二月下旬、自宅のポストに届いた一通の茶封筒が、俺の合格を知らせていた。
後期スポーツ推薦、特例選考合格。
事務的な文字で印刷されたその紙切れ一枚が、俺のこれからの四年間を決定づけた。
あの面接室で、俺はバスケが好きだからなんて綺麗な志望動機は一言も言わなかった。
ただ、「俺にはこれしかない。他人の命の金で繋いでもらった首の皮一枚のチャンスを、無駄にするわけにはいかない」と、面接官の大人たちの目を真っ直ぐに見据えて言い放った。
その狂気にも似た執念が、彼らの心を動かしたのだろう。
それから一ヶ月後、三月。
校庭の桜の蕾がまだ固いままの、肌寒い日に卒業式を迎えた。
式が終わった後の教室は、進路が決まった連中が「合格おめでとう!」「マジで良かったな!」と抱き合い、スマホのカメラを向け合って、涙を流しながらお互いの合格を祝い合っていた。
眩しくて、騒がしくて、やっぱりどこか吐き気のするような、絵に描いたような青春の終わりの光景。
「おい、橘!」
人混みを掻き分けて、拓海と木村が俺の席に突っ込んできた。
二人の手には、すでに寄せ書きでパンパンになった制服の第二ボタンが握られている。
「聞いたぞ、お前マジで後期で体育大ぶち抜いたんだってな!監督から聞いた時はひっくり返りそうになったわ!本当に良かったな、橘。これでまた、お前のバスケが見られる。大学のリーグ戦、絶対に拓海先輩と応援に行くからよ」
「……ああ。ありがとな、お前ら」
俺は小さく笑って、二人の差し出してきた拳に、自分の拳を軽くぶつけた。
こいつらとは行く大学も、これから進む人生の濃度も違う。
俺は明日からも、焼肉屋炎炎で深夜まで網を洗い続け、詩織の手術費の分割分を払い、和奏が遺してくれた四百五十万円を学費として削りながら生きていく。
みんながサークルや合コンだと浮かれる春の裏側で、俺の泥水をすするような生活は何も変わらない。
だけど、この傷だらけの拳の温もりだけは、まやかしなんかじゃないと信じられた。
式を終え、俺は一人、静まり返ったアパートの部屋に戻った。
テーブルの上には、あの日からずっと置かれたままの、あの黄色いひまわりの髪留め。
触れると、やはり真冬の氷のように冷たい。
だけど、今の俺には、その絶対零度の冷たさこそが、世界で一番温かいエールのように思えた。
四月。
郊外にある大学のキャンパスへと続く並木道は、満開の桜のピンク色で埋め尽くされていた。
春の生ぬるい風が、新しい大きなカバンを背負った俺の頬を撫でていく。
周りを見渡せば、真新しいスーツや私服に身を包んだ新入生たちが、希望に満ちあふれた顔で初登校の門をくぐっていた。
俺のポケットの中には、あのオレンジ色のキーホルダーと、黄色いひまわりの髪留め。
俺たちの青春は、汗と涙の爽やかなストーリーなんかじゃない。
他人の冷笑に耐え、血の匂いのする現実を生き、死んだ幽霊の執着に背中を押されて進む、最低で、泥臭い独りよがりの人生だ。
だけど。見上げた空は雲一つない、残酷なほどの快晴だった。
俺はマフラーを外し、カバンの紐を強く握り直すと、眩しい光に満ちたキャンパスの門へと、力強く一歩を踏み出した。
後期スポーツ推薦、特例選考合格。
事務的な文字で印刷されたその紙切れ一枚が、俺のこれからの四年間を決定づけた。
あの面接室で、俺はバスケが好きだからなんて綺麗な志望動機は一言も言わなかった。
ただ、「俺にはこれしかない。他人の命の金で繋いでもらった首の皮一枚のチャンスを、無駄にするわけにはいかない」と、面接官の大人たちの目を真っ直ぐに見据えて言い放った。
その狂気にも似た執念が、彼らの心を動かしたのだろう。
それから一ヶ月後、三月。
校庭の桜の蕾がまだ固いままの、肌寒い日に卒業式を迎えた。
式が終わった後の教室は、進路が決まった連中が「合格おめでとう!」「マジで良かったな!」と抱き合い、スマホのカメラを向け合って、涙を流しながらお互いの合格を祝い合っていた。
眩しくて、騒がしくて、やっぱりどこか吐き気のするような、絵に描いたような青春の終わりの光景。
「おい、橘!」
人混みを掻き分けて、拓海と木村が俺の席に突っ込んできた。
二人の手には、すでに寄せ書きでパンパンになった制服の第二ボタンが握られている。
「聞いたぞ、お前マジで後期で体育大ぶち抜いたんだってな!監督から聞いた時はひっくり返りそうになったわ!本当に良かったな、橘。これでまた、お前のバスケが見られる。大学のリーグ戦、絶対に拓海先輩と応援に行くからよ」
「……ああ。ありがとな、お前ら」
俺は小さく笑って、二人の差し出してきた拳に、自分の拳を軽くぶつけた。
こいつらとは行く大学も、これから進む人生の濃度も違う。
俺は明日からも、焼肉屋炎炎で深夜まで網を洗い続け、詩織の手術費の分割分を払い、和奏が遺してくれた四百五十万円を学費として削りながら生きていく。
みんながサークルや合コンだと浮かれる春の裏側で、俺の泥水をすするような生活は何も変わらない。
だけど、この傷だらけの拳の温もりだけは、まやかしなんかじゃないと信じられた。
式を終え、俺は一人、静まり返ったアパートの部屋に戻った。
テーブルの上には、あの日からずっと置かれたままの、あの黄色いひまわりの髪留め。
触れると、やはり真冬の氷のように冷たい。
だけど、今の俺には、その絶対零度の冷たさこそが、世界で一番温かいエールのように思えた。
四月。
郊外にある大学のキャンパスへと続く並木道は、満開の桜のピンク色で埋め尽くされていた。
春の生ぬるい風が、新しい大きなカバンを背負った俺の頬を撫でていく。
周りを見渡せば、真新しいスーツや私服に身を包んだ新入生たちが、希望に満ちあふれた顔で初登校の門をくぐっていた。
俺のポケットの中には、あのオレンジ色のキーホルダーと、黄色いひまわりの髪留め。
俺たちの青春は、汗と涙の爽やかなストーリーなんかじゃない。
他人の冷笑に耐え、血の匂いのする現実を生き、死んだ幽霊の執着に背中を押されて進む、最低で、泥臭い独りよがりの人生だ。
だけど。見上げた空は雲一つない、残酷なほどの快晴だった。
俺はマフラーを外し、カバンの紐を強く握り直すと、眩しい光に満ちたキャンパスの門へと、力強く一歩を踏み出した。



