凡才の俺と天性の将棋の天才の雨宮



 そして、将棋大会の当日がやってきた。

 早かったな、と思う。何しろ毎日が重質しているからか毎日が過ぎるのが早いのだ。
 だけど、それと同時に、雨宮のあの発言に関しては毎日考え続けてきた。そして、答えが見つかりそうな所まで来ている。


 将棋に関しても、雨宮の事に対しても、やれるだけの事は出来たと思っている。

 ここから先、一番いやなのは雨宮以外のやつに負ける事だ。
 勿論雨宮だからいいなんて言う事ではない。だけど、奴に対抗心を燃やし過ぎで、そのせいで別のやつに負けるなんて言う展開は絶対にごめんなのだ。

 俺は将棋の駒を手に握りつつ、家から出て目的地へと向かっていく。
 緊張する。その中で、俺はあいつと出会った。

 「今日はお互いに頑張ろうね」

 そう、彼が言った。だけど、俺は無視をした。勿論、話したくないから無視した、なんてわけではない。ただ今は、
 慣れ合いたくは無かった。それに、あの出来事があったから単純に気まずい・

 「今日は絶対に俺が勝つからな」

 そう言った。

 そして、会場までついた。そこでエントリーをして、試合開始を待った。

 やる気は満々だ。今日は負けるつもりはない。絶対に、

 そして、開始された。
 試合は二日にかけて行われる。総当たり戦による予選からの、トーナメント形式の決勝だ。

 一日目はその総当たり戦だ。
 そこでは、10人程と対局する。

 今日は、神を見た所、まだ当たらないらしい。

 それを見て、少し安心した。決勝戦で当たりたい所。
 予選で当たってしまっては多少興ざめな所があるのだ。

 俺は、目の前の一局一局に集中して指して行く。七戦勝利すればそれで突破できるが、そんな事を考えているようではあいつには勝てない。

 それこそ、全勝するくらいの気概で行かなければならないと、思っている。

 俺は精魂込めて、将棋を指し続ける。

 目の前の相手に全力で立ち向かっていく。
 その中で、将棋の勘が冴えてきた。

 向こうもきっと全勝をしてくるだろう。
 だから俺が、勝ち切らないといけない。

 あいつに負けないように。

 一戦目、37銀打ちまで、
 二局目、65桂馬まで
 三局目、85歩まで
 四局目、47馬まで
 五局目、49竜まで
 六局目、46玉まで
 七局目、87同角まで
 八局目、37歩成まで
 九局目、36銀まで
 十局目、87飛車成まで


