ダンス部の文化祭ステージで寸劇をやることになったのはいいけれど、俺、小鞠大和は思う。
「好きです! 付き合ってください!」
そんな相手が困りそうな告白、今どきするやついなくない?
寸劇はカップルの出会いから付き合うまでの物語らしい。そして男子部員は俺のひとりだけ。必然的に俺が彼氏役になった。
女子部員に囲まれて、断ることは許される雰囲気じゃなかった。しかもダンス部の部長が「告白するときさぁ、彼女に手を差し出したほうがよくない?」と言い出した。俺は壊滅レベルの演技力で、告白シーンを披露したんだ。
で、披露したらしたで「なんか違う」と言われるもんだから、精いっぱいの弁解をしたのがさっきのこと。
「俺、告白とかしたことないです」
「そんなの関係ないよー」
「寸劇でちょっとやるぐらいなら、女子でもよくないですか。彼氏役」
「うち宝塚じゃないもん」
部長に真顔で返された。
「それは知ってますけど……」
納得したふりをしたけれど、べつに俺は全部女子がやったらいいとは言ってない。男とか女とか関係なく、演技力があってビジュアルに華のある人――つまり俺とは真逆の人が彼氏役をやればいいんじゃないかな〜と、思ったわけで。
非常階段の下。居残り練習中。
ほかの部員はさっさと帰ってしまった。
ひとりでなにやってんだろ。最初は何度もしょげそうになった。
幸い俺たちが練習場所にしている非常階段の上は屋上プールだ。人通りも少ないし、誰かが通ったとしても水泳部とその顧問くらいか。
もういいや。ここはバカになって練習したろ。
腰を直角に折り曲げて、頭を下げる。全身ミラーに向かい、全身全霊ピンと手を伸ばす。
「好きです! 付き合ってください!」
これでいいのか? わからない。とりあえずもっと勢いをつけて言ってみるか。
「好きです! 付き合ってください!」
声が降ってきたのは、そのときだった。
「いーよ」
ん? 誰の声?
頭を上げると、そこにいたのは同じクラスの柳井奏真だった。
柳井は水泳部。昨年のインターハイでは二百メートル個人メドレーで入賞し、校舎に垂れ幕がかけられるほどのエースだ。
ちょうど練習終わりにプールから階段を降りてきたらしい。赤いラインの入った黒のジャージの肩に、塩素で色の抜けた髪から水滴が落ちている。
ていうか、今『いーよ』って言わなかった? どういうこと? まさか告白の練習を柳井に言った……と思われたとか?
いやいやいや、ないってないって。こんなモブみたいなやつのいかにも練習って感じの風景見て、本気だと思うはずがないって。
「ごめん、邪魔だった?」
「邪魔って?」
「俺、結構大きな声出してたじゃん。うるさかったかなと思って」
「なんの話?」
いや、それはこっちのセリフなんですけど。
「練習の声がうるさくてごめんって言ったの!」
耳が遠いおじいちゃんに言うみたいに声を張った。こっちの言いたいこと、ちょっとは汲んでくれよ。
柳井はのんきな声で「俺うるさいとか言ってないけど」と言う。
「そ、それは……言葉のあやっていうか、遠回しにうるさいって言いたかったのかなーと」
「なんで?」
「な、なんでって」
違うのか? 今の『いーよ』は嫌味とかあてつけじゃないらしい。
噛み合わない話にもどかしさを覚え始めた矢先、柳井は言った。
「付き合うって話じゃないの」
「へ?」
「告白してきたじゃん。今」
「それはダンス部の練習! 柳井に言ってない!」
「でも目合った」
「は、俺と?」
「うん」
「どこで?」
「そこ」
柳井が指を差したのは全身ミラーだ。
「いや、合ってないよ!?」
高速で手を横に振る。ずっと自分の動きに集中していたし、鏡越しに柳井が近づいていたことさえ声が聞こえるまで気づかなかったんだから。
「合った」
なんでそんなにゴリ押ししてくるんだ。
柳井とは同じクラスだけど、席が遠いので喋る機会は少ない。中学も同じで、かつ水泳部でも一緒だったけど、そこでも柳井はスターだったからほとんど話すことはなかった。
こんなに勘違いしやすいタイプだったのか……。知らなかった。
「連絡先ってこれだっけ?」
中学の水泳部のグループチャットを開き、俺のアカウントを見せてくる。
「う、うん」
「登録した」
スタンプが送られてくる。
まじかよ。
大混乱の中、なんて言えば柳井の誤解を解くことができるか考える。そんな俺に向かって、柳井はスッと綺麗な手を差し出してくる。水泳をやっている人の水かきは大きくなるっていうけれど、柳井のそこはそうでもなかった。
「これからよろしくな」
涼しげに整った顔がほのかにゆるむ。
柳井に右手を握られながら、俺は天を仰いだ。
まじか。この告白、どうやって撤回したらいいんだよ。
「好きです! 付き合ってください!」
そんな相手が困りそうな告白、今どきするやついなくない?
