雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

「私ね、ずっとストーカーだったんだよ。橘くんが高校に入った時から、1年生の時から、ずっっっと、君のことだけを見てたの。体育館の窓から必死に練習してた橘くんを見て、あ、格好いいな、素敵だなって。つきまとってずっと遠くから眺めてた。……でも、話しかける勇気なんてなかったんだ」

和奏は鼻を真っ赤にして手で頬を覆う。

「なのにね……あの雨の日、私のパパの運転する車が橘くんの両親の車に衝突した。……私の家族のせいで橘くんの輝かしい青春も、家族も、妹さんの未来も、全部……全部めちゃくちゃになっちゃった。橘くんが部活を辞めて、生活保護になって、深夜ジムで床を拭きながら死にたいって顔をして泣いてるのを見た時、私本当に頭がおかしくなりそうだった……」

「和奏お前……」

「ごめんね……っ。めちゃくちゃにして本当にごめんね。謝っても、謝ってもだめなのになぁ……。私、どうしても橘くんに笑ってほしかったの。私のパパの保険金と遺された遺産、私にはもう使う身体がないから……だから、全部あげるって決めた」

使う身体がない。
その言葉の意味が、俺の脳を殴りつけた。

「私、あの事故の日にもう死んでるの」

和奏は笑みを浮かべた。
「病院のベッドで私の息が引き取られた瞬間……私の魂が橘くんの後悔に引っ張られて、この世界に留まっちゃったんだよ。幽霊になってもいいから、もう一度だけ橘くんと過ごしたかった。橘くんの隣で、生きてる人間のフリをしてまで、橘くんの顔が見たかった……ね、ごめん」

「すっごく……すっごく楽しかったよ……。……ありがと橘くん」
和奏は涙をボロボロと流しながら、俺の胸にその両手をそっと押し当てた。

「だから私のために、私の分までもう一度青春してよ」
日の光が部屋の中に差し込んできた。

「待て……!行くな、和奏!お前がいない青春なんて!!」
俺はバッグを放り出し、必死に手を伸ばしてあいつの身体を抱きしめようとした。

だけど気づいたときにはすでに和奏は、逃げるように走って玄関の前に立った。

「バイバイ橘くん。愛してる」
涙を流しながら微笑むその声を最後に、和奏の姿は外へと消え去った。

テーブルの上には、まだ温かい皿と。
あいつが最後までギュッと握りしめていたせいで、濡れそぼったあの黄色いひまわりの髪留めだけが遺されていた。

俺は床に崩れ落ち、そのキーホルダーを胸に抱きしめながら声が枯れるまで名前を叫んで泣き続けた。

外の空は、あいつが言った通りどこまでも突き抜けるような快晴だった。