遠ざかっていく後輩が、夜の帳に完全に吸い込まれて消えた。
しんと静まり返った。
アスファルトの上に無残に散らばった百万円の札束が、街灯の鈍い光を浴びて、まるで深海に沈む不気味な魚の鱗のようにきらついている。
「……は、っ、……あ、」
喉の奥から、まともな形を成さない悲鳴のような呼吸が漏れた。
後輩が去ったというのに、俺の身体の硬直は解けない。
むしろ、一度外されてしまった制服のボタン、肌に直接触れたあの生温かい狂気の感触が、脳内で何度も何度もフラッシュバックして、全身がガタガタと目に見えて震え始めていた。
足の筋力が完全に死んでいた。
崩れ落ちそうになる俺の身体を、「ちょっと、橘くん。しっかりして」
横から滑り込んできた小さな身体が、がっしりと優しく受け止めた。
和奏だった。
彼女は散らばった札束には目もくれず、ただ俺の剥き出しになった胸元を隠すように、自分の両手で俺の制服の襟をきゅっと合わせる。
「……冷た、い」
俺の口から、掠れた声が出た。
俺を支える和奏の肌は、やっぱり万年氷のように冷え切っている。
だけど、その冷気が、今の俺の熱くなったパニック脳には、驚くほど心地よく、現実を引き止める唯一の錨のように感じられた。
和奏は何も言わなかった。
いつもなら「ちょっと何やってるのあの子!ストーキングなら私の専売特許なのに!」とか何とか、騒がしく捲し立てるはずの彼女が、今夜はひどく静かだった。
ただ、今にも消えてしまいそうなほどに悲痛な瞳で、俺の震える顔を見つめている。
「……部屋、行こ。ね?」
和奏の声に、俺は小さく頷くことしかできなかった。
和奏は俺の腕を自分の肩に回し、ほとんど体重を預ける形になった俺を、一歩一歩、支えながらマンションの階段を上っていく。
自分の部屋のドアを開け、暗い玄関に転がり込むようにして入った瞬間、俺はそのまま玄関の床にへたり込んでしまった。
暗闇の中、和奏が静かに電気を点ける。
パッと広がった蛍光灯の光の下で、俺は自分の膝を抱え、ただ子供のように小さくなって震えを堪えていた。
後輩のあの異常な性的な境界線の侵害、そして自分のせいでまた他人が壊れたという終わりのない呪い。
それらが、俺の心をズタズタに切り裂いていた。
そんな俺の前に、和奏が静かに膝をついた。
彼女は自分の上着を脱ぐと、それを俺の頭からすっぽりと被せる。
しんと静まり返った。
アスファルトの上に無残に散らばった百万円の札束が、街灯の鈍い光を浴びて、まるで深海に沈む不気味な魚の鱗のようにきらついている。
「……は、っ、……あ、」
喉の奥から、まともな形を成さない悲鳴のような呼吸が漏れた。
後輩が去ったというのに、俺の身体の硬直は解けない。
むしろ、一度外されてしまった制服のボタン、肌に直接触れたあの生温かい狂気の感触が、脳内で何度も何度もフラッシュバックして、全身がガタガタと目に見えて震え始めていた。
足の筋力が完全に死んでいた。
崩れ落ちそうになる俺の身体を、「ちょっと、橘くん。しっかりして」
横から滑り込んできた小さな身体が、がっしりと優しく受け止めた。
和奏だった。
彼女は散らばった札束には目もくれず、ただ俺の剥き出しになった胸元を隠すように、自分の両手で俺の制服の襟をきゅっと合わせる。
「……冷た、い」
俺の口から、掠れた声が出た。
俺を支える和奏の肌は、やっぱり万年氷のように冷え切っている。
だけど、その冷気が、今の俺の熱くなったパニック脳には、驚くほど心地よく、現実を引き止める唯一の錨のように感じられた。
和奏は何も言わなかった。
いつもなら「ちょっと何やってるのあの子!ストーキングなら私の専売特許なのに!」とか何とか、騒がしく捲し立てるはずの彼女が、今夜はひどく静かだった。
ただ、今にも消えてしまいそうなほどに悲痛な瞳で、俺の震える顔を見つめている。
「……部屋、行こ。ね?」
和奏の声に、俺は小さく頷くことしかできなかった。
和奏は俺の腕を自分の肩に回し、ほとんど体重を預ける形になった俺を、一歩一歩、支えながらマンションの階段を上っていく。
自分の部屋のドアを開け、暗い玄関に転がり込むようにして入った瞬間、俺はそのまま玄関の床にへたり込んでしまった。
暗闇の中、和奏が静かに電気を点ける。
パッと広がった蛍光灯の光の下で、俺は自分の膝を抱え、ただ子供のように小さくなって震えを堪えていた。
後輩のあの異常な性的な境界線の侵害、そして自分のせいでまた他人が壊れたという終わりのない呪い。
それらが、俺の心をズタズタに切り裂いていた。
そんな俺の前に、和奏が静かに膝をついた。
彼女は自分の上着を脱ぐと、それを俺の頭からすっぽりと被せる。



