雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

大学への進学と同時に、俺の生活保護は廃止手続きが取られた。
大学生は原則として保護の対象外になるという国のルールの通り、俺は世帯分離され、自分の力だけで食っていかなければならない身になった。

叔父の負担をこれ以上増やさないためにも、俺は役所で廃止の書類にサインした。
大学での講義の中身なんてどうでもいい。
ただ朝練と、講義が終わればすぐに炎炎の制服に着替え夜にはしっかりと家で眠るという、身体を削り、金を稼ぐだけの乾いた日常が、そこから始まった。

そんなある春の、晴れた週末のことだった。

「お兄ちゃん、行きたい場所がある」
リハビリが進み、少しずつ自分の足で歩けるようになった詩織が、スニーカーの紐を結びながら俺を見上げて言った。
詩織の口から告げられた住所を聞いた瞬間、俺の背筋に冷たい粟が立った。

そこは、俺が夏に一度だけ足を踏み入れた、あの和奏の家の住所だった。
「なんで……」
「最後にお礼を言いに行かなきゃ」
詩織の瞳にはしっかりとした意志があった。

俺は何も言わず、バッグの中に近所の洋菓子店で買ったケーキの箱と手荷物を詰め込んで、詩織を見送った。


――たどり着いたその場所は色褪せた二階建ての一軒家だった。
だが、敷地の周りには解体工事請負契約と書かれた白い看板が掲げられ、すでに庭の木々は無惨に切り倒されていた。
来週には重機が入り、この家は跡形もなく消え去るのだという。

インターホンを緊張した様子で押した。
「あの、和奏さんいますか~?瑞稀の妹の詩織です」