エースが告白を撤回させてくれません

 足をくじいてから一週間。
 もうすぐ部活に出られそうなぐらい、俺の足は順調に回復してきている。

「柳井ってさ、今ほしいものとかない?」

 昼休み。筋トレルームの壁際に座り、一緒に昼めしを食べながら俺は尋ねた。
「ほしいもの?」
「そー、鉛筆削りとかクレヨンとか」
「小鞠がくれるならほしい」
「すまん。俺の聞き方が悪かったわ」
 ガチレスされたあと、柳井に遠回しな言い方はまちがっていたと反省した。

「リアルにほしいものがあればそれでもいいんだけどさ」
「どういうこと?」
「こないだのお礼がしたいなと思いまして」
「お礼? 俺、小鞠になにもしてないけど」
 本気でそう思っているのか、柳井がキョトンとしながら俺を見た。
「先週送ってくれたじゃん。俺が足くじいた日に、家まで」
「ああ」
「これでも感謝してるんだよ。大会前なのに申し訳なかったっていうか」
「そんなこと、小鞠は気にしなくていいよ」
「いや、するだろ」
 柳井はうちの学校のエース。日常のほとんどを水泳に捧げているような男だ。俺を担いだことによって、パフォーマンスが落ちたりしないか心配だった。
 けれど俺の心配をよそに、柳井は目を細めて微笑んだ。

「彼氏だから?」

 その言い方と、不意打ちに見せる優しい笑顔。思わずキュンとしてしまい、反論できなかった。

 やばいな。最近柳井の彼氏発言に対して咄嗟に言い返せない。あのとき勘違いされた告白に関しても、全然撤回できていない。
 俺はどうしちゃったんだろう。むしろ柳井のそういった発言を期待している自分がいる。うまい返しなんて、少しもできていないのに。

「と、とにかく! 特に希望ないならまた黒糖にするからな」
 なんとかそう言ったものの、顔が熱いのが自分でもわかる。赤くなってたらどうしよう。
「ほしいものある」
 そのとき、柳井が急に言い出した。

「なんだよ。あるなら早く言えって――」
「おそろい」
「は?」
「小鞠とおそろいのものがほしい」 
 おそろいってなんだ? キーホルダーとかストラップ? それともシャーペンとかノートみたいな文房具用品で?
「いや、おそろいって……」
 そんなものをふたりで持っていたら、ますますカップルぽくないか?
 いやでも、たしかダンス部の女子もヘアアクセとかおそろいで持ってたっけ。クラスの男子もゲームの同じキーホルダーをつけていたりする。じゃあそこまで珍しいことじゃないか……たぶん。

「嫌?」
「べつに嫌じゃないけど」
「じゃあ今日いこう」
「部活は?」
「ない。テスト週間だし」
「あ、そっか」
「来月インハイ予選あるから、早めがいい」
「へー、じゃあ来月忙しいんだ?」
「たぶん」

 そうとなれば、今日が都合いい、のか?

「んじゃ、今日の放課後にするか」

 言ってから、まるで俺も乗り気みたいじゃねと思った。なんで今普通にオッケーしたんだろ。

 考えれば考えるほどわからなくなる。俺はとりあえず弁当のおかずの卵焼きを口に放りこんだ。