エースが告白を撤回させてくれません

 それから地下のクレープ屋で、俺はいちごホイップを、柳井はバナナチョコホイップを買った。
 柳井は意外にも甘党らしく、ひと口食べるたびに「うま」と小さくつぶやいていた。

「なんか女子みたいだな。俺ら」
「小鞠も食べる?」
「いらん」
「ひと口」
「だからいらんて」
「おいしいのに」
 しょげる柳井がおかしかった。
「なんでそんなに食べさせたがんの」
「共有したいから」
「なんだそれ」
「そっちはおいしい?」
「うまいよ」
「よかった」

 まさか俺のクレープを味見したいって言うんじゃないだろうな。身構えていたから、それ以上何も言ってこなくて拍子抜けする。
 
 甘いものが好きなら、柳井がこれを食べたらどんな反応をするんだろう。 
 ちょっとお腹いっぱいになってきたし、あげてもいいかな。
 俺は持っていたいちごホイップのクレープを「ほい」と差し出した。

「えっ」
「ちょっと食べる?」
 柳井は意外な顔をして、「……いいの?」と聞いてくる。
「はーい、口開けてー」
 柳井の口元にクレープを差し出してから俺はハッとした。

 あれ? 俺なにしてんの? なんで柳井に『あーん』しちゃってんの!?

 時すでに遅し。

 柳井の大きな手に手首を優しく掴まれる。そのまま固定された俺のクレープに、柳井が頭を落とした。形のいい口がパクッとかぶりつく。

「……っ!」
「うん、おいしい」
 顔を上げながら、口元についたホイップを親指で拭う。なんてことない仕草のはずなのに、妙に心がざわついた。
 あれ、今のって実質間接キスでもあるんじゃ……? そう思ったら、顔から火を噴くほど恥ずかしくなった。

「どうしたの?」 
「なんでもない……」
 ていうか柳井って、こんなにかっこよかったっけ? 
 イケメンなのは前から知ってたけど、見ていると胸が痛くなるほどかっこいいと思ってしまう。
 こんな気持ち、俺は知らない。

 そんなやり取りをしながらモールを出ると、気づけば空は夕焼け色になっていた。
「やば。もうこんな時間なんだ」
「ほんとだ」
「なんかあっという間だったなー」
「うん」
 柳井が小さく笑う。
「楽しかった」
「……そうだな」
 今日は自分でも驚くほど楽しかった。おそろいでラッコのマスコットをゲットし、クレープも食べた。こうして肩を並べて、駅までの道のりを一緒に帰っている。
 本当に付き合っていたとしたら、ここで手を繋いだりするのかな。
 柳井と手を繋ぐ。
 さっき俺の手首を掴んだあの手と?
 想像してみたけれど、全然嫌じゃなかった。

「小鞠」

 信号が青になるのを待っていると、低い声に呼ばれた。
「ん?」
 隣を見上げると、すぐそばに柳井の顔があった。鼻が触れそうなほどの至近距離。

 近い。近すぎる。

 このままじゃ、後ろからちょっと押されたら唇が触れる。キスしてしまう。

「柳井……?」

 名前を呼ぶと、柳井がハッとなって頭を引いた。一歩下がり、息を呑む。

「ごめん」
「な、なにが?」
 目線を逸らした柳井は、困ったように眉尻を下げた。

 なんだよ、その顔。

「……なんでもない」

 ちょうどそのとき、信号が青に変わった。

「行こ」

 先に歩き出した背中を見ながら、俺は呆然と立ち尽くす。

 今の、なんだったんだ。