というわけで、俺たちが放課後にやってきたのはショッピングモールだ。
土日は家族連れが多いけれど、今日みたいな平日は近隣学校の生徒たちが多い。学校帰りに寄る場所になっているみたいだ。
「今日人多くね」
「さっき噴水のところでイベントやるって言ってた」
「なんの?」
「さあ」
柳井は興味なさそうな声とともに、スマホから顔を上げた。モールの案内マップをネットで見ていたようだ。
「とりあえず二階行ってみる?」
「そうだな。ここは場違いだろーし」
今いるのは、十代女子が好きそうな服やアクセサリーの店が並んでいる一階フロアだ。さすがにここでおそろいのものを探すのは無理があると思った。
「二階にゲーセンあるって」
「まじ?」
柳井が言うには、キャラクターショップやガチャガチャエリアもそこにあるらしい。それならそっちに移動したほうがいいだろう。
俺が前、柳井が後ろの一列になって、上りのエスカレーターに乗りこむ。
ふいに背中に柳井の体温を感じる。しかも手すりに置いた柳井の腕が、後ろから伸びてきて俺の横にある。
なんかこう……包まれているというか、距離が近くない? わかってやってんのか?
どこを見たらいいのかわからなくなる。真横にある柳井の腕から、俺は逃げるように視線を上げた。
ちょうどそのタイミングで、二階から下りてくるエスカレーターに乗った女子高生ふたり組と目が合った。
それも一瞬のことで、女子ふたりの視線は俺のすぐ後ろに注がれる。
流れるエスカレーターの上。すれちがったあとも彼女たちが目を追うのは、まちがいなく柳井だった。
やっぱり柳井ってイケメンなんだな。さらに水泳のエースだって知ったら、あの子たちはもっと目を輝かせるんだろうか。
「めっちゃ見られてたけど」
ボソッと指摘する。でも柳井は他校の女子から見られていることに、まったく気づいていなかったらしい。
「だれに?」
「女子だよ。けっこう可愛い感じだった」
「へえ」
俺ら男子高校生にとって、街ですれちがった女子が可愛かったらラッキーじゃないのかよ。
でも柳井は表情ひとつ変えない。なんなら二階に着き、ゲーセンに入ったときのほうが嬉しそうだった。
「ゲーセン久しぶりに来た」
「おお~、ここめっちゃクレーンゲームあるじゃん」
「小鞠はクレーンゲーム好き?」
「うーん、そこまでじゃないかなぁ。無駄に金かかるし」
「俺は好き」
普段はローテンションな柳井の無防備な『好き』という言葉に、トクンと胸が弾んだ。
いやいや、柳井はクレーンゲームのことを好きって言っただけだろ。なに過剰に反応してんだよ俺は。
でも嬉しそうな柳井を見ていると、なんでだろう。もっと喜んでほしいって思う。
「じゃあ景品にする?」
「え?」
「おそろいのもの。クレーンゲームの景品にアクキーとかマスコットとかあるし」
そう言うと、柳井は驚いたような顔をした。そしてにぎやかな周りを見渡したあと、あるゲーム機器を見て止まった。
「これ」
柳井が指差したのは、クレーンゲームの中に並んだふたつの小さなラッコのマスコットキーホルダーだった。ひとつは貝殻を、もうひとつは魚を抱えている。
「なにこれ。なんのキャラ?」
「知らない」
「知らないのにほしいんかい」
「小鞠は知ってる?」
「見たことねーな」
柳井はふと笑って「おそろいはこれがいい」と言った。
「なんのキャラかわかんないのに?」
「うん。かわいくない?」
かわいいか……? どちらかというとブサイク系だと思うけど。
そうこうしているうちに、柳井がクレーンゲームに挑戦しはじめた。けれど、何回やってもラッコのマスコットがアームから抜け落ちていく。
なんていうか……うん。めちゃくちゃ下手だった。
これじゃいくら時間とお金があっても足りないだろう。
次々とコイン投入口の中に消えていく百円玉があまりにももったいない。しびれを切らした俺は「ストーップ!」の声で不器用な手を止めた。
「俺がやる」
「いい。俺が取る」
「いいから! 柳井はそこで見といて」
「でも小鞠、クレーンゲーム好きじゃないんだろ」
「好きじゃないけど得意なの!」
五歳上の兄貴がやっているのを横でよく見ていたから、コツがわかるのだ。
宣言通り、俺は三プレイでひとつを、もうひとつのペンギンにいたっては一発で取ることができた。
「すごい。小鞠すごい」
涼しい美形の奥から興奮が伝わってくる。
「そんな特技あったんだ」
「まあな。それよりどっちがどっちのラッコにする?」
「小鞠が先に選んで」
「俺はべつにどっちでも――っていうか、待って。これはさすがに柳井すぎない?」
魚を抱えたほうのラッコを見て、思わず吹き出した。
「弁当のとき、いつもサバ缶持ってくるじゃん。なんか柳井っぽいわ」
キャッキャと笑いながら渡すと、柳井は優しげに笑って手元のそれを見つめた。
「小鞠がそう言うなら、俺はこっちがいい」
胸がきゅっと掴まれる。
あれ?
「小鞠は貝殻のほうでいい?」
「べ、べつに俺はどっちでも――」
あれれ?
「このあとまだ時間ある?」
「え、うん。まあ」
「何か食べよう。なにがいい?」
「ク、クレープとか?」
流れるように答えてしまった。
柳井はスマホで検索し、「クレープなら地下にあるって」と言う。続けて、
「いこう」
「う、うん……」
あれれれれ?
ゲーセンから出て、クレープ屋を目指しながら俺は思った。今さらかもしれない。でも今気づいた。
もしかしてこれってデートじゃね?
