四時間目が終わると、すぐに柳井は俺の前にやってきた。逃げる隙も与えないほどの勢いだった。
ふたりでお弁当を食べる場所に選んだのは、屋上プールに続く非常階段の下。昨日柳井にまちがって(?)告白した場所でもある。
「絶対怪しまれたよ……」
階段に腰を落としながら、俺は大きくため息をついた。ふたりで教室を出るとき、クラス中の視線が背中に刺さった。帰ったら後藤やほかのクラスメイトから何を言われるやら。
「べつによくない? 付き合ってるんだし」
「だから付き合ってないって」
何度撤回しても、柳井はその部分だけ華麗にスルーする。
「あ、おかず。プチトマト入ってる」
柳井が俺の弁当の中身を覗いてくる。
「弁当にプチトマトとか普通っしょ」
「でも嫌いじゃなかった?」
「まあ中学のころはそんなに――って、あれ。俺、柳井にプチトマトが苦手って言ったことあったっけ」
「言ってない。でも隣で聞いてた」
「え、いつ?」
「大会」
「中学のときの?」
「うん。俺らの学年だけで食べたとき」
どの大会だったか思い出せないけど、たしかに水泳の大会でみんなと昼飯を食べたことがあったかもしれない。
中学最後の一年間はマネージャーだったから、俺は観客席で昼飯をひとりで食べていた。ということは、選手として泳いでいた一年か二年の話かな。
ま、いいや。
プチトマトを食べながらふと隣を見ると、柳井が弁当を広げているところだった。
そのラインナップを見た瞬間、俺は思わずトマトを吹き出しそうになった。
「ちょっと待って」
「なに?」
「それ、サバ缶じゃん」
「そうだけど」
「渋。ていうかそれだけ?」
「米もある」
そう言いながら出してきたのは、ラップに包まれたこぶし大の白米と牛乳パックだった。なんか白い。
「つーか少なくね? 特に野菜系」
「そうかな」
「そうだよ。スポーツしてるんだから、もうちょっと気にしたほうがいいんじゃねーの。栄養とかさ」
「栄養的にはまぁ。いつも学食で食べてるから」
「あ、そうなんだ」
「うん。だから今日だけならべつにこれでも」
たしかにサバ缶も牛乳もたんぱく質はまあまああるか……じゃなくて。
「いつも学食なら、今日もそっちにすればよかったじゃん」
「でも小鞠が弁当だった」
まさか俺に合わせて今日弁当を持ってきたのか?
うちの高校は学食に弁当を持ちこめない決まりになっている。弁当組と学食組は、基本一緒に食べることができない。
「もし俺が今日は学食にするって言ってたら、そのサバ缶たちはどうなってたんだよ」
「べつで食べるつもりだった」
即レスする柳井に「健気か」とツッコむ。
今朝から俺の昼事情に合わせるつもりで弁当……というか昼飯を持ってきたのか。
柳井の甲斐甲斐しさに胸を打たれる。胸の奥がじんとして、申し訳なかったなと思った。
付き合ってると思っているのは向こうだけ。柳井が勝手にやったことだから、俺が罪悪感に駆られる必要はないはずだけど。
俺の所属するダンス部は練習も雰囲気もゆるい。それに比べて、柳井はスポーツ雑誌に載るようなスター選手だ。
食事に関しては俺のことなんて気にせず、ちゃんと摂ってほしかった。
「今度からは、前の日とかに確認してよ。せっかく連絡先交換してるんだからさ」
「確認?」
「昼めし。弁当なのか、学食なのかって」
「また一緒に食べてくれるの?」
「うっ……まあ、気が向けば」
柳井はサバ缶と白米を食べる手を止め、表情をほころばせた。
教室で見る柳井はいつも表情が硬く、やわらいだと思ったら眠そうにあくびなんかしている。中学のころだって、部活中ずっとピリピリして、自分のタイムにしか目がないようなやつだったのに。
こんな顔するんだ。
意外な表情に見つめられ、不覚にもキュンとした。
