夕闇が迫る通学路を一人で歩く。
住宅街の路地はひっそりと静まり返っていた。
マンションの階段を上がり、ドアの鍵を開けて部屋に入る。
いつもなら、叔父が仕事に出て静まり返っているはずの薄暗い空間に香ばしい醤油と生姜の香りが漂っていた。
「おかえり、橘くん。遅かったじゃん。また拓海先輩たちに捕まってたの?」
キッチンから顔を覗かせたのは、いつもと変わらない、お調子者の張り付いた笑顔を浮かべた和奏だった。
その手には、俺の好物である唐揚げの乗った皿が握られている。
部屋には、叔父が置いていった古い扇風機が首を振る音だけが響いていた。
ほとんど何もない、あの和奏の家と同じような、生活の気配の薄い静かな部屋。
だけど、そこには和奏がいて、俺のために飯を作って待ってくれていた。
「……和奏。詩織の手術、成功したよ」
カバンを床に置き、俺はただ真っ直ぐに彼女を見つめて言った。
和奏は、皿をテーブルに置くと、ふっと目を細めて柔らかく笑った。
その瞳の奥にはどこまでも澄んだ光が宿っている。
「うん、知ってる。……本当に、良かったね」
「病院の先生が言ってた。詩織の脳波が昏睡の底から急に覚醒を始めたのは、2週間くらい前からだって。……お前が、病室で詩織の手を握って、大丈夫だって囁いたあの日からだ」
俺は一歩、和奏の方へと歩み寄った。
和奏はうつむいて少し寂しそうな声でつぶやいた。
「私ね、橘くんが笑ってくれたから、もう本当に、何でもいいから!……これで、私の役目は終わり。もう冷たい雨は止んだよ、お兄ちゃん」
住宅街の路地はひっそりと静まり返っていた。
マンションの階段を上がり、ドアの鍵を開けて部屋に入る。
いつもなら、叔父が仕事に出て静まり返っているはずの薄暗い空間に香ばしい醤油と生姜の香りが漂っていた。
「おかえり、橘くん。遅かったじゃん。また拓海先輩たちに捕まってたの?」
キッチンから顔を覗かせたのは、いつもと変わらない、お調子者の張り付いた笑顔を浮かべた和奏だった。
その手には、俺の好物である唐揚げの乗った皿が握られている。
部屋には、叔父が置いていった古い扇風機が首を振る音だけが響いていた。
ほとんど何もない、あの和奏の家と同じような、生活の気配の薄い静かな部屋。
だけど、そこには和奏がいて、俺のために飯を作って待ってくれていた。
「……和奏。詩織の手術、成功したよ」
カバンを床に置き、俺はただ真っ直ぐに彼女を見つめて言った。
和奏は、皿をテーブルに置くと、ふっと目を細めて柔らかく笑った。
その瞳の奥にはどこまでも澄んだ光が宿っている。
「うん、知ってる。……本当に、良かったね」
「病院の先生が言ってた。詩織の脳波が昏睡の底から急に覚醒を始めたのは、2週間くらい前からだって。……お前が、病室で詩織の手を握って、大丈夫だって囁いたあの日からだ」
俺は一歩、和奏の方へと歩み寄った。
和奏はうつむいて少し寂しそうな声でつぶやいた。
「私ね、橘くんが笑ってくれたから、もう本当に、何でもいいから!……これで、私の役目は終わり。もう冷たい雨は止んだよ、お兄ちゃん」