土日は家族連れが多いけれど、今日みたいな平日は近隣学校の生徒たちが多い。学校帰りに寄る場所になっているみたいだ。
「今日人多くね」
「さっき噴水のところでイベントやるって言ってた」
「なんの?」
「さあ」
柳井は興味なさそうな声とともに、スマホから顔を上げた。モールの案内マップをネットで見ていたようだ。
「とりあえず二階行ってみる?」
「そうだな。ここは場違いだろーし」
今いるのは、十代女子が好きそうな服やアクセサリーの店が並んでいる一階フロアだ。さすがにここでおそろいのものを探すのは無理があると思った。
「二階にゲーセンあるって」
「まじ?」
柳井が言うには、キャラクターショップやガチャガチャエリアもそこにあるらしい。それならそっちに移動したほうがいいだろう。
俺が前、柳井が後ろの一列になって、上りのエスカレーターに乗りこむ。
ふいに背中に柳井の体温を感じる。しかも手すりに置いた柳井の腕が、後ろから伸びてきて俺の横にある。
なんかこう……包まれているというか、距離が近くない? わかってやってんのか?
どこを見たらいいのかわからなくなる。真横にある柳井の腕から、俺は逃げるように視線を上げた。
ちょうどそのタイミングで、二階から下りてくるエスカレーターに乗った女子高生ふたり組と目が合った。
それも一瞬のことで、女子ふたりの視線は俺のすぐ後ろに注がれる。
流れるエスカレーターの上。すれちがったあとも彼女たちが目を追うのは、まちがいなく柳井だった。
やっぱり柳井ってイケメンなんだな。さらに水泳のエースだって知ったら、あの子たちはもっと目を輝かせるんだろうか。
「めっちゃ見られてたけど」
ボソッと指摘する。でも柳井は他校の女子から見られていることに、まったく気づいていなかったらしい。
「だれに?」
「女子だよ。けっこう可愛い感じだった」
「へえ」
俺ら男子高校生にとって、街ですれちがった女子が可愛かったらラッキーじゃないのかよ。
でも柳井は表情ひとつ変えない。なんなら二階に着き、ゲーセンに入ったときのほうが嬉しそうだった。
「ゲーセン久しぶりに来た」
「おお~、ここめっちゃクレーンゲームあるじゃん」
「小鞠はクレーンゲーム好き?」
「うーん、そこまでじゃないかなぁ。無駄に金かかるし」
「俺は好き」
普段はローテンションな柳井の無防備な『好き』という言葉に、トクンと胸が弾んだ。
いやいや、柳井はクレーンゲームのことを好きって言っただけだろ。なに過剰に反応してんだよ俺は。
でも嬉しそうな柳井を見ていると、なんでだろう。もっと喜んでほしいって思う。
「じゃあ景品にする?」
「え?」
「おそろいのもの。クレーンゲームの景品にアクキーとかマスコットとかあるし」
そう言うと、柳井は驚いたような顔をした。そしてにぎやかな周りを見渡したあと、あるゲーム機器を見て止まった。
「これ」
柳井が指差したのは、クレーンゲームの中に並んだふたつの小さなラッコのマスコットキーホルダーだった。ひとつは貝殻を、もうひとつは魚を抱えている。
「なにこれ。なんのキャラ?」
「知らない」
「知らないのにほしいんかい」
「小鞠は知ってる?」
「見たことねーな」
柳井はふと笑って「おそろいはこれがいい」と言った。
「なんのキャラかわかんないのに?」
「うん。かわいくない?」
かわいいか……? どちらかというとブサイク系だと思うけど。
そうこうしているうちに、柳井がクレーンゲームに挑戦しはじめた。けれど、何回やってもラッコのマスコットがアームから抜け落ちていく。
なんていうか……うん。めちゃくちゃ下手だった。
これじゃいくら時間とお金があっても足りないだろう。
次々とコイン投入口の中に消えていく百円玉があまりにももったいない。しびれを切らした俺は「ストーップ!」の声で不器用な手を止めた。
「俺がやる」
「いい。俺が取る」
「いいから! 柳井はそこで見といて」
「でも小鞠、クレーンゲーム好きじゃないんだろ」
「好きじゃないけど得意なの!」
五歳上の兄貴がやっているのを横でよく見ていたから、コツがわかるのだ。
宣言通り、俺は三プレイでひとつを、もうひとつのペンギンにいたっては一発で取ることができた。
「すごい。小鞠すごい」
涼しい美形の奥から興奮が伝わってくる。
「そんな特技あったんだ」
「まあな。それよりどっちがどっちのラッコにする?」
「小鞠が先に選んで」
「俺はべつにどっちでも――っていうか、待って。これはさすがに柳井すぎない?」
魚を抱えたほうのラッコを見て、思わず吹き出した。
「弁当のとき、いつもサバ缶持ってくるじゃん。なんか柳井っぽいわ」
キャッキャと笑いながら渡すと、柳井は優しげに笑って手元のそれを見つめた。
「小鞠がそう言うなら、俺はこっちがいい」
胸がきゅっと掴まれる。
あれ?
「小鞠は貝殻のほうでいい?」
「べ、べつに俺はどっちでも――」
あれれ?
「このあとまだ時間ある?」
「え、うん。まあ」
「何か食べよう。なにがいい?」
「ク、クレープとか?」
流れるように答えてしまった。
柳井はスマホで検索し、「クレープなら地下にあるって」と言う。続けて、
「いこう」
「う、うん……」
あれれれれ?
ゲーセンから出て、クレープ屋を目指しながら俺は思った。今さらかもしれない。でも今気づいた。
もしかしてこれってデートじゃね?

