俺が負けた。初めて負けた。
まさかこんなところで、負けるなんて。
俺にとって将棋なんて言うのは、勝つことが当たり前の物だった。
だからこそ、俺は今まで負けたことが無かった。
なのに、まさかこんなところで負けてしまうとは夢にも思わなかった。
俺は、初めて絶望を覚えた。
俺が今まで磨いてきた術が全く通じない。得意戦法の、角換わりで、負けるなんて思わなかった。
プライドが鬼傷ついた。
なのに、奴は、
「ありがとうございました」
そう言って、クールに去って行った。
ふざけんな。俺なんて眼中でもねえのか。
俺との勝負すら面白くなかったのか。
ふざけんな
ふざけんなふざけんなふざけんな
ふざけんな!!
なんで俺が負けなきゃならないんだ。
なぜ、俺がなぜ俺が、なぜ俺が!!
こんなムカつくやろうに。
俺は屈辱的な気持ちで『参りました』なんて言ったのに、こいつはそれをさも当然なように。
許せねえ、許せねえ。
死んでしまえ。
俺の中の気持ち悪い、負の感情が上へと這い上がっていく。
その中で感じるのはただ、無念な気持ちだけだ。
総当たり戦だから、まだ優勝のチャンスはあった。
だけど、俺はそれ以上指すのは無理だった。
将棋に熱が入る感じはしなかった。
次からの将棋は、集中できずに、俺は五連敗してしまった。
今まで負けたことは無かった。
無かったのに、
俺は泣きそうな気分になった。
俺はここまで、メンタルが崩れたことは無かった。
何となくこの世のすべてが牢獄のように思えた。
俺はただただただただただただただただ—―
死にたくなった。
そのまま俺は将棋を引退した。
将棋の駒を持てば手が震え、そのまま涙が出てくるのだ。
指せたとしても、すぐに絶望感に見舞われて、
もう終わりだったかのように思えた。
そして、高校へと進学した。
高校にも将棋部があるらしい。だけど、俺は将棋をまた指す気にはならなかった。
将棋はもうごめんなのだ。
将棋はもう指したくない。指したくない。
指すくらいなら死んでしまいたいくらいの気持ちだった。


