「うーん、夕方の時間帯で高時給となると、やっぱりちょっと体を使う肉体労働系か、あるいは特殊な技術系だよね。橘くん、バスケで鍛えた体力とガタイの良さは一級品だし、ジムのマシンの扱いもこの二週間で覚えたでしょ?」
和奏は人差し指を顎に当てて、ブツブツと呟きながら脳内のデータベースを検索し始める。
「たとえばさ、大型の高級商業施設とかの、閉館前夕方シフトの施設管理・巡回スタッフはどうかな?基本的には館内を歩いて不審者がいないか見回ったり、閉館間際にエスカレーターの停止を確認したりする仕事。これなら夕方から夜の時間帯だし、警備系だから普通の飲食店より時給が高め設定されてることが多いんだよ。人と話すのも、迷子の子供を案内する時くらいだし」
「施設管理か……。悪くないな。深夜のジムと違って、完全に一人きりじゃない分、何かあっても対応しやすいしな」
「でしょ? あとはね……学校の近くにある、会員制の高級インドアテニススクールやゴルフ練習場の、夕方からのフロント・球拾い・器具メンテナンススタッフ!ああいうスポーツ施設って、夕方から仕事帰りの大人がたくさん来るから忙しいんだけど、橘くんみたいにスポーツの経験があって、体格が良くて、真面目に黙々と動いてくれる高校生なら、大人の会員さんたちからのウケも絶対にいいと思うんだよね。時給も、普通のコンビニよりずっと破格だよ」
和奏の提示するアイデアは、どれも相変わらず驚くほど的を射ていた。
ただ闇雲に高収入と検索していた俺のボロボロのスマホの画面とは違って、彼女の言葉には、俺という人間の強みと弱みをすべて理解した上での、明確な意図が詰まっている。
「……お前、本当にすげえな。なんでそんなに色んなバイトの事情を知ってんだよ」
俺が呆れたように、だけど心からの感心を込めて呟くと、和奏は嬉しそうに胸を張った。
「言ったでしょ?女の子には色んな秘密があるの!橘くんが効率よく稼いで、夜はちゃんと眠れて、それでもって詩織ちゃんのための最強の更生資金を貯められるように、私、今日からまた全力でリサーチしちゃう」
そう言って、和奏は自分のコップの麦茶をゴクゴクと飲み干した。
カラン、と氷が心地よい音を立てる。
目の前にある、空になったお味噌汁のお椀。
ノートに書き連ねられた、これからの現実的な数字と、新しい未来の選択肢。
民間保険が使えない絶望も、生活保護の厳しい縛りも、この世界の理不尽さも、何一つ消え去ってはいない。
だけど、隣で一緒に怒り、一緒に考え、ひまわりのように笑ってくれるあいつがいるだけで、俺の胸の中のモヤモヤは、驚くほど綺麗に晴れ渡っていくのだった。
「……ありがとう、和奏。明日からのお弁当も、それから新しいバイト探しも、……全部、よろしく頼むわ」
俺が少しだけ声を和らげてそう告げると、和奏は一瞬きょとんとした後、顔を一気に真っ赤に染めてジタバタとし始めた。
「ひゃあ!?な、なにそれ急に素直に頼み込んできて、しかも私の名前をそんな優しい声で呼ぶのだめ!心臓に悪いから、もう一回言って!」
「二度は言わないって。早く支度しろ、遅刻するぞ」
「えー!橘くんのケチ!意地悪!貯金マシーン!」
いつも通りの、騒がしくて、騒々しいやり取り。
俺たちはローテーブルの上を素早く片付けると、夏の眩しい太陽が昇り始めた朝の街へと、並んで歩き出した。
和奏は人差し指を顎に当てて、ブツブツと呟きながら脳内のデータベースを検索し始める。
「たとえばさ、大型の高級商業施設とかの、閉館前夕方シフトの施設管理・巡回スタッフはどうかな?基本的には館内を歩いて不審者がいないか見回ったり、閉館間際にエスカレーターの停止を確認したりする仕事。これなら夕方から夜の時間帯だし、警備系だから普通の飲食店より時給が高め設定されてることが多いんだよ。人と話すのも、迷子の子供を案内する時くらいだし」
「施設管理か……。悪くないな。深夜のジムと違って、完全に一人きりじゃない分、何かあっても対応しやすいしな」
「でしょ? あとはね……学校の近くにある、会員制の高級インドアテニススクールやゴルフ練習場の、夕方からのフロント・球拾い・器具メンテナンススタッフ!ああいうスポーツ施設って、夕方から仕事帰りの大人がたくさん来るから忙しいんだけど、橘くんみたいにスポーツの経験があって、体格が良くて、真面目に黙々と動いてくれる高校生なら、大人の会員さんたちからのウケも絶対にいいと思うんだよね。時給も、普通のコンビニよりずっと破格だよ」
和奏の提示するアイデアは、どれも相変わらず驚くほど的を射ていた。
ただ闇雲に高収入と検索していた俺のボロボロのスマホの画面とは違って、彼女の言葉には、俺という人間の強みと弱みをすべて理解した上での、明確な意図が詰まっている。
「……お前、本当にすげえな。なんでそんなに色んなバイトの事情を知ってんだよ」
俺が呆れたように、だけど心からの感心を込めて呟くと、和奏は嬉しそうに胸を張った。
「言ったでしょ?女の子には色んな秘密があるの!橘くんが効率よく稼いで、夜はちゃんと眠れて、それでもって詩織ちゃんのための最強の更生資金を貯められるように、私、今日からまた全力でリサーチしちゃう」
そう言って、和奏は自分のコップの麦茶をゴクゴクと飲み干した。
カラン、と氷が心地よい音を立てる。
目の前にある、空になったお味噌汁のお椀。
ノートに書き連ねられた、これからの現実的な数字と、新しい未来の選択肢。
民間保険が使えない絶望も、生活保護の厳しい縛りも、この世界の理不尽さも、何一つ消え去ってはいない。
だけど、隣で一緒に怒り、一緒に考え、ひまわりのように笑ってくれるあいつがいるだけで、俺の胸の中のモヤモヤは、驚くほど綺麗に晴れ渡っていくのだった。
「……ありがとう、和奏。明日からのお弁当も、それから新しいバイト探しも、……全部、よろしく頼むわ」
俺が少しだけ声を和らげてそう告げると、和奏は一瞬きょとんとした後、顔を一気に真っ赤に染めてジタバタとし始めた。
「ひゃあ!?な、なにそれ急に素直に頼み込んできて、しかも私の名前をそんな優しい声で呼ぶのだめ!心臓に悪いから、もう一回言って!」
「二度は言わないって。早く支度しろ、遅刻するぞ」
「えー!橘くんのケチ!意地悪!貯金マシーン!」
いつも通りの、騒がしくて、騒々しいやり取り。
俺たちはローテーブルの上を素早く片付けると、夏の眩しい太陽が昇り始めた朝の街へと、並んで歩き出した。