 と言ったように、全部圧勝で終わった。

 これも、俺が変に油断しなかったから、なのかなと思う。
 そして、彼も同時に終わったようだ。

 そして、その対局カードが見えた。

 全勝だった。やるじゃねえか、と思った。
 だけど、奴ならこれくらいはやって当然だ。

 俺はそんな雨宮を負かすためにここにいる。まだ、練習対局では一度も勝てたことはないが、今日は絶対に勝って見せる。
 そう、今日は負けるわけにはいかねえんだ。

 雨宮の言葉の返事をするためにも。



 「お疲れ様」

 そう、雨宮が言った。

 「ああ、お疲れ様だ」

 疲労は確かにたまっている。脳への疲労だ。何しろ、あんな熱中して指し続ければ、当然脳への疲労はやってくる。
 大分今の俺は疲れがたまっていると感じた。


 「安心しろ。明日絶対にお前に勝って見せる」

 俺はそう宣言した。

 「待ってる」

 そう頷き、そして、俺に抱き着いた。

 「なんで、そんな抱き着くのが好きなんだよ」
 「いいじゃんか……」

 奴はそう一手さらに抱き着く力を増していく。
 いいじゃんか、じゃねえよ。
 やっぱり俺の事が好きだからか。

 「約束だからね。あした僕に敗北の味を覚えさせてよ。そして、返事を聞かせてよね」
 「ああ、約束だ」

 そして、俺たちは帰路へとついた。
 家に帰ってからは今日の対局の振り返りを軽くして、母さんに頼み早めに睡眠をとる事にした。

 今日これ以上頭を使うのは危険だ。疲れすぎていて、もう頭が回らないのだから。


 そして、寝ている間に俺は夢を見る。
 将棋を指している夢だ。
 俺があいつ、宮水と将棋を指している夢だ。

 何となく、不思議な気持ちになる。


 夢の中でも俺は将棋を指しているのか。
 俺はどれだけ将棋が好きなんだよ。

 そう、自嘲めいた笑みを浮かべる。



 夢の中では、頭を使いたくないのに、それなのにここで頭を使うだなんて。ドエムとしか思えないな、と思う。

 だけど、ただなんとなく、楽しいなと思った。
 夢の中でも、将棋で戦えるというのが嬉しいのだ。

 俺は、夢の中では手が冴えていて、

 そして、俺の手で雨宮の玉をつましていたのだ。

 興奮をした。夢の中でもあいつに勝てた。その事実が貼る会嬉しかったのだ。
 俺は興奮をした。そして、早期に目が覚めてしまった。

 まだ五時だ。まだ寝ようと思っていたのに。もしや早くに寝たからか。

 過ぎた。

 くそっ嫌だな、と思う。
 もう少し寝たかった。
 だけど、

 俺は伸びをした。

 もう眠れそうにない。
 今日ですべてが決まってしまう。

 それを想うと、やはり怖い気持ちがある。


 今日は勝たなくていい、じゃない。今日はb勝たないといけない。
 勝たなければ前には進めないのだ。

 俺はベッドのそばに置いた将棋の駒を手に取る。角行、俺の一番好きな駒だ。何しろ、縦横無尽に動いていくのだ。
 そして、相手陣に食らいついていく。こんなに楽しい事は他にねえ。

