。レンゲ先輩のこと、す、すすっ、好kっ……「すいませーん! ちょっと質問良いですかー?」
絶妙なタイミングでテーブルから声がかかる。
「また、いいタイミングで。もう……」
レンゲ先輩が苦笑いを浮かべて「はーい! ちょっと待っててねー!」とテーブルの方に手を振った。
「あ……! 俺も……!」
先輩は、慌てて立ち上がろうとした俺の両頬にするりと手を滑らせた。
「ハニー」
俯くことも許されない。息がかかりそうなほどの距離で、アーモンド型の色素の薄い瞳が俺を捉える。
「すぐ戻るから、さっきの続き、聞かせて? 今度は絶対、誰にも邪魔させないから」
二人だけにしか聞こえない低い囁き。
いつものにこにこふわふわした先輩からは想像もつかない真剣な表情に、完全思考停止に陥る。
先輩はにこ、と口角を上げ、俺の頬を一撫でしてからテーブルへと歩いて行く。
あとに残されたのは、いつもの先輩の鼻歌の余韻。
ティーカップの周囲を旋回するレディの羽音を聞いて、やっと自分が息をしていなかったことに気付く。気付いた途端に時間差で一気に上昇する体温。
「……先輩、あんな恰好良いの、反則、すよぉ……」
赤面して蚊の鳴く声で呟く俺の周囲を、レディ達が楽し気に舞った。
《了》