ますます告白を撤回しにくくなりそうなので、柳井には言わないけれど。
ふたりでお弁当を食べる場所に選んだのは、屋上プールに続く非常階段の下。昨日柳井にまちがって(?)告白した場所でもある。
「絶対怪しまれたよ……」
階段に腰を落としながら、俺は大きくため息をついた。ふたりで教室を出るとき、クラス中の視線が背中に刺さった。帰ったら後藤やほかのクラスメイトから何を言われるやら。
「べつによくない? 付き合ってるんだし」
「だから付き合ってないって」
何度撤回しても、柳井はその部分だけ華麗にスルーする。
「あ、おかず。プチトマト入ってる」
柳井が俺の弁当の中身を覗いてくる。
「弁当にプチトマトとか普通っしょ」
「でも嫌いじゃなかった?」
「まあ中学のころはそんなに――って、あれ。俺、柳井にプチトマトが苦手って言ったことあったっけ」
「言ってない。でも隣で聞いてた」
「え、いつ?」
「大会」
「中学のときの?」
「うん。俺らの学年だけで食べたとき」
どの大会だったか思い出せないけど、たしかに水泳の大会でみんなと昼飯を食べたことがあったかもしれない。
中学最後の一年間はマネージャーだったから、俺は観客席で昼飯をひとりで食べていた。ということは、選手として泳いでいた一年か二年の話かな。
ま、いいや。
プチトマトを食べながらふと隣を見ると、柳井が弁当を広げているところだった。
そのラインナップを見た瞬間、俺は思わずトマトを吹き出しそうになった。
「ちょっと待って」
「なに?」
「それ、サバ缶じゃん」
「そうだけど」
「渋。ていうかそれだけ?」
「米もある」
そう言いながら出してきたのは、ラップに包まれたこぶし大の白米と牛乳パックだった。なんか白い。
「つーか少なくね? 特に野菜系」
「そうかな」
「そうだよ。スポーツしてるんだから、もうちょっと気にしたほうがいいんじゃねーの。栄養とかさ」
「栄養的にはまぁ。いつも学食で食べてるから」
「あ、そうなんだ」
「うん。だから今日だけならべつにこれでも」
たしかにサバ缶も牛乳もたんぱく質はまあまああるか……じゃなくて。
「いつも学食なら、今日もそっちにすればよかったじゃん」
「でも小鞠が弁当だった」
まさか俺に合わせて今日弁当を持ってきたのか?
うちの高校は学食に弁当を持ちこめない決まりになっている。弁当組と学食組は、基本一緒に食べることができない。
「もし俺が今日は学食にするって言ってたら、そのサバ缶たちはどうなってたんだよ」
「べつで食べるつもりだった」
即レスする柳井に「健気か」とツッコむ。
今朝から俺の昼事情に合わせるつもりで弁当……というか昼飯を持ってきたのか。
柳井の甲斐甲斐しさに胸を打たれる。胸の奥がじんとして、申し訳なかったなと思った。
付き合ってると思っているのは向こうだけ。柳井が勝手にやったことだから、俺が罪悪感に駆られる必要はないはずだけど。
俺の所属するダンス部は練習も雰囲気もゆるい。それに比べて、柳井はスポーツ雑誌に載るようなスター選手だ。
食事に関しては俺のことなんて気にせず、ちゃんと摂ってほしかった。
「今度からは、前の日とかに確認してよ。せっかく連絡先交換してるんだからさ」
「確認?」
「昼めし。弁当なのか、学食なのかって」
「また一緒に食べてくれるの?」
「うっ……まあ、気が向けば」
柳井はサバ缶と白米を食べる手を止め、表情をほころばせた。
教室で見る柳井はいつも表情が硬く、やわらいだと思ったら眠そうにあくびなんかしている。中学のころだって、部活中ずっとピリピリして、自分のタイムにしか目がないようなやつだったのに。
こんな顔するんだ。
意外な表情に見つめられ、不覚にもキュンとした。
ますます告白を撤回しにくくなりそうなので、柳井には言わないけれど。

