俺はあるマンションのリビングで呆然としていた。
自分の家。そこはもう、かつてのような賑やかさはなく、まるで誰も住んでいない廃墟のような静けさだけが重く横たわっていた。
ほんの数ヶ月前までは、遠征から帰るたびに詩織の「お兄ちゃん、おかえり!」といううるさいほどの声が響き、キッチンからは母親が夕飯を作る包丁の音が聞こえていたはずだった。
なのに今のこの部屋にあるのは、カーテンの隙間から差し込む、容赦なく部屋の埃を照らし出す夏の眩しい太陽の光だけ。
床に無造作に転がったバッシュの箱、壁に掛けられたままの古いカレンダー。
すべてが、あの豪雨の夜で時を止めたまま、ゆっくりと腐敗していっているようだった。
詩織は、いまも市内の病院のベッドの上で、深い昏睡状態のまま眠り続けている。
両親が遺したわずかな保険金や貯金は、これまでの入院費や葬儀の費用でほとんど底を突きかけていた。
高校三年生に進級したばかりのこの夏、俺は叔父の助けを借りて役所に通い、生活保護の受給手続きを済ませた。
生きるため、そして詩織の治療費を少しでも多く残すために、俺は自分の食費を極限まで削り、すべての物欲を捨てて、暗いリビングのソファでただ一日中、死んだように天井を見つめるだけの存在になっていた。
俺の人生は、もう終わったんだ。そう自分に言い聞かせ、重い瞼を閉じようとした。
その時だった。
「……あーあ。せっかくのあったかいお惣菜が、そんな暗い顔のせいで冷めちゃうじゃん」
突如として頭上から降ってきた、場違いなほど明るい少女の声に、俺の心臓が冷たく跳ね上がった。
慌てて跳ね起きると、パイプ椅子に、見たこともない女子生徒がちょこんと腰掛けていた。
薄手の夏服の制服。
胸元には、俺と同じ高校のネクタイがある。
けれど、全く見覚えのない顔だった。
リビングのドアは閉まっていたはずだ。
何より、玄関の鍵は俺が自分の手で確実に閉めた。
ノックの音すら、しなかったはずなのに。
「お前……誰だよ。どこから入った」
恐怖と困惑で、喉の奥が引き攣る。
不審者というには、目の前の少女はあまりにも自然に、我が物顔でそこに居座っていた。
俺の問いかけを完全に無視して、彼女は持っていたコンビニの袋から、まだプラスチックの容器がじんわりと曇っている、湯気の立つ肉じゃがのパックを取り出した。
廃墟のようだったリビングに、場違いなほど優しい、出汁の香りがふわりと広がる。
「同じ学校。他クラスの和奏だよ。はい、これ、差し入れあげる」
「勝手に入るな、出ていけ! 警察を呼ぶぞ!」
自分の家。そこはもう、かつてのような賑やかさはなく、まるで誰も住んでいない廃墟のような静けさだけが重く横たわっていた。
ほんの数ヶ月前までは、遠征から帰るたびに詩織の「お兄ちゃん、おかえり!」といううるさいほどの声が響き、キッチンからは母親が夕飯を作る包丁の音が聞こえていたはずだった。
なのに今のこの部屋にあるのは、カーテンの隙間から差し込む、容赦なく部屋の埃を照らし出す夏の眩しい太陽の光だけ。
床に無造作に転がったバッシュの箱、壁に掛けられたままの古いカレンダー。
すべてが、あの豪雨の夜で時を止めたまま、ゆっくりと腐敗していっているようだった。
詩織は、いまも市内の病院のベッドの上で、深い昏睡状態のまま眠り続けている。
両親が遺したわずかな保険金や貯金は、これまでの入院費や葬儀の費用でほとんど底を突きかけていた。
高校三年生に進級したばかりのこの夏、俺は叔父の助けを借りて役所に通い、生活保護の受給手続きを済ませた。
生きるため、そして詩織の治療費を少しでも多く残すために、俺は自分の食費を極限まで削り、すべての物欲を捨てて、暗いリビングのソファでただ一日中、死んだように天井を見つめるだけの存在になっていた。
俺の人生は、もう終わったんだ。そう自分に言い聞かせ、重い瞼を閉じようとした。
その時だった。
「……あーあ。せっかくのあったかいお惣菜が、そんな暗い顔のせいで冷めちゃうじゃん」
突如として頭上から降ってきた、場違いなほど明るい少女の声に、俺の心臓が冷たく跳ね上がった。
慌てて跳ね起きると、パイプ椅子に、見たこともない女子生徒がちょこんと腰掛けていた。
薄手の夏服の制服。
胸元には、俺と同じ高校のネクタイがある。
けれど、全く見覚えのない顔だった。
リビングのドアは閉まっていたはずだ。
何より、玄関の鍵は俺が自分の手で確実に閉めた。
ノックの音すら、しなかったはずなのに。
「お前……誰だよ。どこから入った」
恐怖と困惑で、喉の奥が引き攣る。
不審者というには、目の前の少女はあまりにも自然に、我が物顔でそこに居座っていた。
俺の問いかけを完全に無視して、彼女は持っていたコンビニの袋から、まだプラスチックの容器がじんわりと曇っている、湯気の立つ肉じゃがのパックを取り出した。
廃墟のようだったリビングに、場違いなほど優しい、出汁の香りがふわりと広がる。
「同じ学校。他クラスの和奏だよ。はい、これ、差し入れあげる」
「勝手に入るな、出ていけ! 警察を呼ぶぞ!」



