凡才の俺と天性の将棋の天才の雨宮

 そして土曜日、押し切られる形で遊園地に遊びに行くことになった。一週間前の俺に行っても理解は得られないだろう。何しろ、嫌ってた男と一緒に遊園地に行くことになるからな。
 とはいえ、俺はあいつの事が嫌いなわけじゃない。今はそこそこ好きになってる。友達に近い形になっているのだ。
 だから、もはや忌み嫌う理由なんて、どこにもないのだ。

 とは言っても、遊園地か。思えば最近行っていなかった気がする。
 俺は遊園地が嫌いな訳ではない。
 だけど、将棋の研究の方が楽しかったのだ。

 遊園地内で、将棋の定石書を読むようなやつはいない。そういう訳で俺は遊園地には足を踏み入れなくなったのだ。

 10分前、待ち合わせ時間の10分前に集合場所についたはずだが、奴はすでにいた。
 早い、と感じた。

 来るのが明らかに速い。それだけ楽しみにしていたのだろうか。

 俺が「おーい」と言いながら手を振ると、すぐにオレに対し笑顔を牧近下。

 可愛い

 そう、俺は思った。
 一応あいつも高校生のはずだけど、まるで小学生じみた笑みをこちらに向けて来る。それが正直可愛らしかった。

 そして、

 「じゃあ、早速行こ」

 そう言った奴の言葉に俺は頷き、一緒に歩いていく。だが、

 俺の手を取られた。
 そう、手をつながれた。

 あれえ、手をつながれるのって普通だっけ。と、思った。

 男子同士ならあまりないだろう。だけど、別にいいやと、思った。

 年齢からしたら、あまり発達してない手。もしかしたらこども料金で遊園地に入れそうな手。それが今は愛おしいと思った。

 「じゃあ、遊ぼう」

 そう言った。

 「なあ」
 「なに?」
 「お前はどれくらい将棋をやってるんだ?」
 「昔は気づいた時にはいつでもかな。だけど、最近は息抜きしてる」
 「小学生の時は」
 「友達いなかったよ。それがどうしたの?」

 やっぱりか、と思った。こいつも同じたちだ。
 将棋に命を懸けてきた人だ。

 「ふうん、何でもねえよ」

 俺は言った。

 別にそれを言ったから、今どうにかなる話でもねえからよ。

 そして、二人でどんどんと先へと進んでいく。


 そして早速、俺たちはジェットコースターに乗りこんだ。


 これに乗るのは正直久しぶりだ。だから、多少なりともビビってる部分はある。
 だけど、こいつの前で弱い俺は見せられない。

 俺は、強がって、

 「楽しみだな」

 そう、歯を突き立てて行った。すると、雨宮も「うん」と頷いて見せた。

 そして、早速ジェットコースターが走り出していく。

 大丈夫だ。耐えられるはずだ。俺は歯を強く噛んで、耐える姿勢を見せる。


 結果から言うと、大丈夫だった。むしろ、楽しいとさえ思えた。
 中々スリルがあって、楽しい物だった。

 「こういうの好きなんだよね」


 降りた後雨宮は言った。

 「だって、将棋とはまた違った楽しみがあるから」
 「そうだな」

 ジェットコースタ、それは肉体に語り掛けるような激しさがある。将棋を指していると頭は突かれるが肉体への疲労はやってはこない。しかし、

 これは別だ。これは、体に突き刺すような楽しみを与えてくれる。それが楽しいのだ。

 「まだまだ乗ろうぜ」

 俺はそう提案した。その言葉に奴は「うん」と元気よく言った。
 そこからもどんどんと乗っていく。その中で俺たちは楽しみを覚えていた。

 そして、昼ご飯を食べに行く。
 疲労がたまったのと、お腹もまた空いたからだ。


 「ねえ、安田君」
 「なんだ?」
 「僕誰かと一緒にご飯を食べるなんて久しぶりなんだよね」
 「そうなのか」
 「うん」

 頷く。

 「それに僕、誰かと一緒に遊ぶのも初めてなんだ。だから、今日は本当にありがとう」


 そう言って頭を下げるやつ。

 「早えだろ」

 俺はそれに対して、ツッコんだ。

 「まだ、一日は終わってねえんだからよ」
 「そうだね」

 彼はそう言って、

 「でも、お礼を言わせてほしいんだ。ありがとう」
 「そんな改まる事じゃねえよ」

 そうだ、むしろそんな感謝をされた方が気分が悪い。
 と言うよりもどうしたらいいか分からなくなる。

 「だから、いつも通り接してくれよ。まああってからまだ一週間たってねえんだけどな」
 「ありがとう」

 今日は良くありがとうと言う言葉を聞くな、なんて思った。だけど、まあ、それがあいつの気持ちならばそれを否定しすぎるのも良くねえかもしれないと思った。

 「それで嫌だったら別にいいんだけど」
 「おう、なんだ?」

 そんな、前置きまでして。

 「僕の話を少し聞いてほしいんだ」
 「おう、いいけど」
 「ありがとう。そんな長くならないから安心して」

 時間か掛からない、か。

 どんな話をするのだろうか。

 「僕は、両親がいないんだ」
 「両親がいない、か」

 頷いた。

 「両親は、死んだんだ。僕が小さなときに。だけどそれでよかったと思ってる。だって、両親は僕を愛してくれなかったから」
 そこまで行ってから、

 「やっぱりこの話辞めるね。面白くないかもしれないし、ただ僕の愚痴みたいになるかもしれないから」
 「ここまで行って辞めるのは無しだろ」

 流石にそこまで話されたら、気になってしまう。

 「僕はね、将棋を指し過ぎて嫌な奴だと思われてたんだよね。僕の周りには将棋を指す人なんていなかったし、親は将棋に熱中している僕を見て行ったんだ。頭がおかしいって」
 「頭がおかしいっていうやつの方がおかしいだろ」
 「そうだよね。でも、僕はその時ショックを受けたんだ。勿論、僕は将棋を継続して言ったけどね」