 俺はその場で、ふぅと、息を吐く。

 今日戦う。そしてあいつに敗北の味を味合わせる。それが、俺の役目だ。

 あいつは言っていた。俺の事が好きだと。

 だったら、その俺があいつに敗北の味を味合わせて、最強から解放してやる。
 俺はぎゅっとこぶしを握る。





 「行ってきます。母さん」

 俺は母さんに言った。

 「大会よね」
 「ああ。絶対に優勝して見せるから」



 そして、俺は勝負の場へと向かっていった。


 そこで俺は、

 角行を握り締めながら、勝負の時を待って行った。

 時間まではまだ早い。昨日と違い、エントリー可能時間までまだ時間がある。
 そのあち打にすることは何か、ネット対戦だ。

 俺は、ネットの方にもアカウントは持っている。
 そこで、

 俺は早指し戦をしていく。

 こちらは時間が短いため、瞬時の判断が肝となる。
 俺はその中で、世耕演習を開始していく。

 それは何となく楽しかった。

 瞬発力の勝負で、俺は全力で指せたのだから。


 そして、数局指したところで、勝ってきたおにぎりを食べる。
 すると、

 そこにあいつがやってきた。


 雨宮


 「来てたんだね。早いね」
 「ああ、お前を倒す準備してたからな」

 俺が笑って言うと、

 「楽しみにしてるよ」

 そう、雨宮は言った。
 その目線は寂しい物だった。
 大丈夫だ。俺がお前を一人にはさせねえ。俺がお前を絶望から救って見せるから。

 お前の言葉に応えて見せるから。


 そして、俺は試合に出て、

 そのまま、



 一局目を勝利した。このまま行ったら戦うのは決勝だ。

 あいつの心配なんてしていない。あいつなら絶対に勝ってくる。俺の仕事はただ、目の前の将棋に勝って見せるだけだ。

 勝って、勝って勝って勝って、勝ち続けて、

 そして、あっという間に俺は決勝へと上がって行った。

 決勝。俺と雨宮との対局だ。



 「雨宮」

 俺は彼に語り掛ける。

 「俺はお前に絶対に勝つ」
 「うん。僕の方からも一ついいかな」

 そして、対局席に座る前に、俺の耳に一言「好きだよ。僕に勝ったら付き合ってね」

 なんだ、その言葉は。普通逆じゃないのか?
 バスケットボールのシュートが決まったら、付き合ってください的な。

 まあ、そこは関係ない。
 雨宮もきっと、本気で指してくるだろう。それこそ、負けるつもりはないかのような、将棋を指して見せるだろう。

 それに俺は負けるわけにはいかない。
 付き合う付き合わない云々とかじゃない。ただ、俺はこいつに勝ちたい。
 俺のためにも、雨宮の為にも。


 俺は先手番になった。
 周りから注目されている。

 その中で、俺は初手を指した。

 そして――

 将棋はあっという間に激戦になった。


 案の定、研究を外され、前例のないような将棋になって行った。
 だけど、いいさ。ここから勝てば、俺が正義だ。
 どんどんと、手を指して行く。

 その先にあるのは、きっと勝利だと、俺は信じている。

 手を伸ばし、その中で玉へと迫っていく。
 終盤に入り、俺が先にリードを奪った。

 だが、まだ油断はできない。俺が終盤にリードを奪った将棋は今までもあった。だけど、その将棋で勝てたことは無かった。最後に逆転負けをする事多数なのだ。

 俺は、油断せずに指さなくてはならない。それこそ、こいつに今日も無事に勝利を収めるために。

 俺は目の前の盤面に集中をする。
 そして、勝利を目指して、刺し続けていく。

 もう俺には他の物は見えてこねえ。ただ、見えるのは勝利だけだ。目の前の勝利。それさえできればすべて解決なのだ。

 盤面に集中を込めていき、



 そして、一手一手精神込めて指して行く。
 今度は受けのターンへとなって行った。


 今度は逆にこちらが言って間違えればすべてが終わってしまう。
 ミスをしたら即座に負けてしまう。緊張感を持ちながら指して行かなければならない。



 ここで間違ってしまえば、全てが終わってしまう。

 緊張感を持ちながら、


 そして、緊張感を持ちながらピンチを切り抜けた。

 雨宮はまずいという顔を見せている。

 ピンチの後はチャンスだ。
 将棋という物は従来攻める時には沢山の駒を捨てなければならない。
 そして俺は逆にその分戦力を充実させることが出来る。
 文字通りのチャンスが俺にやってきた。オレはチャンスだとばかりに責めていく。
 勿論、ここで攻め間違えればまずくなるのは俺だ。だけど、なんとなく大丈夫と言う自信があった。


 覚悟しろ、雨宮。お前にはもう攻めの番は与えない。ここから始まるのは悪いが俺の一方的な蹂躙だ。
 初勝利を貰わせてもらう。
 この将棋は俺が貰った。

 ★

 まずいと、思った。この将棋はまずいかもしれない。
 僕は彼の気迫に勝利を焦ってしまったかもしれない。
 早く勝負を決めないと負けると、思ったからだ。

 だけど、それは失敗だった。


 僕は負けるかもしれないって思った。それは、その感情は今までで一番感じた負けたらどうなるんだろう。
 僕は自分の事が嫌いになるんだろうか。
 僕は絶望するんだろうか。
 だも、確かに言える事は今僕はワクワクしてるってこと。

 負けたい負けたい負けたい。

 ねえ、武くん。君なら僕を負けさせてくれるよね。

 ★


 優勢になった俺だけと、油断するわけにはいかない。まだまだ丁寧に指さないと負ける。
 だけど、今までで一番追い詰めていると感じている。
 一直線な展開だ。

 ここまで来たら確実に勝てる。



 —―俺は買っていいのか?

 唐突にそんな不安が俺を襲った奴を負けさせるk十は奴の夢であり、俺の夢でもあったはずだ。
 だけど、俺は不安になってしまっている。


 手が震える。
 ああ、そうか。俺は怖いんだ。

 もし俺が勝って、俺たちの関係性が変わってしまったら、なんて思っているだろう。だけど、

 その発言こそ、雨宮ニッ失礼じゃないのか?

 あいつはそんな弱かったか?
 この程度で絶望するやつだったか?

