通報系ぼっちが愛されるまで

 放課のチャイムと同時に教室を出て、早足で屋上へと向かう。
 昼に一緒にお弁当を食べている時、レンゲ先輩から『今日は勢いのある群れの巣箱に継箱を入れようか』と提案された。
 継箱とは重箱状になっている巣箱の追加用の箱。継箱を追加するのはレディ達の管理が良い証拠。働き蜂がどんどん増え、貯蜜量も増えているらしい。イメージとしては家族が増えて手狭になったので家を増築、みたいな。

 棟屋の扉を開けると、扉の傍には既に継箱と呼ばれる増設用の木箱が準備されていた。

「すみません。遅くなった、す」
「ハニー。いらっしゃい」

 レンゲ先輩が笑顔で迎えてくれる。
 二人で防護服の準備をしていると、屋上の棟屋のドアを叩く音が響いた。

「あれ、誰か来たみたいだね」
「見てくる、す」

 先輩は既に防護服を身に付けていたので、俺が率先して動く。
 ドアを開けると、見覚えのある顔がのぞいた。

「……桃山くん?」

 レディが教室に迷い込んだ時、机に上った俺が転ばないように足元を支えてくれたクラスメートだ。

「え? 俺の名前……?」
「え、あ。えと、ごめ……」

 話したことも無いのに一方的に知ってるとかキモいかな。

「蜂ノ屋くんに覚えててもらえて嬉しい」

 そう言って桃山くんは、にっ、と歯を見せて笑った。

 嬉しいと言われる日が来るなんて。

 感動して、じっと桃山くんの顔を凝視してしまう。

「え……、っと。睨まれてるわけでは、ない、ん、だよな?」

 桃山くんから確認を取られ、慌てて視線を逸らす。

 しまった。またいつもの凝視癖が。

「ご、ごめ……! 嬉……y……夢じゃないかと……、」

 いきなり黙り込んで顔を凝視されたら誰でも怖いよな。青葉先輩からも注意されたのに。気を付けないと。

「……ぇと、何か……?」
「ああ。教室で『屋上で蜂飼育してる』って教えてくれただろ? クラスの奴らと見てみたいって話になってさ。おーい! お前ら、出てこいよ!」

 桃山くんが声を掛けると、階下の階段の手すりから見覚えのあるクラスメート達が顔を出す。

「……栗本さん。柿崎くんに、柚木さん、梅原さんまで」
「え……?」

 栗本さん達が困惑気味に顔を見合わせる。

 しまった! 桃山くんに嫌がられなかったからといって、いきなり仲良くも無いのに名前呼ぶとか調子乗った!

 コミュ障な俺は、いつか来る日に友人関係を築けるよう、クラスメートの顔と名前を一致させるのが毎年の楽しみだった。結局話しかける勇気も話しかけられる機会も無く、毎年無駄に終わるのが恒例だけど。

「ぅあ、……の、ごめ、えと俺……っ!」

 焦って訂正しようとしていると、桃山くんの興奮気味な声が響いた。

「な! 俺もびっくりしたけど、蜂ノ屋くん、俺らの名前と顔ちゃんと覚えてくれてるんだって! すごくね? 俺まだ同中以外の子で顔と名前一致しない奴いっぱいいるのに!」

 え!? あ、そういうの普通なんだ!?
 友達がいないから、どれくらい親しくなったら名前を覚えるとかがわからない。

「あれ? さっきのハニーのクラスの子たちだ」

 ひょこん、と防護服を脱いだレンゲ先輩が顔を覗かせると栗本さん達の表情が目に見えて安堵する。

 ほんとごめん。無駄に緊張させて。

「あの、活動の様子を見にきてくれたそう、す」
「……しまったな」

 ぽつりと聞こえるか聞こえないかの低い声で先輩が呟く。

「……先輩?」

 先輩は何事も無かったかのように、ぱ、と笑顔を浮かべた。

「じゃ、継箱は一旦保留にして、歓迎会だね」

 レンゲ先輩は笑顔で俺に目配せした。

 なんだろう。さっきの。気のせいかな?