 そして、笑う。

 「だから、僕は友達も作らなかったし、……一応形的に将棋部には入部したけど、でもやめようかと思ってた。僕とは本気度が違うから。でも、だから君がいてくれて本当にありがたかったんだ。その気持ちは嘘じゃないと、思ってる」
 「そんなことを想っていたのか」

 俺は、彼の頭を優しく撫でる。

 「俺がお前を孤独にはさせねえよ。孤独なのは俺も一緒だからな」

 俺も一緒だ。
 俺を天才だとあがめるやつ。おかしいだろ、俺は凡人なりに努力しただけなのに。

 「俺は最初、お前に負けて嫌だった。だけど、日を置いて思ったんだ。俺とまともに将棋がさせるやつが出てきて嬉しいってな。だから、これからも将棋を指そうぜ」
 「ありがとう。それで……早速指そうよ」

 そう言って彼は、将棋アプリを差し出す。

 「こういうのって邪道かな」
 「そんなことはないと思うぜ」

 俺はそう言って笑った。
 早速俺と奴の二人の対局が始まっていく。

 持ち時間は10分+30秒だ。多分、25分くらいで終わるだろう。

 遊園地に来て将棋を指すたあ、どういうことかと、思う気持ちはある。だけど、将棋を指したいという気持ちは確かにあぅた。
 結局俺たちは異常者なんだ。そしてそれはプラスだと思ってる。

 俺たちの周りとは違う、いい面だと俺は思っているのだ。

 俺たちは食事を取りながら将棋を指す。持ち時間正には慣れていない。すぐに持ち時間は切れていき、秒読みとなった。
 俺たちはその間二人で会話をしながら将棋を指して行った。
 その時間は楽しいものとなったという事は言うまでもないだろう。

 俺たちは二人で会話をしながら将棋を楽しんだ後、遊園地の後半戦にやってきた。



 そこでも俺たちは互いに会話をしながら遊びつくしたのだった。





 「今日は楽しかった。ありがとう」

 そう、奴は言った。

 俺は、

 「どういたしまして」

 と言った。

 「こっちも楽しかったよ」

 事実、俺も楽しかった。
 楽しくて、正直将棋以外でここ最近で一番楽しかったかもしれねえ。

 俺は将棋を指せなかった時、色々と遊んできた。だけそ、そのどれもあまり楽しくなかったことを覚えている。
 それはきっとそう言う事なのだろう。

 こいつと一緒だから楽しいのだ。
 逆に言えばこいつと一緒じゃなかったら楽しくなかったという事。

 「俺の方こそ感謝してる。ここに読んでくれて」
 「うん」

 そして、彼は俺の方に駆け寄った。
 そして、

 「何してんだよ」

 俺のお腹に抱き着いた。

 「僕がしたかったからしたいんだよ」
 「意味わかんねえよ」
 「僕からのお礼と言う事で」

 そして、ニコッと笑った。

 「ねえ、今度将棋大会に一緒に出ない?」

 そしてチラシを見せて来る。それは、アマチュアの大会の最高峰の大会だ。

 「ここでまた戦おうよ」

 そう言ってきた。
 完全なるトーナメント制だ。そして、県から一人しか出れない。

 「ここで、僕たちで決着をつけようよ」
 「決着って、今の所俺が完膚なきまでに負けている気がするが」
 「そんなことないよ。今日は本当に危ないと思ったよ」
 「それはご飯に夢中になって、残り時間が少なくなったからだろ」

 30秒しか思考時間が無いのに、その時間にひたすらにラーメンをすすっていたからだ。
 そのせいで思考時間が無くなり、おかしな手を指すこととなった。

 「別にいいでしょ。細かい事は良いじゃん」
 そして、にこやかに笑い。

 「お願い、ここで僕に勝って」

 そう、熱心な声で言い放ったのだ。



 その次の日、俺たちは部長に相談に行った。
 一応出場には部長の許可がいるのだ。

 その返答は当然ながらいいよ、という物だった。

 「その代わり、勝って来いよ」

 部長の言葉に、俺たちは頷いた。

 そこからは、二人で部室に行けば、二人将棋の鍛錬、そして感想戦を念入りに行った。

 その中で、勝てる将棋は無かったが、段々と将棋の神髄に近づいて行っているのでは無いかと、思い始めている。
 このままいけば、将棋が強くなれる。それこそ、世界で有数の実力者になれる。

 そう思うと、毎日が楽しく思え始める。

 しかし、忘れてはならないのはその度に上手くなっているのは奴も一緒だという事だ。だけど、それで何が不都合がある。ライバルが上手な方が、楽しいのは当然の事なのだ。