夕日が迫る通学路を1人で歩く。
住宅街の路地はひっそりと静まり返っていた。
マンションの階段を上がり、ドアの鍵を開けて部屋に入る。
いつもなら薄暗い空間に、今日は香ばしい醤油と生姜の香りが漂っていた。
「おかえり、橘くん遅かったじゃん。また拓海先輩たちに捕まってたの?」
キッチンから顔を覗かせたのは、いつもと変わらないお調子者の笑顔を浮かべた和奏だった。
その手には、俺の好物である餃子の乗った皿が握られている。
部屋には、叔父が置いていった古い扇風機が首を振る音だけが響いていた。
ほとんど何もない生活の気配の薄い部屋。
だけど、そこには和奏がいて、俺のために飯を作って待ってくれていた。
「……和奏。詩織の手術、成功したよ」
カバンを床に置き、俺はただ真っ直ぐに彼女を見つめて言った。
和奏は、皿をテーブルに置くと、ふっと目を細めて柔らかく笑った。
その瞳の奥には澄んだ光が宿っている。
「うん、知ってる。……良かったね」
「病院の先生が言ってた。詩織の脳波が昏睡の底から急に覚醒を始めたのは、すこし前からだって。……お前が、病室で詩織の手を握って、大丈夫だって囁いたあのおかげだろうな」
俺は一歩、和奏の方へと歩み寄った。
和奏はうつむいて少し寂しそうな声でつぶやいた。
「うれしいな……。……これで、私の役目は終わり。もう冷たい雨は止んだよ、お兄ちゃん」
住宅街の路地はひっそりと静まり返っていた。
マンションの階段を上がり、ドアの鍵を開けて部屋に入る。
いつもなら薄暗い空間に、今日は香ばしい醤油と生姜の香りが漂っていた。
「おかえり、橘くん遅かったじゃん。また拓海先輩たちに捕まってたの?」
キッチンから顔を覗かせたのは、いつもと変わらないお調子者の笑顔を浮かべた和奏だった。
その手には、俺の好物である餃子の乗った皿が握られている。
部屋には、叔父が置いていった古い扇風機が首を振る音だけが響いていた。
ほとんど何もない生活の気配の薄い部屋。
だけど、そこには和奏がいて、俺のために飯を作って待ってくれていた。
「……和奏。詩織の手術、成功したよ」
カバンを床に置き、俺はただ真っ直ぐに彼女を見つめて言った。
和奏は、皿をテーブルに置くと、ふっと目を細めて柔らかく笑った。
その瞳の奥には澄んだ光が宿っている。
「うん、知ってる。……良かったね」
「病院の先生が言ってた。詩織の脳波が昏睡の底から急に覚醒を始めたのは、すこし前からだって。……お前が、病室で詩織の手を握って、大丈夫だって囁いたあのおかげだろうな」
俺は一歩、和奏の方へと歩み寄った。
和奏はうつむいて少し寂しそうな声でつぶやいた。
「うれしいな……。……これで、私の役目は終わり。もう冷たい雨は止んだよ、お兄ちゃん」