 むしろ、ここから負けた方が、あいつに対しては失礼になるんじゃないか?
 そちらの方が確実に俺たちお不仲の原因となってしまう。となれば、今俺がするべきことは?

 決まっている。

 俺は決めた。とどめを刺すことを。
 そもそも忘れかけていたのは俺の目的だ。
 俺の目的はこいつを負かすことだったはずだ。なのになぜそれを忘れているんだ、俺は。
 俺は、全力でとどめを刺しに動いた。



 そこから先、俺は迷わなかった。俺はただ目の前の敵を潰そうと指し続けた。

 高揚感と罪悪感、色々な感情が俺を覆いつくさんとしており訳が分からなくなる。
 ただ、そんな中で俺はひたすらに指して行き、


 『負けました』


 その雨宮の言葉を無事に得る事が出来たのだ。


 「はぁはぁ」

 やったという感情が大きい。ついにこいつに勝った、勝てたなんていう感情におおいつくされようとしている


 「強くなったね」

 そう、雨宮が言った。

 「僕は油断なんてしていない。君が実力でえた勝利だよ」

 その言葉に、

 「そうだな」

 と言った。だけど、その中で気づくことがある。明らかに悔しそうにしているのだ。
 当然だろう。悔しくない奴がいるわけが無い。

 今日の勝者の俺が感じていい事かは分からないが。その中で俺は



 その帰り道、あいつは俺の家へとやってきた。

 その表情は暗い物だった。
 当然だろう。悔しくない奴がいないわけが無い。

 「ねえ」
 「なんだ」
 「僕知らなかったんだけど」

 そして、俺の肩を掴み、

 「こんなに悔しいなんて」

 やっぱり悔しいんじゃねえかよ。

 「大丈夫か」
 「大丈夫じゃない。僕を慰めて」


 そして、俺に抱き着いた。


 俺はそんな彼の頭を撫でた。

 「僕にこんな気持ちを味合わせた責任とってくれよ」

 そう、今までとは違う強がった口調で言い放ち、

 「今日は僕の機嫌が回復するまで、僕を慰めてよな」

 そして、

 俺に抱き着いてくる。
 だけど、すぐに世数が変わって行った。

 雨宮は泣いている。
 悔しくて泣いてしまっているのだ。

 涙が頬を伝利、雨宮を抱きしめてる俺の手にこぼれていくよほど悔しかったんだろうな、と思った。

 「僕は、なんであの手を指せなかったんだ。いやその前に、なんであんなに悪くしたんだ。あそこは攻め込むべきじゃなかったんだろうか。嫌でも待っていたって局面は良くならなかった。でも、やりようはあったはず。でも、あそこで踏み込むんじゃなくて守りに戻ったら。いやその前に――」

 そんな、一人感想戦をする、雨宮の頭を撫でる。
 俺があの日、雨宮に負けた人はまた違った悲しみ方だけど、それでも、悔しい事はよくわかる良く伝わる。

 俺はそのまま雨宮を慰め続けるのだった。



 「お恥ずかしい所を……」

 小一時間後、雨宮は顔を赤らめながらそう言った。

 「確かに可愛かったな」
 「そんなこと言わないでよ」
 「ははっすまん」

 俺が謝ると、「もうっ!!」なんて言って頬を膨らませる。

 「ねえ、今日一緒に寝ない?」

 そう、雨宮は俺に提案した。

 「急だな」
 「別にいいでしょ。責任取ってよ」
 「またそれか」
 「うん。そうだよ。今日は武君に覆われながら寝たいな」
 「欲望が大きいな」
 「ね、いいでしょ」
 「まあ、別に構わんがな」
 「やったー!!」

 悦んでくれる。
 それを見ると、俺は正直可愛らしくて、

 俺は彼の頭を優しく撫でるのだった。

 「告白の返事だけどな」

 眠そうにする雨宮に、一言告げる。

 「俺も好きだよ」

 そしてその日は二人抱きしめ合いながら寝た。

 その日俺は正直楽しかった。

 雨宮の期待に応えられた、
 そして、なにより雨宮に告白の返事が出来たのだから。