雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

叔父は軽トラを路肩に止めると、後部座席からずっしりと古いボストンバッグを引きずり出し、俺の膝の上に置いた。
チャックを開けると、そこにあったのは、茶封筒に包まれた500万円の、生々しい現金の札束だった。

「瑞稀。個人からの単純な現金の受け取りとなれば、ここから50万円近くの贈与税が差し引かれることになる。その税金の壁まで見越して少し多めに用意された、あまりにも抜かりない金額だ。……瑞稀、お前この娘さんに心当たりがあるのか?」

500万円の現金。
その数字と、重すぎるバッグの感触。
学費免除なし、特待の推薦枠のみ。
実家から4年間、大学でバスケをするために必要な諸経費の合計。

その計算式と、驚くほどぴったり同じ金額。
「和奏……」
気づけば俺は軽トラのドアを開け、まだ雪の残る空の下へと飛び出していた。

「おい、瑞稀どこへ行くんだ!」
叔父の叫びを背中で聞きながら、俺は500万円のバッグを抱きしめ、マンションへ向かって狂ったように引きずった。

階段を上がり、鍵の開いたドアを激しく押し開ける。
薄暗い部屋の真ん中、いつもの椅子にあいつは座っていた。

和奏は、俺の激しい呼吸音を聞くと、ゆっくりと振り返った。
その顔には、いつも俺をからかう時の笑顔が浮かんでいた。

「おかえり、橘くん。ずいぶん血相変えてどうしたの!怖い顔しちゃってさ」

「……お前、何をした」
俺は和奏の前に歩み寄り、500万円の入ったバッグを床にドサリと叩きつけた。

「この500万円って、何の金だ。なんでお前が、あの事故の相手の……。俺にこんな現金を残せるんだよ。答えろ、和奏!」
和奏の笑顔がすっ、と消えた。

彼女はゆっくりと立ち上がり、俺の目を真っ直ぐに見つめ返した。
その指先は白い。

「……お願い、大学に行って、橘くん」
和奏の声は、震えていた。
いつもおちゃらけていたあいつが初めて見せる、切実な声だった。

「その五百万円があれば、贈与税を払ったって、4年間まともに大学に通えるよ。橘くんには、バスケをもう一度してもらいたいの。あの広いコートで、誰よりも眩しくボールを追いかけていたあの橘瑞稀に戻ってほしいの」

「ふざけるな!なんで他人の、それもお前みたいな出処の分からない金で、普通の青春に戻らなきゃいけないんだよ!俺は学校を辞めてやっていくって決めたんだ!」

「そんなことしなくていいんだよ!!」
和奏が、生まれて初めて、俺に向かって声を荒らげた。
その拍子に、目から大粒の涙がポロポロと畳の上に落ちていく。

「……説明する。説明するから、聞いて」
和奏は、制服の袖口で、めちゃくちゃに目の周りを擦り始めた。

だけど、溢れ出てくる涙は全然止まらない。
紺色の袖口が、瞬く間に黒い跡で濡れていく。