「……ん、ぅ……」
毛布が擦れる音と一緒に、和奏が小さく身悶えした。
ゆっくりと開かれた大きな瞳が、数回パチパチと瞬きを繰り返した後、フローリングに座り込んだままの俺の姿を捉える。
「あ……橘、くん……?ずっとそこで起きてたの?」
和奏は上半身をのっそりと起こすと、寝ぼけ眼の手でゴシゴシと目を擦った。
「……別に。寝違えたら嫌だから、ここで壁に寄りかかってただけだ」
「目がすっごく充血してるもん。……もしかして、私の寝顔に見とれて眠れなくなっちゃった?」
起きて数十秒しか経っていないというのに、和奏はすぐにいつもの調子を取り戻して、笑顔を浮かべてみせた。
「アホか。お前の寝相が悪すぎて、蹴飛ばされないか警戒してたんだよ」
「ひどーい!私はおしとやかに眠る深窓の令嬢!」
和奏は頬を膨らませると、ソファから床へとズリズリと這い下りてきて、俺のすぐ隣に座った。
真夏の朝は、すでに熱を帯び始めている。
それからのこと。二人は話したいことはたくさんあるはずなのに、今は何も言わなくても、お互いの体温だけで全てが通じ合っているような、そんな錯覚さえ覚える。
「橘くん」
和奏が澄んだ声で呟いた。
「……何だ」
「お腹、空いたね」
「……そうだな。お前、何か作れるのか」
「失礼な!橘くんの胃袋を掴んだ私を侮らないで。……ちょっと待ってて、最高の朝ごはん作ってあげるから」
和奏は勢いよく立ち上がると、髪を揺らしながらキッチンへと向かっていった。
トントン、と小気味よい包丁の音が、静かな朝の家に響き始める。
それは、かつて俺が失ってしまった、そしてもう二度と手に入らないと思っていた、ごく普通の、ありふれた温かい日常の音だった。
毛布が擦れる音と一緒に、和奏が小さく身悶えした。
ゆっくりと開かれた大きな瞳が、数回パチパチと瞬きを繰り返した後、フローリングに座り込んだままの俺の姿を捉える。
「あ……橘、くん……?ずっとそこで起きてたの?」
和奏は上半身をのっそりと起こすと、寝ぼけ眼の手でゴシゴシと目を擦った。
「……別に。寝違えたら嫌だから、ここで壁に寄りかかってただけだ」
「目がすっごく充血してるもん。……もしかして、私の寝顔に見とれて眠れなくなっちゃった?」
起きて数十秒しか経っていないというのに、和奏はすぐにいつもの調子を取り戻して、笑顔を浮かべてみせた。
「アホか。お前の寝相が悪すぎて、蹴飛ばされないか警戒してたんだよ」
「ひどーい!私はおしとやかに眠る深窓の令嬢!」
和奏は頬を膨らませると、ソファから床へとズリズリと這い下りてきて、俺のすぐ隣に座った。
真夏の朝は、すでに熱を帯び始めている。
それからのこと。二人は話したいことはたくさんあるはずなのに、今は何も言わなくても、お互いの体温だけで全てが通じ合っているような、そんな錯覚さえ覚える。
「橘くん」
和奏が澄んだ声で呟いた。
「……何だ」
「お腹、空いたね」
「……そうだな。お前、何か作れるのか」
「失礼な!橘くんの胃袋を掴んだ私を侮らないで。……ちょっと待ってて、最高の朝ごはん作ってあげるから」
和奏は勢いよく立ち上がると、髪を揺らしながらキッチンへと向かっていった。
トントン、と小気味よい包丁の音が、静かな朝の家に響き始める。
それは、かつて俺が失ってしまった、そしてもう二度と手に入らないと思っていた、ごく普通の、ありふれた温かい日常の音だった。



