本命はメレンゲで隠して

「部活終わったら大丈夫、部活終わったら大丈夫……」

 ブツブツとオウムか何みたいに何度も同じ言葉を繰り返しながら、グラウンドに向かった。

 今日は少しメニューを変えて、まずスプリントをしたら緩やかな傾斜を五本くらい走るから、しっかり切り替えないと。

 その後トラックで短距離の走り込みをして、それから……。

「キャー!」

「っ……!?」

 ふと女子特有の黄色い歓声? 悲鳴がグラウンドから聞こえてきて、小さくたたらを踏んだ。

 見れば十人以上の女子の中心に長身の男子生徒が立っていて……ってあれ、あのサラサラした茶髪、拓斗じゃね?

 遠目から見ても拓斗が困ってるように見えて、俺は小走りで女子が集まってる場所に向かった。

「拓斗!」

 走りながら親友の名前を呼ぶと、女子よりもいち早く俺に気付いた拓斗と目が合った。

「……隼」

 どこかホッとしたような、でもいつもの『みんなの王子様』然とした拓斗だ。

「隼のこと待ってたんだ。今、ちょっとだけ時間ある?」

 拓斗が女子の中を掻き分けて、にこにことした笑顔で俺に近付いてくる。

「え、俺を……?」

 なんで、と首を傾げていたら、なぜか拓斗を囲んでいた女子の視線が強くなったような。あれ、もしかして俺って邪魔でした? 話し掛けない方がよかったか?

 そんなことを思ってると、拓斗の手が俺の手首をぐいと摑んだ。

「すぐに終わるから。ね、おねがい」

「うっ……」

 眉を八の字にさせて、拓斗がじっと俺を見下ろしてくる。

 きゅんきゅん鳴いてる幻聴までしてきて、なんなら犬の耳と尻尾が見えてきた。疲れてんのかな俺。

 でも拓斗の後ろに居る女子達が俺を睨み付けてて、十人以上の圧も相まってつい口を開いた。

「……ちょっとだけ、なら」

「やった、ありがと」

 ふにゃりと拓斗が笑う。

 こういうのをあざといと言うかなんというか……いや、俺からしたら作ってる顔なんだけどさ。

 もし断ったら多分了承するまで動かないし、部活も無いみたいだから、俺が休憩するまでずっとグラウンドに居るだろう。

 その間、女子達は拓斗から離れない。……自分で言うのもなんだけど、俺も世間一般からしたらイケメンの部類だと思うんですよね。

「コーチに言ってからな」

 だから一旦離せ、という意味で軽く手を引くと、その反動のまま拓斗の手が離れていく。

「っ」

 流れで手首に視線を落とすと、うっすらだけどあいつの手の痕が付いていた。

 どんだけ力入れてたんだよ。……あんま痛くなかったけど。

 でも自覚した途端、じわりと手首に自分以外の熱が触れられたところから全身に巡っていくのを感じて、俺は熱さを振り切るようにコーチの元に走った。