雨色な君の心に半透明な傘を翳すころ

冷たい。
本当に、自分でも嫌になるくらい冷たい人間だと思う。

中央廊下に戻り、自分の教室の前まで戻ってきた、その時だった。
「へえー。テリトリーには先客がいる、ねぇ?」

背筋に、凍りつくような冷気が走った。
ハッとして振り返ると、教室のドアの影から和奏がじっとこちらを睨みつけていた。

「わ、和奏……?お前、なんでそこに」
「見てたよ。ぜーんぶ見てましたー!橘くん!超絶清楚系美少女からの告白じゃん!しかも何そのかっこいい断り方!先客がいるから空いてないって、それ、私のこと!?」

和奏はいつもよりさらに3オクターブくらい高いトーンで大騒ぎしながら、俺の目の前まで一気に詰め寄ってきた。
近すぎる。
お風呂上がりの時と同じ、ほんのり甘いシャンプーの匂いが鼻をくすぐって、俺は思わず後ずさりした。

「うるさい、声がデカい。みんな見てるだろ」
「見られてもいいもーん!私は怒ってます!猛烈にジェラシーを感じております!橘くんが他の女の子と二人きりで内緒のお話してたの、すっごくすっごくムカついたし」

和奏はぷくっと頬を膨らませると、両手で俺の制服の袖をぎゅっと、引きちぎらんばかりの力で掴み、俺を人気のない階段の踊り場へと強引に引っ張っていった。

壁際に押し付けられる。
和奏は上目遣いで、今にも泣き出しそうな瞳で俺の顔を見つめてきた。

「ねえ、橘くん。あの子の方が可愛かった?あんなに髪の毛長くて、おしとやかで、私の100倍くらい女の子らしくて……橘くん、本当はあっちの方が良かった?」
「……そんなわけないだろ。変な邪推するな」

「じゃあなんで私の顔見てくれないの!あんな可愛い子に優しく告白されて、ちょっとはドキドキしちゃったでしょ!?」
詰め寄ってくる和奏の唇が、小刻みに震えている。

いつもお調子者なこいつが今、ガチで余裕をなくして醜い嫉妬を俺にぶつける。
その執着が、どうしようもないくらい愛おしくて俺の胸を温かく弾ませた。

俺はため息を吐きながら、和奏の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「……ドキドキなんかしてない。俺があいつの話をしてるときに、誰の顔を思い出してたか、お前には分からないのか」
「……?」

和奏が、一瞬だけ丸い目をパチクリとさせた。
「うるさくて、お節介で、毎日ストーカーみたいに箱持って突撃してくる、バカみたいに明るい他クラスの女子の顔だよ。……あいつ以外の奴の飯を食う余裕なんて、俺にはない」

「橘、くん……」
一気に言葉を吐き出すと、和奏の顔が、耳の裏まで一気に真っ赤に染まっていくのが分かった。

あいつは掴んでいた俺の袖を離すと、両手で自分の顔を覆い隠し、ベンチの上で小さくなるみたいに、体を縮こまらせた。

「な、なにそれ……急に特大のデレをぶち込んでくるの……。心臓がバクバクして破裂……しそ……」
「……お前がしつこく詰めてくるからだろ」

「ん……うれしい……。じゃあさ、じゃあさ、ご褒美に、頭ポンポンして?はい」
和奏は顔を覆っていた手を少しだけ広げて、指の隙間からキラキラした目を覗かせながら、頭を差し出してきた。
ハーフアップの髪で、ひまわりの髪留めが夕日に照らされて小さく揺れている。