寸劇はカップルの出会いから付き合うまでの物語らしい。そして男子部員は俺のひとりだけ。必然的に俺が彼氏役になった。
女子部員に囲まれて、断ることは許される雰囲気じゃなかった。しかもダンス部の部長が「告白するときさぁ、彼女に手を差し出したほうがよくない?」と言い出した。俺は壊滅レベルの演技力で、告白シーンを披露したんだ。
で、披露したらしたで「なんか違う」と言われるもんだから、精いっぱいの弁解をしたのがさっきのこと。
「俺、告白とかしたことないです」
「そんなの関係ないよー」
「寸劇でちょっとやるぐらいなら、女子でもよくないですか。彼氏役」
「うち宝塚じゃないもん」
部長に真顔で返された。
「それは知ってますけど……」
納得したふりをしたけれど、べつに俺は全部女子がやったらいいとは言ってない。男とか女とか関係なく、演技力があってビジュアルに華のある人――つまり俺とは真逆の人が彼氏役をやればいいんじゃないかな〜と、思ったわけで。
非常階段の下。居残り練習中。
ほかの部員はさっさと帰ってしまった。
ひとりでなにやってんだろ。最初は何度もしょげそうになった。
幸い俺たちが練習場所にしている非常階段の上は屋上プールだ。人通りも少ないし、誰かが通ったとしても水泳部とその顧問くらいか。
もういいや。ここはバカになって練習したろ。
腰を直角に折り曲げて、頭を下げる。全身ミラーに向かい、全身全霊ピンと手を伸ばす。
「好きです! 付き合ってください!」
これでいいのか? わからない。とりあえずもっと勢いをつけて言ってみるか。
「好きです! 付き合ってください!」
声が降ってきたのは、そのときだった。
「いーよ」
ん? 誰の声?
頭を上げると、そこにいたのは同じクラスの柳井奏真だった。
柳井は水泳部。昨年のインターハイでは二百メートル個人メドレーで入賞し、校舎に垂れ幕がかけられるほどのエースだ。
ちょうど練習終わりにプールから階段を降りてきたらしい。赤いラインの入った黒のジャージの肩に、塩素で色の抜けた髪から水滴が落ちている。
ていうか、今『いーよ』って言わなかった? どういうこと? まさか告白の練習を柳井に言った……と思われたとか?
いやいやいや、ないってないって。こんなモブみたいなやつのいかにも練習って感じの風景見て、本気だと思うはずがないって。
「ごめん、邪魔だった?」
「邪魔って?」
「俺、結構大きな声出してたじゃん。うるさかったかなと思って」
「なんの話?」
いや、それはこっちのセリフなんですけど。
「練習の声がうるさくてごめんって言ったの!」
耳が遠いおじいちゃんに言うみたいに声を張った。こっちの言いたいこと、ちょっとは汲んでくれよ。
柳井はのんきな声で「俺うるさいとか言ってないけど」と言う。
「そ、それは……言葉のあやっていうか、遠回しにうるさいって言いたかったのかなーと」
「なんで?」
「な、なんでって」
違うのか? 今の『いーよ』は嫌味とかあてつけじゃないらしい。
噛み合わない話にもどかしさを覚え始めた矢先、柳井は言った。
「付き合うって話じゃないの」
「へ?」
「告白してきたじゃん。今」
「それはダンス部の練習! 柳井に言ってない!」
「でも目合った」
「は、俺と?」
「うん」
「どこで?」
「そこ」
柳井が指を差したのは全身ミラーだ。
「いや、合ってないよ!?」
高速で手を横に振る。ずっと自分の動きに集中していたし、鏡越しに柳井が近づいていたことさえ声が聞こえるまで気づかなかったんだから。
「合った」
なんでそんなにゴリ押ししてくるんだ。
柳井とは同じクラスだけど、席が遠いので喋る機会は少ない。中学も同じで、かつ水泳部でも一緒だったけど、そこでも柳井はスターだったからほとんど話すことはなかった。
こんなに勘違いしやすいタイプだったのか……。知らなかった。
「連絡先ってこれだっけ?」
中学の水泳部のグループチャットを開き、俺のアカウントを見せてくる。
「う、うん」
「登録した」
スタンプが送られてくる。
まじかよ。
大混乱の中、なんて言えば柳井の誤解を解くことができるか考える。そんな俺に向かって、柳井はスッと綺麗な手を差し出してくる。水泳をやっている人の水かきは大きくなるっていうけれど、柳井のそこはそうでもなかった。
「これからよろしくな」
涼しげに整った顔がほのかにゆるむ。
柳井に右手を握られながら、俺は天を仰いだ。
まじか。この告白、どうやって撤回したらいいんだよ。

